実践・鏡地獄

 ミステリ愛好家なら読んだことがある人は多いでしょう、江戸川乱歩の『鏡地獄』を。鏡に魅了された挙句、球体状の鏡の中に入って発狂してしまう、というあの話です。ミステリファンならずとも少しは興味の湧くであろうこの実験を、何と本日、テレビでやってました。

 学者が疑問に思ってもなかなか実験できない荒唐無稽な思いつきをジャニーズの嵐が実際に試してみる、というシリーズ特番『驚きの嵐』の中の1コーナーとして放映されたのです。この番組、前回のときそのお馬鹿さ加減と、ごく真っ当な探求心が好もしかったので、鏡地獄関係なしに楽しみにしていたのですが、冒頭で本日の内容が紹介された時点で異様に興奮しました。だって、あれを読んだ人間なら1回はやってみたいと思うだろ普通!

 で、結果なのですが……録画した人のために黙っておこうかしら。いや、なんかムズムズするので、“続きを読む”記法にて記します。



 結論から言うと、中に入った当人の証言では、本人の前に上下逆さまの、立体的なもうひとりの自分が見えて、その向こうに自分の大きな後頭部が見える、という具合らしい。本人の頭に固定したカメラからだと、正面の半球に顔を近づけるとクリアな、普通の鏡と同じ像が結び、後退すると途中で像が裏返り、最終的にお玉に顔を映したときのような、上下反対の像を結ぶ。

 様々な光学現象が展開した結果としてこれほど複雑な状態になるようですが、しかし状況を説明していくとけっこうなるほどと思います。番組では嵐のメンバーひとりが入って説明しただけなので、他の人物がどう実感するのかを採集していないのが問題ですが、しかしだいたい理解は出来ます。

 この番組、笹で造った船で何キロ川を下れるかとか、水遁の術は何mまで保つか、とか実に馬鹿なことをやって間の抜けた結果を出したりもしてますが、その実験精神は学問の正しい姿なので、好感をもって見ていたのですけれど、今回のは白眉と言ってもいいでしょう――提案した学者以外の反応は微妙でしたけど。

 しかし、そうか、発狂しないのか……そこはちょっと残念。現実が解ったからって作品の価値が失われるわけではないですが、さすがに幻滅は禁じ得ません。

 ところでこの番組の中で乱歩の『鏡地獄』について触れてなかったんですけど、これだけ人がいて誰も知らなかったのか特に触れる必要を感じなかったのかどちらなのやら。ちょっとでも触れて欲しかったなー。

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