『28週後…』

原題:“28 Weeks Later…” / 監督:フアン・カルロス・フレスナディージョ / 脚本:フアン・カルロス・フレスナディージョ、ローワン・ジョフィ、ジーザス・オルモ、E・L・ラビニュ / 製作:アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒエンリケ・ロペス=ラビニュ / 製作総指揮:ダニー・ボイルアレックス・ガーランド / 共同製作:バーナード・ベルー / 撮影監督:エンリケ・シャディアック / プロダクション・デザイナー:マーク・ティルデスリー / 編集:クリス・ギル / 衣装:ジェーン・ペトリ / 音楽:ジョン・マーフィ / 出演:ロバート・カーライルローズ・バーンジェレミー・レナーハロルド・ペリノーキャサリン・マコーマックマッキントッシュ・マグルトン、イモージェン・プーツイドリス・エルバ / 配給:20世紀フォックス

2007年イギリス・スペイン合作 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:松浦美奈

2008年01月19日日本公開

公式サイト : http://www.28weekslater.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2008/01/18) ※公開記念のイベント上映



[粗筋]

 イギリスを発端として始まった、“レイジ・ウイルス”の爆発的感染は、隔離された感染者達が餓死することで、急激に収束が始まった。24週を経て、米軍・NATO軍共同によるイギリス復興が開始され、殺菌処置の済んだ区画から順次、国外に脱出していた一般人達の帰還が認められるようになった――

 ――そして、28週後

 スペインに旅行に出かけていたために難を逃れたタミー(イモージェン・プーツ)とアンディ(マッキントッシュ・マグルトン)の姉弟は、遂にロンドンに戻ることが出来た。駅では、長いこと離ればなれとなっていた父ドン(ロバート・カーライル)との再会を果たす。

 しかし、母アリス(キャサリン・マコーマック)の姿はそこにはなかった。ドンによれば、郊外の老夫婦の家で他の数人と息を潜めて暮らしていたが、あるとき台所の窓から感染者が侵入、瞬く間にアリスは襲われ、助けることが出来なかった、という。

 父だけでも助かってくれて良かった、と応える姉弟だったが、それでも悲しさは拭えない。そのうえ、彼らの暮らしていた家は未だ安全領域の外にあるため、復興地区でも地位の高いドンといえども、そこに戻ることは出来ないというのだ。

 旅先で災厄に見舞われたために写真を身に付けていなかった姉弟は、母の顔を忘れてしまいそうな恐怖心を抱いた。写真と、思い出の品を取りに行くだけ――そう胸の裡で弁解して、姉弟は兵士達の目を盗み、バリケードを抜け出した。

 荒廃した街を、放置されたスクーターで駆け抜け、どうやら無事に生家に辿り着いた姉弟は、だがそこでまったく予測しないものと遭遇した。屋根裏部屋に潜んでいた、ひとりの人物――それは何と、死んだと聞かされていた彼らの母アリスだった。

 母との思いがけない再会直後、上空から行方を追っていた軍によってタミーとアンディは確保されるが、「死んだ」と告げた父に対する不審は色濃い。検疫のため隔離された部屋から、ガラス越しに「ママに逢わせて」と訴えるふたりに、ドンは返す言葉もなかった。

 一方、久々に危険区域で確保した生存者であるアリスの健康状態を調査していた女性軍医スカーレット(ローズ・バーン)は、驚くべき結果を目にする。アリスは間違いなく感染している――だが、発症はしていない。遺伝性の特異な免疫を備えているために、保菌者となりながらも彼女は発症することなく生き長らえていたのだ。スカーレットはこの遺伝子を研究すれば、“レイジ・ウイルス”を完璧に克服できる、と確信する。しかし上司は、新たな感染の拡大を危惧し、アリスを殺したうえで調査するように指示した――

 だが、スカーレットが迷っている間に、事態は一気に進展してしまう。セキュリティを乗り越えられるIDを所持したドンが、何も知らずにアリスと接触してしまったのだ。そして――ロンドンはふたたび、地獄絵図と化す。

[感想]

28日後…』の続編として製作された本編だが、基本の設定を引き継いで更に後日の出来事を描いているだけで、登場人物はひとりとして共通しておらず、前作を観ていなくてもさほど問題はないだろう。

 新たに監督・脚本に就いたフアン・カルロス・フレスナディージョは、『10億分の1の男』という作品で注目された知性派である。もともと『28日後…』で提示された要素は、基本的にゾンビ映画のお約束を踏襲しつつも、血液が粘膜に付着して体内に吸収されればすぐに発症する、また生者なので従来のゾンビのように緩慢な動きではなく全力疾走も可能である、などなど活かし甲斐のある素材を無数に鏤めてあり、これを巧く敷衍すれば充分に面白い作品になることは保証されているようなものだった。それを、きちんと考察しつつ描くことの出来る監督が手懸けたお陰で、かなりの質を得ることにも成功している。

 前作はゾンビ映画のお約束を踏まえつつも、次第に究極状況での人間ドラマという性格を強めていったが、本編は“驚異的な感染速度を誇るウイルス”“常人と変わりない運動能力を持つ感染者”という部分を改めて押さえ、それを活かして恐怖と緊張感とを巧妙に盛り上げる作りになっている。誰が味方で誰が敵か解らない状況での逃走劇、相手がもはや救う手だてのない感染者であるからこそ出来る苛烈な反撃など、この要素から導き出される凄惨な描写をうまく鏤めていく。

 他方で、心理描写やシチュエーションにおける実験も疎かにしていない。封じ込めに失敗した結果、一般人に対して無差別に発砲する軍隊と、そのなかで迷いを生じる人物の心的葛藤を盛り込む。街を横切っての逃走劇では、ガスに包まれた中での緊迫感とドラマをうまく描き出していたし、とりわけクライマックスにおける、真っ暗闇の中での逃走はヴィジュアル的にも練度が高い。

 その代わり、と言っては何だが、逃走劇の動機付け部分はかなり単純化されている。終盤で明かされる事実は最近公開された別の映画でも結末に利用されていたぐらいでもう少し工夫が欲しいと感じられたし、最後のドラマにはもう一捻りぐらいあっても良かったように思う。

 だが、随所に盛り込まれた映画的なアイディアと、ホラー映画の定石を踏まえた上で作り込まれたモチーフの数々を純粋に愉しむためには、これ以上複雑な構造を必要としなかったのも間違いない。ストーリーの趣向こそ重要、と考える向きには歯痒さを覚える出来だろうが、B級娯楽ものとしてのホラー映画のニュアンスと、文芸映画の系譜に属する映像感覚とプロットとを共存させるバランス感覚という意味からすれば、本編の匙加減は極めて絶妙なのである。

 続編映画、こと監督などを変更した作品は成功しない、というのがかつてはハリウッド映画での常識のように捉えられていたが、本作は極めて幸運な例外と言える。捉えようによっては『28日後…』を凌駕しているとも言える、良質の作品である。

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