稲川淳二の怖い話 ザ・ベスト

稲川淳二の怖い話 ザ・ベスト 稲川淳二の怖い話 ザ・ベスト』

稲川淳二

判型:文庫判

レーベル:竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2007年6月6日

isbn:9784812431269

本体価格:571円

商品ページ:[bk1amazon]

 毎年夏の恒例である著者の怪談本ラッシュ、筆頭を飾る本書は、インターネットで投票を行い、ファンから高い人気を獲得した作品を中心に収録したもの。第1位となった伝説的な怪奇事件“生き人形”の後日談をはじめ、2位から9位までの8編と、新作短編5本を収める。

 毎年律儀に出るのはいいが内容的な劣化が著しいので何とかならないものか、とこちらも毎年のように訴えている本シリーズだが、反省を踏まえてか、人気投票の結果を反映したベスト版という体裁の新刊である――やはり新しいエピソードの蒐集に苦慮した挙句、という感覚も抱くし、こういう投票を行えばトップに『生き人形』が来ることは想像に難くなく、ならきちんとまとめて収録する覚悟を決めておけばいいのに、と思う。『生き人形』は間違いなくこの手の怪談では類を見ない大作であり、いちどきっちりと整頓したうえで上梓されるべきだろうから、語り手としてその使命から逃げた、と謗られてもこれでは仕方ないだろう。後日談の内容も芳しくなく、読者の渇に応えているとは言いがたい。

 ただ、他の話も、さすがに投票で上位に食い込んだだけあって、その意味では久々に満足のいく内容である。長年著者の怪談を聴いている人間ならいずれも旧知の話ではあるが、出来のいい怪談は何度聴いてもいい。もはやその正体が“都市伝説”であると考えられている第9位の『彼女たちの修学旅行』を無自覚に収録してしまっているのには首を傾げるが、問題はその程度だ。

 新作5本のほうは案の定、低調な出来である。不出来な落語にしか思えない時代物に、創作としか感じられないトリの1本を除けばまあまあという手応えなのだが、しかし人気投票を潜り抜けてきた作品群と並べるとやはりいずれも弱い。ベストだけでは往年の読者に訴えられない、といった判断から新作を同時収録したのかも知れないが、半端にするくらいならばもうちょっと下のランクまで拡げて、1冊まるごとベストでまとめてしまった方が良かったように思う。

 近年の著作では間違いなく最も安心して読める仕上がりだったが、やはり細部が杜撰であることは変わらない。その辺を承知している人のための新刊である。

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