「超」怖い話Ι(イオタ)

「超」怖い話Ι(イオタ) 「超」怖い話Ι(イオタ)

加藤一[編著]

判型:文庫判

レーベル:竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2007年2月6日

isbn:9784812430062

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

 版元を移しつつ刊行を続け、竹書房での復活を契機に年2回の発売を定着、更には番外編・映像版へと発展していった実話怪談シリーズの代表格、竹書房移籍後9冊目となる最新巻。

 竹書房以降前から平山夢明氏が編著者として舵取りをし、また加藤一氏が裏方と補助を手懸けるというスタイルで継続していた本シリーズだが、昨年の『Θ』を最後に、夏は平山夢明氏、冬は加藤一氏という具合に編著者を分担するスタイルに変更することを発表、併せて加藤氏は自身が担当する冬の巻における新たな共著者を募る目的で『超−1』なるイベントを開催、傑作選を3冊も刊行出来るほどの大成功を収めた。本書はそのなかで質量共に高い評価を得たふたり、松村進吉氏と久田樹生氏を加えた新編成で発表する初めての『「超」怖い話』本編である。

『超−1』傑作選から追ってきた印象ではさほど心配はないだろう、と思っていたが、予想以上にしっかりとした仕上がりである。平山氏特有のカラーであった異常なまでの残虐性はかなり削られているが、妙な生々しさや飄然とした空気を引き継いで、まさに『「超」怖い話』らしい雰囲気をきちんと醸成している。初期から参加し、その構成に心を配っている加藤氏の存在も大きいのだろうが、この“血の継承”ぶりは見事の一言に尽きる。

 また、『超−1』で試みた、目次を巻末に置くという工夫を導入してみたり、デザインを変更してみたことで、収録作の雰囲気は同じながらも、心機一転の印象を色濃くしている点も特筆すべきだろう。シリーズとしての色合いを保ちながら、“新時代”へと乗りだそう、という心意気をきっちりと示している。

 全般に、オーソドックスな主題であっても語り口に工夫を施したり、若干破調な部分を際立たせて新しい話として成立させたものが多く、その筆力の確かさも今回は安定した読み応えに繋がっている。そのなかにあって異色の話、異様なインパクトを齎す話も多々あり、シリーズ全体を通してもレベルの高い1冊と感じた。個人的には『睨み女』『息子の嫁に』『帰ってこいよ』『影蜘蛛』『紅鵠』あたりが記憶に残っている。

新耳袋』が完結して2年近くなるが、あちらも木原浩勝氏が新たなシリーズを今年から動かし始めるらしい。本書のこうした変化といい、今年はふたたび実話怪談が活発に取り沙汰される風向きにあるのかも知れない。そんな予感を齎す、清新さを湛えた1冊であった。

 ただ一点、目次をあとがきに持ってくるのはいいとしても、出来れば一緒にどの話をいずれの執筆者が手懸けたのかを明記して欲しかった。書き手が定着すれば、どの書き手がどんなタイプのエピソードを扱いどんな文章を組み立てるのかに関心が湧くのが自然なのだから、出来ればそうした読み方も許容する配慮が欲しかったように思う。

 余談その1。

 執筆者の構成が変わったことで、まえがき・あとがきの担当も変更となった。従来は平山氏が巻頭、加藤氏が巻末であったが、加藤氏が船頭となったこともあって巻頭を受け持ち、新人ふたりが巻末の挨拶を執筆している。

 加藤氏は相変わらずのトーンであるが、新人ふたりは会話形式で上梓にあたっての感慨を綴っている。両者の怪談蒐集における態度の微妙な違いを覗かせているのも面白いが、いちばん興味深かったのは最後のやり取りである。まあ、確かに『「超」怖い話』の伝統としてはほっとくべきなのだろうけれど……個人的には、行っておいたほうがいいと思うんです。ええ。

 余談その2。

 本書は帯の裏表紙側と奥付のところに二次元バーコードが印刷されている。ファンならば公式サイトの所在など先刻承知であるため、見つけても無視してしまうことがほとんどだろうが、もし読み取りの道具が手許にあるなら、いちどご覧になることをお薦めする。

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