新 稲川淳二のすご〜く恐い話 窓を叩く女

新 稲川淳二のすご〜く恐い話 窓を叩く女 『新 稲川淳二のすご〜く恐い話 窓を叩く女』

稲川淳二

判型:文庫判

レーベル:リイド文庫

版元:リイド社

発行:平成17年6月16日

isbn:4845827778

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

 毎年夏恒例の稲川怪談本、とりあえず私が把握する限り2冊目の活字本。旅館を舞台にした『迎えが来ない』、あの有名な怪奇映像の前日譚『首切りの掛け軸』、経済成長期の町工場を訪ねる怪異を描いた表題作など、全十七話を収録。

 おおむねいつもどおりである。……パターン化を避けるために一冊ごとの間隔を伸ばし文章の洗練に腐心する『新耳袋』、逆に敢えて怪異の種類による選別をあまりせず、季節を問わず定期的に供給することで時代性にも肉薄する『「超」怖い話』などと比較すると、いっそ暢気に感じるくらいのマンネリっぷりである。足音などの擬音を無数に並べたエピソード、病院や災害の現場で起きる怪異、また著者自身が仕事のための遠征で訪れた宿泊施設などでの怪奇現象などなど、個々の現象は微妙に違えど、全般に既視感を齎すような話がほとんど。私はそこまで徹底するつもりはないが、これまで文章化されたものを並べて統計を取ったらさぞかし面白い結果が出るのではなかろうか――と意地の悪いことを言いたくなるくらいである。

 また、竹書房文庫の『怖すぎる話』シリーズではさほど気にならないのだが、このリイド社のシリーズは著者の語りをあまりにそのまま文章に落としているせいか、改行ピッチのわりに読みづらい箇所が多い。語りでは効果の大きい擬音や、会話の途中で挟まれる相槌は、文章において頻出すると無駄に行数を稼いでいるだけのように見えるばかりか、文章そのものの勢いをブツブツと切ってしまうので、簡潔な表現のわりに読みづらくなる。加えて、あまりに語りがそのままなので、舞台やテレビであれば身振りや雰囲気で伝わるような部分が消され、しばしば意味の取りづらい箇所が多いことも残念。実は怪談こそ正確で、的確な場所での描写が求められるものなのだが、本書の編者はいまいちその点に無自覚であるように思える。

 内容的にはマンネリだが、こういうものは風物詩の意味合いもあって、また昨年語られた話など普通の人は覚えているものではないから、ある程度パターン化し、かつて似た話を聞いたときの恐怖を呼び覚ますくらいがちょうどいい。そういう意味では、本書の方向性は間違っていないと思うのだが、それ故に読み物としての結構に隙が多いのが勿体ない。そのために怪談そのものよりも、芸者の楽屋であった場所が改装されたその経緯を想像させる説明や、はっきりとした怪奇現象はないけれどなんとも奇妙な『目黒の泥棒一家』のようなエピソードのほうが強く印象に残ってしまうのである。

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