野ざらし忍法帖 風太郎忍法帖(13)

野ざらし忍法帖 風太郎忍法帖(13) 『野ざらし忍法帖 風太忍法帖(13)』

山田風太郎

判型:文庫判

レーベル:講談社文庫

版元:講談社

発行:1999年9月15日

isbn:4062646714

本体価格:514円

商品ページ:[bk1amazon]

 講談社文庫版短篇集成第二弾。第一弾『かげろう忍法帖』の項目でも触れたとおり、構成的に『かげろう〜』と一貫性を持たせるため、収録作は「忍者〜」の題名で纏められている。だが個々の作風は例によって百花繚乱の趣がある。以下、各編の解説。

『忍者服部半蔵

  徳川家乱波(らっぱ)組の頭領・服部半蔵には頭痛の種があった。忍者の適正に欠き放蕩暮らしをする弟・服部京八郎である。不義の罪で手討ちにした部下に京八郎を放置していることを糾弾され、いよいよもって京八郎をどうにかせねば、と半蔵は焦る。その矢先に、京八郎が市井の女を娶りたい、と言い出し、半蔵はこれを大義に京八郎に修行を強要せんと画策するが――

 忍法帖シリーズでは長短編を問わず脇役として頻繁に登場する服部半蔵の、二代目を主人公とする物語。忍者の掟、という峻厳な世界を描きながら、地位というものの重みと虚しさを巧妙に剔出する。『かげろう忍法帖』収録の『忍者本多佐渡守』との絡みを想像しながら読むのも一興である。

『忍者枯葉塔九郎』

 筧隼人は駆け落ち一年目にして恋女房・お圭を煩わしく思い始めていた。あまりに武家としての誇りに執心するお圭を、隼人は鳥取にて貧乏を理由に遊女屋に売り渡すことを考える。それを偶々聞き咎めた枯葉塔九郎が、隼人に不気味な提案を持ちかけてきた。鳥取久松城で近々行われる、新規召し抱えを目的とした御用試合で自分は隼人にわざと負ける、その代わりにお圭を己に売り渡してはくれまいか、と――

 忍法帖と言うより忍者という化け物を相手取った恐怖譚という風情。あまりに身勝手で振る舞いの横暴な筧隼人にはあまり同情は湧かないのだが、枯葉塔九郎の駆る忍術の不気味さ、そして知らぬ間に筧の理解からはみ出していくお圭の行動。終始まとわりつくおぞましさは、「忍法帖」であると同時に「ホラー」とも呼べはしまいか。

『忍者梟無左衛門』

 田沼山城守意知が、御納戸方頭村上周防の娘・いさに目を付けた。周防の部下に当たり、いさに少なからず含むところのある梟無左衛門は愕然とする。いさには想いを寄せる男子があるが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの田沼家の申し出を拒むことは出来ない。窮余の一策として、無左衛門は封印していた忍術を用い、いさの躰に一時的な貞操帯を施す。果たして、山城守の元に送られたいさは三日後に返され、無左衛門らの計略は実を結んだかに見えたが……

 本書では太平の世に存在意義を失い、落日にある忍者たちの物語が数編収められており、本編がその第一である。短篇としては徹頭徹尾計算され尽くした伏線の妙を堪能して戴きたいが、他方梟無左衛門の、いさとその母親、二代に対する横恋慕の悲劇的な成就と読むこともできる。いずれにしてもこの深い無情感は長篇に引けを取らない。

『忍者帷子万助』

 戸祭藩に忽然と現れた室賀人参斎、娘の三登利、加えて帷子万助の三名は、一応お抱えの医師として藩から扶持を受けているが、実体は幕府から送り込まれた密偵であった。ある日、藩の家臣らが人参斎たちをはじめとして、未婚の年頃の娘がある藩士ら十組を城に呼び立てた。主君が病を得て余命短く、寿命までに世継ぎを成すために娘達を召し上げたい、と言うのである。隠密を炙り出すための奇策と悟った人参斎らは、三登利が既に懐妊していると偽ってその場を免れようとするが、懐妊が分明となるまで預かると言われ、いよいよ困窮する――

