作者不詳 ミステリ作家の読む本

作者不詳 ミステリ作家の読む本 『作者不詳 ミステリ作家の読む本』

三津田信三

判型:新書判

レーベル:講談社ノベルス

版元:講談社

発行:2002年8月5日

isbn:4061822616

本体価格:1500円

商品ページ:[bk1amazon]

 2001年に『ホラー作家の棲む家』でデビュー、2006年には『厭魅(まじもの)の如き憑くもの』で好事家の耳目を惹いた三津田信三が2002年に上梓した第二長篇。出版社で編集者をする傍ら小説を上梓している私こと三津田信三が手に入れた、新書判の同人誌『迷宮草子』。だが、収録された短篇を読み始めたときから、私と友人・飛鳥信一郎の身辺に奇妙な現象が起きはじめる。どうやらこの本は読んだ者のまわりに怪異を呼び寄せ、最終的に異界へと攫ってしまうらしい。回避するためには、謎解きのなされぬまま閉じられる各編の真相を明かさねばならないと気づいた私たちは、懸命に謎解きに挑む……

 純正の本格ミステリかと思いきや、他の著書と同様に濃密なホラー・怪談テイストに彩られた、著者らしい作品であった。

 ただ、率直に言って完成度はいまいちという印象である。作中作である『迷宮草子』に収録された形となっている短篇群はそれぞれに本格ミステリらしい趣向が凝らされ、各々カラーも異なり読み応えはあるのだが、作中作としての中に解決編が用意されていないのでカタルシスに欠ける。また、終盤の第五話・六話・七話あたりは読みながらあっさりと答が見えてきてしまい、なまじ終盤であるだけに拍子抜けという感想を抱いた。

 作中作を読み終えたあとの結末にも少々不満を覚える。こういう決着が絶対的に駄目だとは思わないのだが、新書判で550ページを超える分量、しかも怪異が多々発生しているとはいえ、作中作が凝った本格ミステリの体裁を取っているだけに、こうも曖昧模糊とした結末は相応しくないように思う。ラストで明かされる趣向にしても、この作品の土壌ではあまり効果を上げていない。

 一部に解り易いという厭味はあっても、正統的な本格ミステリの香気を感じさせる作中作はそれぞれに頼もしさがある。筆者である作中の三津田信三視点で綴られる怪奇現象の数々は、自らも怪談を蒐集している著者だけあって、怪談ズレした私の目にもリアルで肌が粟立つような恐怖を齎す。だが、全体像としてはかなり歪になってしまった、勿体ない作品と感じた。全体の完成度よりも、収録された各編のミステリとして凝った作りや、地の部分を覆う異様な気配を楽しむほうがいいだろう。

 なお本編には、現時点での最新作『厭魅(まじもの)の如き憑くもの』に登場する土地や人物が随所に散見され、更には趣向においても同作の雛形と思しきものがあるため、先に『厭魅〜』を読んだ方が手にするとまた別の楽しさがあるのでは、と思う。もし機会があればご一読いただきたい。

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