鮎川哲也コレクション<挑戦篇>II 白馬館九号室

鮎川哲也コレクション<挑戦篇>II 白馬館九号室 鮎川哲也コレクション<挑戦篇>II 白馬館九号室』

鮎川哲也

判型:四六判ハード

版元:出版芸術社

発行:平成18年8月10日

isbn:4882933004

本体価格:1700円

商品ページ:[bk1amazon]

山荘の死』につづく、鮎川哲也の犯人当て小説集成第2巻。推理作家であるQが執筆のために滞在したホテルで起きた連続殺人の謎を解く表題作、伝説のテレビ番組『私だけが知っている』に著者が書き下ろしたシナリオを、番組の体裁に添って小説化した『茜荘事件』、『悪魔の灰』、『おかめ・ひょっとこ・般若の面』の三作、倒叙もの『ふり向かぬ冴子』『花と星』『尾行』、そして本州と北海道とを往還する貨客船での事件を描いた『貨客船殺人事件』の計8編を収録する。

 犯人当て――と言い条、倒叙ものが含まれているのは、短篇では犯人当ては書けない、という著者の主張によるものだろう。実際、枚数の少ない短篇では圧倒的に倒叙ものの数が多く、やはり枚数の制約が厳しい犯人当てでもその主張をなぞったものと見える。謎を解くのではなく粗を探す類の倒叙ものは、こういうクイズ形式の提示の仕方ではややカタルシスに欠く感は否めず、その意味では物足りない。

 だが、『白馬荘九号室』『貨客船殺人事件』と、テレビ番組用に執筆した三篇はさすがに読み応えがある。特に表題作と『おかめ・ひょっとこ・般若の面』はこの尺で連続殺人を扱っており、それだけでも読んでいるあいだの興奮は段違いだ。

 反面、短い尺のなかで決着せねばならぬ都合もあるのだろう、事件の規模のわりに、実にシンプルなミスや違和感から手短に謎が解き明かされてしまうため、全般に物足りなさを覚える。だが、このあたりは読者や視聴者との“勝負”を念頭に置いたからこそ、込み入った仕掛けを避けたのだと感じられる。もっと複雑極まるロジックや壮大なトリックを求めるのであれば、著者の優れた長篇群がいまは創元推理文庫光文社文庫が収録されており、そちらを読めばいい。本書は作品ごとの手頃さという利点があり、長篇に手を出すか迷っている方にとっての試金石代わりにもなるのではないか。……価格のほうはやや張ってしまうが。

 全三巻のシリーズの一冊として鑑賞すると、本書の特色はやはり巻末に並ぶ、テレビ番組向け脚本をリライトした三篇であろう。『茜荘事件』『悪魔の灰』は星影龍三シリーズ用にリライトされたものが流布しており、『おかめ・ひょっとこ・般若の面』に至っては今回が著者名義の単行本初収録である。いずれも番組で使用されたシナリオをそれぞれの作者自らが、番組と同じテイストで小説化したものを初めて採録しているのも特徴であり、漠然とながら当時の雰囲気を伺うことが出来る。事件の関係者の語りによって幕を開き、再現ドラマで詳細を描き、探偵局諸氏の推理を開陳したあとで視聴者(読者)への挑戦を挿入、そして「私だけが知っている」というフレーズから謎解きが始まる構成。如何にも古めかしいが、それ故に仕掛けの巧さが光る。とりわけ巻末の『おかめ〜』のトリックは出色だ。

 犯人当てとしての面白さでは前巻のほうが全般に上という印象ながら、それでも犯人当てならではの知的なスリルが堪能できる好著である。但し、なるべく初出時の体裁に従う編集方針のために、『ふり向かぬ冴子』冒頭のような歪さも留めてしまっているので、出来れば面倒臭がることなく著者の作品ノートや解説も併読していただきたい。

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