 たった一種の忍術に寄託した一発芸、と言ってしまうと身も蓋もないが、意想外のようでいて真理を射抜く結末はやはり風太郎の独壇場である。余人には思いもつくまい。

『忍者野晒銀四郎』

 伊賀での忍術修行から帰った野晒銀四郎は、知己や係累の殆どが江戸に移ったことを知り、早速と江戸へ旅立った。幼なじみのおゆうは主君・秩父守の側妾となり、銀四郎を伊賀へと世話した酒井内蔵は江戸家老となっていた。そして、酒井に忍びの者として抱えられていた野晒家の係累は、銀四郎との再会を喜ぶ間もなく、失態を理由に自刃して果てる。気付けば銀四郎は、三雲藩のお家騒動の渦中にいた。

 落日の忍者譚その二。一途さ故にひたすら利用されるばかりの銀四郎の有様がうら悲しい。そのくせ、用意された結末では一切の感傷を断ち切って見せる、相変わらずの手管である。

『忍者撫子甚五郎』

 天下分け目の関ヶ原の合戦前夜。東西両陣営にとって懸念の的は、松尾山に控えた小早川中納言秀秋の去就であった。徳川方の服部半蔵と石田方の波ノ平法眼、二人の乱波頭は期せずして同様の奇策に着想する。斯くして徳川方からは小笹と浮舟伴作、石田方からは撫子と弥勒甚五郎、男女の密偵が松尾山中に送り込まれた。

 際限ない腹の探り合いが本編の全て。情報の一つ一つにより目紛しく左右する戦況にあって、駒に徹する忍びたちの凄絶な葛藤の一幕である。

『忍者傀儡(くぐつ)歓兵衛』

 伊賀組小普請方の花房宗八郎は友人の九沓歓兵衛に奇妙な願い事をされる。「御内儀の人形を作ってみたい」と言うのだ。歓兵衛が言うには、彼の人形作法は一種の忍術であり、内儀の姿形に惹かれたのみではなく、修行に是非とも必要なことらしい。だが、人体から直に型を取るという手法では亭主である宗八郎の協力が要る。宗八郎には、徒に武家であるという矜持を抱え続け、ただ従順であることのみが取り柄であるような妻に言うほどの魅力があるとも思えなかったが、失われた忍術への興味も手伝って、歓兵衛の申し出を受け入れる――

 落日の忍者譚その三。ここまで来ると味わいは戦前戦後の探偵小説に近い。ここにおける忍術とは、海野十三小栗虫太郎が駆使した人外のトリックと同義である。しかしそんな野暮な知識など放逐してこの巧緻な手捌きに身を委ねるのが本来だろう。

『忍者鶉留五郎』

 鶉留五郎の借金は嵩みに嵩み、ついには我が娘まで召し上げねばならないところまで窮していた。そこへ、留五郎にとって本来の職掌である隠密の任務が舞い込み、意気込んで出立するのだが――

 落日の忍者譚その四。実質五頁に満たない掌編であり、こうなると余計な解説も不要だろう。短いだけにその悲哀は明確であり、痛い。

『「甲子夜話」の忍者』

 前巻所収『「今昔物語集」の忍者』同様、忍法帖の舞台裏を垣間見せる随筆。「甲子夜話」中に登場する忍者のエピソードを引用し、常識では計り得ぬ能力を持つ者たちの悲劇を淡々と綴る。

 前巻『かげろう忍法帖』に較べると、隠密というものの価値が薄れてしまった時代背景などが多く用いられている分、忍術が宛ら往年の探偵小説におけるトリックの如き扱いである。山田風太郎の着想の妙と優れた騙りをとくと堪能して戴きたい。

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