怪盗グリフィン、絶体絶命

怪盗グリフィン、絶体絶命 『怪盗グリフィン、絶体絶命』

法月綸太郎

判型:B6判上製函入

レーベル:MYSTERY LAND

版元:講談社

発行:2006年3月17日

isbn:4062705788

本体価格:2000円

商品ページ:[bk1amazon]

 ニューヨークを拠点に暗躍する怪盗ジャック・グリフィンのもとに奇妙な依頼が舞い込んだ。ロバート・F・オストアンデルというその男がグリフィンに盗んで欲しいものというのは、著名なメトロポリタン美術館に所蔵されるゴッホの自画像。盗みのための盗みはしない、という主義を貫くグリフィンは断ろうとしたが、実はメトロポリタン美術館に収蔵されているのが精巧極まりない贋作であり、本物がオストアンデルの雇い主のもとにある、と聞かされて俄然興味を抱く。斯くしてメトロポリタン美術館への大胆極まりない襲撃を計画するグリフィンであったが、事件の背後には彼を搦めとろうとする壮大な罠が仕掛けられていた――

 意外――と申しては何だが、メインステージでの最新作『生首に聞いてみろ』を代表とする一連のシリーズと比較すると、やはりかなり意外の感を抱かされる、ごく正統派のジュヴナイルである。

 まず主人公として用意されたのは、怪盗という犯罪者でありながら、極めて筋の通ったポリシーを備え、能力にも人望にも優れた、如何にも“らしい”ヒーローである。過去の業績もちらつかせながら、そんな彼のもとに舞い込むのはこれまた如何にも怪しげな依頼。読者にもしばしカードを伏せる知能戦が繰り広げられるが、グリフィン自身の予測を超えてことは深刻に陥っていく。蘊蓄をしばしば盛り込みつつ筆遣いも展開もスピーディーかつ緊張感に溢れ、読む側のページを繰る手をそう易々とは止めさせない。

 採用したモチーフの数々も絶妙だ。現代にあっても冒険のはじまりとしては魅力的なニューヨークを起点に、続いてエキゾチックな風情に満ちあふれた虚構の国に舞台を移し、“呪い”という胡散臭くも却って牽引力のある素材を巧みに操って物語を盛り上げていく。いわゆる本格ミステリでは考えられない、激しくも先読みの出来ない展開はおよそ著者の作品に対して期待するものとはかなり異なっているのだが、そんなことなど気にする暇もなく物語の世界に引きずり込まれること請け合いだ。

 そうした活劇としての迫力を存分に盛り込みながら、少年向け作品にありがちな無理がいっさい感じられず、大人の鑑賞にも見事に応えるレベルで状況を構築している点も評価したい。いわゆる“子供騙し”な組み立てにはしなかったことで、いま現在少年少女である世代を惹きつけ、更に彼らが成長して読み直してまた楽しめるクオリティの作品は滅多にない。

 結末は決してミステリ的に完成されているわけではない。だが、巧みに張り巡らせた伏線に基づき、見事に驚きを演出したクライマックスのカタルシスは、完成度の高い論理にも匹敵するレベルにある。グリフィンが最後に見舞った窮地を脱する手管など、喝采ものである。

 明確な理想を固持し、難局を知性と度胸で乗り切る怪盗グリフィンは、少年向け冒険小説ヒーローの、これ以上ないほど理想的で洗練された後継者と言っていいだろう。それだけに、可能であればこれ一冊で退陣とせず、何作か書き継いでいただきたいものだ――著者の寡作ぶりを思うと、けっこう無理な注文という気もするのだが。

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