『ラッシュアワー3』

原題:“Rush Hour 3” / 監督:ブレット・ラトナー / 脚本:ジェフ・ナサンソン / キャラクター原案:ロス・ラマナ / 製作:ロジャー・バーンバウム、アーサー・サルキシアン、ジェイ・スターン、ジョナサン・グリックマン、アンドリュー・Z・デイヴィス / 製作総指揮:トビー・エメリッヒ / 撮影監督:マイケル・ミュロー / プロダクション・デザイナー:エドワード・ヴァリュー / 編集:ドン・ジマーマン、ディーン・ジマーマン、マーク・ヘルフリッチ,A.C.E. / 衣装:ベッツィ・ヘイマン / 音楽:ラロ・シフリン / 出演:ジャッキー・チェンクリス・タッカー真田広之、ノエミ・ルノワールマックス・フォン・シドーイヴァン・アタル工藤夕貴、ツィ・マー、ロマン・ポランスキー、チャン・チンチュー、スン・ミンミン、ジュリー・ドパルデュー / 配給:東宝東和

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:岡田壯平

2007年08月25日日本公開

公式サイト : http://www.RH3.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2007/08/28)



[粗筋]

 国際犯罪対策会議の席上、ハン中国大使(ツィ・マー)が何者かの凶弾によって倒れた。警護に就いていたリー捜査官(ジャッキー・チェン)は狙撃者を視認、すぐさま追跡を始めるが、ようやく追い詰めたその男の正体に驚愕する。彼はかつて孤児院で同じ日々を過ごしながら、やがて別々の道を歩むことになったケンジ(真田広之)であった。拳銃を向けるも撃つことが出来ず、すんでのところで駆けつけた友人のカーター刑事(クリス・タッカー)――ただし今は降格処分を受けて交通課所属――によってどうにか助かったものの、ケンジをみすみす取り逃がしてしまう。

 ケンジとの因縁もあり自分で捜査をしたかったリー捜査官だが、不自然な状況もあって正式な任務からは解かれ、代わりにハン大使の娘スーヤン(チャン・チンチュー)の護衛をするよう命じられる。以前に携わった事件で縁のあったスーヤンは、リーとカーターに、父の安全のためにも是が非でも犯人を捕まえて欲しいと頼み、ハン大使が事件以前に情報を託していったことを伝える。リーは自分の問題だ、とカーターを帰そうとしたが、リーの“兄弟”を自認するカーターは強引についていく。

 しかし、既に隠し場所は組織の手で荒らされたあとだった。スーヤンも危ない、と悟ったふたりは病院に舞い戻り、辛うじて大使達を守り通す。取り押さえた襲撃者のひとりから情報を引き出すが、その意味するところはいまひとつ判然としない。ひとまずスーヤンの安全を確保するべく、ハン大使の参加していた会議の委員長であるレナード(マックス・フォン・シドー)に身柄を預けようとするが、彼女たちが乗り込もうとした車がまさにその瞬間、目の前で爆発した。

 だが、これらの出来事から、ふたりは手懸かりを見出す。襲撃者はフランス語を駆る人物だった。そして、狙われたと思しいレナード委員長はフランスの人間。ヒントはフランスにある――そう睨んだリーとカーターは、共にフランスへと渡った……

[感想]

 監督のブレット・ラトナーは他ならぬこのシリーズの第1作によって一挙にその名を知らしめた人物だが、しかし現在となっては一種、エンタテインメントの職人として認知されている趣がある。『羊たちの沈黙』『ハンニバル』の成功を受けて二度目の映画化となった『レッド・ドラゴン』を正統派のサスペンスとして手堅く仕上げ、ブライアン・シンガーが『スーパーマン・リターンズ』を手懸けるために空席となった『X-MEN:ファイナル ディシジョン』の監督の役割を完璧に勤めあげた。単発でも『ダイヤモンド・イン・パラダイス』をスマッシュ・ヒットさせ、アメリカで隆盛となっているテレビドラマの分野でも『プリズン・ブレイク』というヒット作に携わっている。そんな彼が、出世作であるこのシリーズの最新作もきっちり手懸けるというのだから、ヘマをしでかすはずもない、と信頼しきっていたが、見事なほど期待に違わぬ出来である。

 本編の美点は、冒頭からいきなりトラブルが発生し、あとは最後までほぼ余すところなく実を詰め込んでいることだ。のっけから、交通警官に格下げとなったカーター刑事のおちゃらけトラブル・メーカーぶりを描きつつ、並行して見るからに危険を孕んだリー捜査官の周辺をちらつかせる。そして狙撃事件が発生すると、まだ開始10分も経っていないのにいきなり熾烈な追跡劇が始まる。もう何か考える前に話が進んでいるので、気づけば完璧に眼を釘付けにされているのだ。そして気づけばクライマックスに辿り着いている。この呼吸の巧さ、そして実の詰まり具合はただごとではない。

 ただ、あまりにぴっちりと、バランス良く描写が詰め込まれているために、終わってみると妙に物足りなさを感じさせることも否めない。もっとコミカルに、もっと派手に、そしてもっと激しいアクションを、と思わせてしまうのである。実際には充分すぎるほどふんだんに詰め込まれているにも拘わらず――いや、それゆえにだろう、見ている側としては「もっと」「もっと!」と要求したくなってしまう。あまりによく纏まりすぎているがゆえのジレンマに陥っているのだ。

 しかしその辺を承知のうえでなら、充分に楽しめる仕上がりであることは保証する。メインふたりの活躍は言うに及ばず、日本から参加の真田広之工藤夕貴もきっちり気を吐いている。背景については深く描かれないながらも、ジャッキー演じるリー捜査官と因縁のある悪役を終始味わいたっぷりに演じる真田広之も、逆に背景などほとんどちらつかせない不気味な女傑に徹した工藤夕貴も、充分なほど存在感を発揮している。

 エピローグさえ設けないほど綺麗さっぱりとした潔さに一瞬呆気に取られるほどだが、そこまで含めて娯楽に徹した精神が好ましい、ある意味誇りに満ちたB級アクションの名品である。改めてこの監督、職人だと思う。

 ……ところで、ロマン・ポランスキーはいったいなんでこの映画に出てるんでしょう。愉しかったけど。

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