口裂け女 novel from the movie

口裂け女 novel from the movie 口裂け女 novel from the movie』

杉江松恋[著]/横田直幸・白石晃士[脚本]

判型:新書判

版元:富士見書房[発行]/角川グループパブリッシング[発売]

発行:平成19年3月17日

isbn:4829176318

本体価格:600円

商品ページ:[bk1amazon]

 2007年3月17日公開のホラー映画『口裂け女』と同時期に刊行された、公式ノヴェライズ作品。

 海沿いにある坂の町・伊庭で育った紀井羅ひいろは、母・朱音の厳命で、坂のある領域から踏み出たことがない。だが、町中に拡がりはじめた“口裂け女”の噂と、その警告通りに姿を消す友人たち、そしてときおり夢でも現実でも遭遇する奇妙な佇まいの女が、ひいろを次第に境界の外へと導いていく……

 ノヴェライズと言い条、本編は映画版とまったく別の筋立てになっている。流行してから30年を経た、都市伝説の代表格たる“口裂け女”を現代に移植して描くにあたり、現代の歪んだ親子関係を背景に用いた画期的な点を踏襲しているが、登場人物どころか舞台までまるっきり別物だ。従って、一般的なノヴェライズのように、どちらかに触れればこと足りるというものでもなく、筋を知って興を削ぐ、という危険はない。純粋なホラーとして本書のみ読むのもいいだろう。実際、映像的な見せ方にこだわらず、あくまで小説としての結構に意識を注いでいるために、知らずに読めば充分ホラー小説として吟味できる。

 ただそれでも、恐怖場面の見せ方が映像として展開されることを意識したようなモチーフを使っていたり、小学校の教師や歪な親子関係を採りあげながら映画版では欠けていた子供側の目線を盛り込んでいる点など、映画『口裂け女』と並べてみると興趣の増す表現が随所にある点には注目しておきたい。とりわけ後者は、同じ主題を採りあげながらも映画とは異なった方向に話を運んでおり、いっそう掘り下げることに成功している。意図的に違う話にした成果を、このあたりできっちりと挙げている。

 惜しむらくは、ミステリ評論家としても活躍している著者にしては結末がストレートすぎる点だが、必ずしもどんでん返しやその衝撃に着眼した作品ではないので、これはちょっと望みすぎの注文と言えよう。紙幅は少なめだがその分価格も手頃で、万人が触れやすくその上芯もしっかりした、良質のホラー小説である。映画を観て満足された方にも、是非ご一読いただきたい。

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