本格推理の映像化は難しい。

 まだ咳が止まりません。原因が奥深くにあるのか、だいたい治ったように思っても、気づくと咳だけがぶり返してくる状態が依然続いております。昨日までに比べれば格段に楽になったとはいえ、まだ大事を取った方が良さそうなので、本日も基本的に引き籠もり。

 作業もそれなりに気力を消耗することゆえ、今日も読書に耽りました。母も待っているはずなので、あの大作を読んでしまわなければ! と決意していたのですが――朝になって突如気が変わり、屋根裏から土屋隆夫『赤の組曲 [新装版]』を発掘してきて、休みを挟みつつ夕方までに読み切ってしまう。一昨日ぐらいからTVで、これのドラマ版の予告を流していて、そういやこれって、千草検事シリーズで唯一未読のまま積み残している奴じゃなかったっけ、と気づき、オリジナルに触れる前に、トリックぐらいを残して破壊されてしまったドラマ版を見せられたら癪だなー、とにわかに思ったのです。

 ……が、ほとんど読み終わりかけたところで、シリーズで未読だったのはこれではなく、第三作の『針の誘い』であることをようやく思い出したのでした。何せ千草検事シリーズは、第一作『影の告発』と最終作『不安な産声』のインパクトが強すぎるのに対し、読み返してみるとこの『赤の組曲』は構造こそ緻密であるものの、支える仕掛けがどうも小味であるため印象に残りづらかったらしい。面白いのは面白いので、再読であっても後悔はなかったんですが、どうにもすっきりしない。けっきょく、読み終えた勢いに乗じて、唯一の未読である『針の誘い [新装版]』も引っ張り出して、すぐさま手をつけてしまいました。

 で、わざわざ予習(のつもりが結果的に復習)してまで鑑賞したドラマ版『赤の組曲』でしたが、肝心の出来はというと――そんなに悪くはありませんでした。

 現代の社会情勢や、ドラマ的なお約束に添って施された潤色のほとんどが、案の定無茶苦茶。利害関係のある人物が容疑者になる恐れのある事件の捜査に、あとから口出しすることは不可能でしょうし、またメイン・トリックを描く工夫のために潤色したと思しい箇所は、トリックの性質からすると不自然さを際立たせる結果となっている。単純化して解りやすくした箇所はところどころ評価も出来るんですが、概ね前後の処理が雑すぎて、トリックの巧妙さを殺してしまっています。人物の設定や相互関係はあまり手を入れず、極力原作に添わせるべきでした。

 しかし、メイントリックの肝はちゃんと理解していたようで、映像的に微妙な箇所を工夫して描いていたのには好感を抱きました。西村雅彦による千草検事像もなかなか悪くない。野本刑事をがさつに、その上司を千草検事に反抗するステレオタイプな敵役に仕立て上げてしまったのはどうかと思いますが、山岸事務官を女性にするというのは映像的にも話作りの上でも面白い潤色です。トリックに直接関わる部分については極力原作に忠実に、という注文つきではありますが、このキャストでほかの作品が映像化されたなら、もう一回ぐらいは観てもいいかも。

 ドラマを観終わり、この項をアップし終わったらまた読書に戻ります――週明けぐらいには全快して作業に復帰したいので、それまでに『針の誘い』と、脇に置いてしまった大作を読み終えておきたいところです。

 なお、小説『赤の組曲』の感想は明日アップします。本の感想はなるべく一日一冊まで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました