かりん 増血記(5)

かりん 増血記(5) 『かりん 増血記(5)』

甲斐透[著]/影崎由那[原作・イラスト]

判型:文庫判

レーベル : 富士見ミステリー文庫

版元:富士見書房

発行:平成17年4月15日

isbn:4829162988

本体価格:540円

商品ページ:[bk1amazon]

 吸血鬼一家に生まれながら血を“吸う”のではなく“増やす”能力が発達してしまい、日中でないと生活できない変わり者に育ってしまった少女・真紅果林と、ひょんなことから彼女の秘密を知ってしまった赤貧少年・雨水健太の微妙な恋愛感情とドタバタを描いた漫画シリーズ『かりん』。その番外編を綴るノヴェライズの第五巻。

 ようやく自分が雨水に恋愛感情を抱いていることを自覚した果林だったが、種族の違い故報われないと解っているから、せめて友達でいたいと願うようになる。だがその矢先、整った容姿と財産とに恵まれた“お嬢様”扇町彩羽がふとしたきっかけで雨水に興味を持った。横柄で身勝手で高飛車な言動をしながらも傍目に明らかな好意を雨水に向ける彩羽にやり場のない不安を覚える果林。ある日、増血衝動にかられた挙句にたまたま近くを通りかかった彩羽に噛みついてしまったことで、状況はややこしくなる。増血の影響で彩羽は雨水に対する好意を顕わにするようになり、それが原因で果林は彩羽の従弟で切れ者の霧丘忍に疑惑の眼差しを向けられて……

 コミック単行本との並行出版というペースがすっかり定着してしまったシリーズであるが、ここまで来るとキャラクターのやり取りに更に重きが置かれるようになって、レーベルである“ミステリー”を多少なりとも装う態度さえ薄れてしまったようだ。果林たちは終始、彩羽と忍という金持ち特有のエゴイズムの犠牲になったふたりの行動に振り回されているだけで、謎解きめいたことにはまったく拘わらない。そういう意味では、要所要所で優れた状況分析能力を発揮する忍のほうがある意味レーベルの示す方向性に符合しているぶん主役らしく見えるくらいだ。実際、あの計算高さと人格形成の背景はそのまま屈折した名探偵役に相応しいという気がする。

 何らかの陰謀が物語全体を動かしているということもなく、登場人物たちの行動が思わぬ形でトラブルに結びついてしまう筋書きで、その過程で果林の雨水に対する純粋な思いや彩羽、忍たちのコンプレックスが見え隠れするさまは、やはりミステリーというよりファンタジーの味付けをした青春恋愛ものといったほうが正しい。……ミステリー文庫の看板が提げてあるからと言って今更このシリーズにミステリーを求める読者もあるまいけれど、その点改めて確認しておいたほうが素直に楽しめるだろう。

 今回はあとづけでトラブルを足していったという趣が強く、全体の印象が散漫になっていた点が少々引っかかるものの、ゲストである彩羽と忍がいい具合に果林と雨水を掻き回し、それぞれの味をよく出させているので、ファンならば納得の出来と言っていい。安定感が嬉しいシリーズです……が、個人的には、無理にコミックスと合わせて出さなくてもいいという気がしなくもない。

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