蠱猫 人工憑霊蠱猫01

蠱猫 人工憑霊蠱猫01 『蠱猫 人工憑霊蠱猫01』

化野燐

判型:新書判

レーベル:講談社ノベルス
版元:講談社

発行:2005年3月5日

isbn:406182421X

本体価格:880円

商品ページ:[bk1amazon]

 美袋学園付属玄山記念図書館で資料調査の任に当たっていた、美袋玄山の子孫である司書の小夜子は、図書室に隠されていた地下室を発見する。文字通り死蔵されていたのは東西の胡乱なオカルト関連の文献であり、そのなかに紛れていた『本草霊恠図譜』という和書が、学園の“闇”を巡る戦いに小夜子を巻き込む契機となる。

 一方、気の置けない仲間たちと共にデータベース・システムの構築に努めていた大学院生の白石優は、だが学内派閥抗争の巻き添えを食う形でその功績を奪われ、やがて仲間たちとも散り散りになってしまった。失意にくれた白石は、親しい研究者の薦めで旅に出るが、先々での奇妙な体験が、彼にふたたび学園に戻る決意を促す。そうして、白石と小夜子の運命が交錯した――

 ……ぶっちゃけイントロです。まだ話は本番に突入してません。

 聞いた話によると、本編は分量が膨大になったために分冊とし、隔月ぐらいのペースで刊行することになったのだという。それ故、第一巻となる本書ではようやく物語の主人公たちが合流した程度で、話が本格的に動くところまでいっていないに違いない。

 だから、本来あれこれと語る段階ではないのだろうけれど、それでも既に言えることは、象徴の多用された実に想像力を触発する物語であるということだ。というか、提示される状況からイメージを掻き立てられるような読者でないと、とりあえずこの第一巻については楽しむのは難しいのではないか。特に、ふたりの語り手がそれぞれ自分の能力を開花させる契機となるエピソードは極端なまでに幻想的で、やもすると捉えどころがないぐらいに感じられる。

 恐らく、日本の伝奇小説や、妖怪・怪談関連の文献をよく読み漁っているような人であれば、この作品に感じ入るところがあるはずだ。もともと学芸員であり、作中でも触れられているホームページ『白澤楼』にてネット上の妖怪データベースの構築を試みていた著者らしく、序盤の資料調査のシーンではそれに関係した文献の名前が無数に挙がり造詣の深さを窺わせるが、個人的に感心したのは『新耳袋』的な怪談の知識を盛り込んだと思しい描写である。本筋はあくまで“学内妖怪戦争”なので、そうした出来事はあくまで主人公たちを覚醒させるための要素に用いられているだけだが、怪談的な経験談の数々や、余談のように盛り込まれる怪談の発生と流布に纏わる論考はそれ単体でもなかなかに読み甲斐がある。

 いずれにしても、まだ主人公たちに与えられた“運命”の全貌も見えず、敵方の狙いさえ不透明なこの巻であっさり出来を判断してしまうのは早計に過ぎるだろう。だからいまとりあえず言うべきはこの台詞ひとつのみだ。

 早く続きを読ませてください。

 と言いつつ、ひとつだけ難を述べておきたい。出来れば巻末に参考文献一覧を掲示して欲しかった――膨大な量になるだろうし、実際に入手できるものはかなり絞られてしまうだろう、と承知のうえで。それとも、完結巻にまとめて掲載されるのでしょうか? それはそれでかなり怖いことになりそうだけど。

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