行方不明者

行方不明者 『行方不明者』

折原一

判型:四六判ハード

版元:文藝春秋

発行:2006年8月5日

isbn:4163251502

本体価格:1524円

商品ページ:[bk1amazon]

 埼玉県蓮田市のとある一軒家に暮らす滝沢家の4人が、ある朝突然、行方をくらました。食事の用意も済ませたままの状態で。この事件に関心を持ったルポライターの五十嵐みどりは、独自に背景を探りはじめる。他方、小説家志望の“僕”は電車で痴漢と勘違いされるという災難に遭い、後日偶然に彼を痴漢呼ばわりした人物を発見、試しに尾行を重ねたところ、その人物がここしばらく、周囲を騒がせている通り魔であるらしいことを知る……

 実際の事件に題材を得て、著者らしい仕掛けを施したサスペンスに仕立て上げていく“〜者”シリーズ久々の新作は、広島で発生した一家4人失踪事件を、著者にとって親しみのある埼玉県に舞台を移して用いたものとなった。前述の失踪事件には色々な理由から興味を抱いていた私にとっては楽しみな一作だったが、率直に言って、あまり腑に落ちない出来であった。

 現実の事件がここで綴られているほど単純に割り切れる内容でない、ということを差し引き、純粋にフィクションとして鑑賞しても全般に突っ込みが浅いという印象である。無関係な事件が並行して綴られるが、双方がやがて繋がっていくのは想像するまでもないし、その関わり方にあまり面白みはない。いちおう著者一流の仕掛けがあるのだが、それにしても意外性を演出するための工夫に乏しいので、読み終えてもカタルシスが感じられないのだ。現実を素材にした事件の解決自体が精彩を欠いた内容であることも手伝って、印象は芳しくない。

 雰囲気作りや著者らしさを損なわない筆運びはひとまず旧作からの読者であれば楽しめるが、しかしそれだけにアイディアが全般に不発であることが尚更に惜しまれる。近年に読んだ折原作品では、いちばん不満の多い作品だった。

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