著者略歴

著者略歴 『著者略歴』

ジョン・コラピント横山啓明[訳]

John Colapinto“About The Author”/translated by Hiroaki Yokoyama

判型:四六判ハード

レーベル:Hayakawa Novels

版元:早川書房

発行:2002年3月31日

isbn:4152084030

本体価格:1800円

商品ページ:[bk1amazon]

 ぼく――キャル・カニングハムの運命が狂い始めたのはいったいどこからだったのか? 小説家を志望しながらまともに書き出すことも出来ずニューヨークで無為な月日を過ごしたこと? そのあいだ一緒に暮らしていた法科の学生スチュワート・チャーチが人知れず小説を書きためていて、それがぼくなど足許にも及ばぬような大傑作だったこと? そのことを知ってしまったのと時を同じくして、スチュワートが事故死してしまったこと? ――いずれかは解らない。けれど、彼の作品に打ちのめされ、自分では一行も書き進められなくなってしまったぼくは、当たり前のようにスチュワートの作品を盗んだ。その作品は高額な“前渡し金”を発生させ、映画化権まで売れ、一瞬にしてぼくを時代の寵児とした。更に最高の恋人さえ得ることが出来たけれど――一年近い時を経て、ルームメートの亡霊が突如としてぼくを窮地に追い込んだのだった……

 なんというか、生々しい話である。巻末に収録されている著者へのインタビューによるとそれも宜なるかな、冒頭におけるキャルの状況は大半著者の実体験に基づいているらしい。このくだりは日本においても、作家を志す人の何割かぐらいは身に覚えのある話ばかりで、沁みるような思いをするはずだ。

 しかしそうした感情移入しやすい状況にいつまでも依存することなく、細かく刻まれた章立ても手伝って、物語は物凄いスピードで進行する。さすがにちょっとうまく行きすぎではないか? と首を傾げたくなることも事実だが、基本的にはさほど疑問を抱かせることなく、あれよあれよという間に事態が変転していき、冒頭からはほとんど予測も出来ない結末に辿り着く。

 いわゆる謎解きを志向した作品ではなく、それ故の奔放というかとんでもない展開が読みどころだが、しかしまるっきり予測不能な筋運びかというと、そういうわけでもない。中盤において発生する運命の分岐はかなり見え見えな伏線が張られているし、その後の展開についても、精緻なキャラクター描写に基づく心理的な前提が設けられているので予測しようと思えば出来るし、またそれ故に一見無茶苦茶な展開にも予め裏打ちが施されるかたちになるので、意外性が読み手のリズムを阻害しないのである。

 心理的な伏線の巧みさは、一見とんでもない大どんでん返しに見える結末にもちゃんと役立っている。ほんの一章前のなりゆきが冗談のような結末なのだが、それぞれのキャラクターの動きや方向性とは矛盾を来しておらず、十分に納得できる。何より、物語の構造自体がはじめからこの決着を狙ったようにさえ見える。

 惜しむらくは、舞台も登場人物も絞り込み、主人公キャルの苦悩に焦点を置いて描写を積み重ねていったために、世界が異様に狭くなっていることだが、そこまで望むのはさすがに贅沢というものだろう。恐らく、翻訳物に苦手意識を持っている人でもあれよあれよという間に読まされてしまうくらいのリーダビリティを備えた、高水準の娯楽小説である。

 それにしても、読み終わって気になるのは、本編の映画化の行方である――アメリカでは評価の高い小説は刊行前に映画化権が販売され、そのまま話が流れてしまうことなど珍しくも何ともないのはよく承知しているのだが、本書のあのオチを読んでしまうと興味を抱かずにいられないのだ――何せ、買い取ったのがあのドリームワークスだというのだから。

 ちなみに本書は2005年11月にハヤカワ文庫に収録される予定になっている。これをアップしている現時点ではまだ市場に出ていないが、興味がおありの方はそちらの刊行を待ってもいいだろう――私がこの時期に読んだのは例によって発売直後に親本を入手していたにも拘わらず、未読のまま文庫化の情報を得てしまったからであり、しつこいようだがそんな愚か者は私ひとりで充分なので。

追記:2005年11月に無事、文庫版[bk1amazon]が刊行されましたので、購読をご検討されている方はこちらでどうぞ。ちなみに装幀は四六判とほとんど一緒です。

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