女王蜂

 稲垣吾郎主演による金田一耕助シリーズ第三作。

 いまはこういうコスチューム・ドラマが作りやすいんだなー、と観ながら実感。実在しない月琴島のデザインにホテル松籟荘の時計塔外観に内部など、本来なら壮大なセットや野外ロケが必要なところを、ほとんどブルーバックを用いたスタジオ収録で済ませているのが解ります。大袈裟すぎて違和感を覚える箇所もありますが、概ね流れを阻害しない程度で、充分雰囲気作りに役立っている。

 さて、肝心の内容ですが、従来通り簡略化や脚色の匙加減が巧み。原作では冒頭をヒロイン・智子を中心に描き、脅迫と過去の密室殺人の謎を軸に描いていますが、ドラマではこの辺をばっさり刈り取り、金田一修善寺の旅館・松籟荘に赴くところから始めている。そのために序盤の不可能興味はなくなってしまいましたが、ドラマ版の語り手の役割を担う横溝正史や何故かレギュラー化した橘署長を絡めることで、シリーズならではの導入をうまく形作っている。原作では少しずつ地方文化も洋風に染まっていく様を描き、東京移転後に変化するヒロインの姿を描いてどこか虚ろな雰囲気を掻き立てていましたが、その辺を排除することで世界観を統一させている。実のところこうした脚色は人によって賛否の分かれるところでしょうが、尺を縮め焦点を絞るという意味では正しいと思います。結末で明かされる真相において、一部の動機が単純化されていたり、ある行動をとった人物が入れ替えられていたりしていますが、その辺も同様の理由でわたしは評価します。雰囲気を一貫させた、という点では原作より良かったかも。

 原作よりも金田一の功名心が豊かで、けっこう重要な場面でコメディタッチが導入されるのがしばし引っかかりますが、その辺もご愛敬でしょう。安定した仕上がりでした。これなら次も期待できそう。

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