『こわい童謡 表の章』

監督・脚本:福谷修 / 製作:二宮清隆、太田和宏、熊澤芳紀 / プロデューサー:伴野智、柳原祥広 / 撮影:福田陽平 / 照明:中村晋平 / 録音:治田敏秀 / 美術:黒川道利 / 特殊メイク:マイケル・T・ヤマグチ / 衣装:中村亮太 / VFXスーパーヴァイザー:柳隆 / タイトルデザイン:坂本サク / 編集:中山朝生 / 音楽:原田勝通 / レコード歌唱:玉城ちはる / 主題歌:志方あきこAmnesia』(ハッツアンリミテッド) / 出演:多部未華子近野成美悠城早矢秦みずほしほの涼霧島れいか笠原紳司 / 制作プロダクション:東北新社クリエイツ / 配給:東京テアトル

2007年日本作品 / 上映時間:1時間14分

2007年07月07日日本公開

公式サイト : http://www.douyou-movie.jp/

テアトル新宿にて初見(2007/07/14)



[粗筋]

 全寮制の名門・聖蘭女学院に転校したばかりの正木彩音(多部未華子)は、ルームメイトとなった小川奈々香(秦みずほ)の誘いで、合唱部に加わる。だが、新たに顧問となった教師・栗原美咲(霧島れいか)が名門合唱部の復活を志し、伝統であった童謡でもってコンクールに優勝することを目標に打ち出して以来、奇妙な幻聴に悩まされる。参考として、美咲が生徒たちにレコードを聴かせていたとき、彩音はそのレコードには入っていないはずのメロディ――『かごめかごめ』の音色を聴き、次の瞬間、前に座っていた奈々香が倒れた。

 部屋に連れ帰り介抱すると、奈々香は自分が妊娠していることを彩音に打ち明けた。実は内心で学校を辞めたがっていた奈々香はせいせいした表情をしていたが、突如としてナイフを握り、『かごめかごめ』を口ずさみながら己の手首を刻み始めた。驚愕し彩音が制止すると、部屋を飛び出してしまう。

 彩音と寮友たちの捜索の甲斐もなく、奈々香は屋上から飛び降り、骸となって発見された。奇怪なのは、落ちるその現場に居合わせた生徒は、奈々香は転落しながらやはり『かごめかごめ』を歌っていたのだという。

 異様な出来事はまだ続く。奈々香の死という事態を経てもなお練習の強行を訴えた染谷未紀(近藤成美)は、だが本音では奈々香の死に誰よりも胸を痛めており、結果的に彩音と心を通わせるのだが、その直後彩音は、校舎のトイレで首を吊りながら『とおりゃんせ』を歌う未紀を見つけてしまう。しかし、のちほど美咲と共に駆けつけたときには、跡形もなかった。

 不可思議な出来事の連鎖はなおも繰り返される。やがて彩音は、一連の出来事に童謡の“裏”の解釈が拘わっていることを察するのだが……

[感想]

『渋谷怪談』の脚本をきっかけにホラーというジャンルに没頭していった福谷修監督の最新作は、『渋谷怪談』同様に前後編仕立てとし、巷間に流布する不気味な噂を原型とした作品である。この構想を深めた結果、この表の章では大部分の謎が解き明かされず、すべては裏の章で決着するという発想に至ったようだが、しかしそれでも分けて上映するならばとりあえずの決着、カタルシスぐらいは用意しているのだろう、と想像していた。まさか、本当に投げっぱなしで終わるとは思っていなかった。それでも、次のエピソードで解き明かされるものに関心が抱けるような顛末であれば構わなかったのだが、そのレベルにも達していない、というのが正直なところである。

 まず、色々とおぞましい出来事が生じるのだが、それらの関連性が終始掴みにくいのが致命的だ。長篇で語るのであれば、まして“童謡”というキーワードで繋ぐのであれば、何故繋がっているのかを明確にしなければ恐怖にも、また観客を牽引していく仕掛けにもなり得ないのだけれど、その辺をまったくお座なりにしているので終始乗れない。童謡と異様な出来事、というところにだけ注目し、犠牲となる少女同士の繋がりであったり、彼女らが何に怯えているのか、という点を最後まで明確にしていないので、感情移入することも、想像して恐怖を感じることも出来ない。ごく基本的なところで、主人公となる彩音によるナレーションがどの段階で行われているのか、という点も明確に線引きをしていないので、そこからして非常に不自然な印象を与えるのだ。

 そもそも“こわい童謡”と銘打っておきながら、各々の惨劇と童謡の解釈がどう繋がっているのか、また別々の童謡が何故連鎖して悲劇を齎しているのか、という点については何かの解釈を提示することも、それ以前に登場人物たちが推測することもしないので、“童謡”が“こわい”という認識になり得ない作りになっているのがいけない。観終わっても、何を怖がればいいのかさっぱり解らないままなのである。そのため、観ていて恐怖に繋がるものがショック演出のみとなっているため、単なるアトラクションとしての意味合いしか備えられなくなっているのだが、どうもレーティングを高く敷かれるのを怖れて猟奇的な表現を避けたせいで、それすらインパクト不足に陥っている。心理的な恐怖の演出はおろか虚仮威しも不発では、ホラーとしてほとんど成り立っていない。

 中心となる女子高生たちの人物造型は無理を感じさせないし、名子役から少女へと脱皮しつつある多部未華子をはじめとした役者の演技も悪くない。しかし、脚本にも演出にも芯が通っていないため、ほとんど無駄に終わっているのが勿体ない。

 逆に、これほどグズグズになっているものをどう回収するのか、というネガティヴな興味から次の『裏の章』を観たい、という気にさせられはしたが、まさかそういう関心を狙って作ったわけではあるまい。単体として観てまったく意味を為さない以上、率直に言ってほとんど評価の出来ない作品である。観るつもりのある方は、なるべく続けて観られる状況を整えることをお薦めする。

 ……ただ、感想を書き上げるのが遅くなってしまったせいで、これをアップしている時点で私は既に『裏の章』も観ているのだが……案の定というか、揃えてもさほど褒められる出来になっていなかったことをお断りしておかねばならない。詳しくは後日アップする『裏の章』の感想を参照されたい。

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