夜に沈む道

夜に沈む道 『夜に沈む道』

ジョン・バーナム・シュワルツ/高橋素子[訳]

John Burnham Schwartz“Reservation Road”/translated by Motoko Takahashi

判型:四六判ハード

レーベル:Hayakawa Novels

版元:早川書房

発行:2000年9月30日

isbn:4152083026

本体価格:2000円

商品ページ:[bk1amazon]

 1989年に刊行した、東京を舞台とした青春小説『自転車に乗って』で好評を博した著者が、1998年に発表した第二作。

[粗筋]

 イーサン・ラーナーと妻のグレース、息子のジョシュ、娘のエマは揃ってピクニックに出かけていた。ドワイト・アルノーは別れた妻に引き取られた息子・サムとの週に一度の逢瀬を利用して、オールスターを観戦した。ごくありきたりな、この二つの家族の運命は、リザベーション・ロードで交錯する。エマがトイレに行きたがり、陽炎の死骸に汚されたフロントガラスを洗うウォッシャー液が無くなっていたこともあって、イーサンはカーブの先にある寂れたガソリンスタンドに立ち寄った。試合が延長し、息子を今の家庭に帰す約束の時間を過ごしてしまったドワイトは、壊れて片目になったヘッドライトにも頓着せず加速を繰り返した。その時、ジョシュは路上に佇み、呆然と何かを見つめていた。イーサンの目前で、ジョシュはカーブから急激に出現した車に跳ね飛ばされた――

 息子を失った哀しみ、そしてどうしようもない罪悪感から消耗し、平穏だった関係に軋みを生じるラーナー一家。一時は逃げおおせながらも怯え罪の意識に苛まれ、それまでも微妙に交差していた被害者たちの人間像を知るに連れて、自身の境遇と重ね合わせて不公平感を募らせるドワイト。悲劇と生活の荒廃の果てに、彼らが辿り着いたのは……

[感想]

 あとがきにある「スリラー小説」という分類は、作品の本質を説明しない。深いのは恐怖やサスペンスといった興趣ではなく、失ったもの・失いゆくものへの哀しみと慨嘆であり、対極にありながらアメリカのごく平凡な父親・男性像から逸脱しない二人の人物の心理描写である。物語全体が大きな波であるために細部の起伏が乏しく、特に中盤は勢いよく読ませるタイプの作品ではないが、だからこそ味わいつつ読む方が適当であり、その辺りからも所謂「スリラー小説」と並べる解釈には異論を唱えたい。購入したときはミステリー、心理サスペンス的なものを期待していたため、その意味では拍子抜けだったが、本編で徹底的にディテールを整えつつ決して全てを語らない結末が齎す余韻だけでも買った価値はありました。

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