誓い通り聴きまくっているわけですが。

シルヴァー・レイン

シルヴァー・レイン

 さすがと言いましょうか、歌いまくっているベースが素敵。マーカス・ミラーは若かりし頃、かのマイルス・デイヴィス晩年のアルバムに参加していて、トランペット以外はほぼ彼ひとりで演奏している、というアルバムもあったりします。それ故か、未だにこの人の作るアルバムには当時の精神を受け継いでいる印象があって、アンサンブルの部分よりも主旋律の“歌心”を大切にしている。演奏技術の面からも一級なわけですが、フレーズの親しみやすさや演奏することの楽しさを追求しているので、変に晦渋にならずヴァラエティに富んだ曲想とほどよい聴き心地とを成立させている。哲学的でありながら演奏は親しみやすいパット・メセニーと通じるところがありますが、ある位相でのベクトルはほぼ正反対を向いているように思います。

 ここで思わずメセニーを引き合いに出してしまったのは、最新作『ザ・ウェイ・アップ』に参加しているハーモニカのグレゴア・マレットがこちらにも顔を見せているからだったり。渋めのバラード『Behind the Smile』でマーカスのベースと主旋律を重ねていて、陰影を出すことに貢献してます。

 きのう触れたとおり表題作にはエリック・クラプトンが参加、Take 6のジョーイ・キブルがリードを取ったヴァージョンと二種類収められていますが(キブルはクラプトン・ヴァージョンでバック・ヴォーカルも担当していたり)、それ以外にもヴォーカルが採用されているのが特徴的。ヴォイスという扱いではなく、ちゃんと歌詞がついている楽曲もあるのです。プリンスの楽曲のカヴァー『Girls And Boys』ではメイシー・グレイ――最近何かのCMで『We Will Rock You』を嗄れ声で歌っていた女性ヴォーカリスト――が相変わらずのインパクト充分な歌声を響かせていたり、『La Villette』という曲ではケン・ヒックスというオペラとジャズを融合させた(!)スタイルの新人を起用したり、しまいには日本盤ボーナス・トラック『It’ll Come Back To You』で自らリード・ヴォーカルを担当したりと趣向を凝らしてます――それにしても、心なしかベーシストはヴォーカルを兼任する人が多い。かのジャコ・パストリアスにしてもそうですが、そのジャコの再来と言われたリチャード・ボナは甘くも雄大な歌声の持ち主ですし、SMAPのアルバムにもクレジットされることのあるウィル・リーやクラプトンとの共演も多いネイサン・イーストも各所で美声を聴かせている。ジャズのアルバムでは通常楽器を演奏する人物が必要に応じて歌声を聴かせることが結構あるのですが、ほとんどは余技とか不慣れさが味わいを出しているという印象なのに反して、いま挙げた面々はいずれも玄人はだしなのが不思議。

 最近は関心が主に映画のほうに向いてしまってますので、ジャズ・フュージョンものを購入する枚数も一時期と比べてかなり少なくなりましたが、未だに好きであることには変わりありません。故に、こういうアタリを引くとそれだけでいい気分に浸れます。

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