『252 生存者あり』

『252 生存者あり』

原作:小森陽一 / 監督:水田伸生 / 脚本:小森陽一斉藤ひろし水田伸生 / 製作:堀越徹 / 製作総指揮:島田洋一 / エグゼクティブプロデューサー:奥田誠治 / 撮影監督:林淳一郎、さのてつろう / 照明:豊見山明長 / 美術:清水剛 / VFXスーパーヴァイザー:小田一生 / 録音:鶴巻仁 / 編集:菊池純一、佐藤崇 / 音楽:岩代太郎 / 主題歌:MINJI『LOVE ALIVE』(DREAMUSIC) / 出演:伊藤英明内野聖陽山田孝之香椎由宇木村祐一、MINJI、山本太郎桜井幸子大森絢音松田悟志杉本哲太温水洋一、西村雅彦、阿部サダヲ / 制作プロダクション:ツインズジャパン / 配給:Warner Bros.

2008年日本作品 / 上映時間:2時間13分

2008年12月6日日本公開

公式サイト : http://252-movie.jp

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/22)



[粗筋]

 2009年9月11日、小笠原諸島で大きな地震が発生した。人的被害は軽微だったが、近海で調査を行った船が、間もなく異様な海水温の上昇を記録する。気象庁の海野咲(香椎由宇)はこれを契機とした巨大台風の発生を予想するが、上司の小暮(西村雅彦)はいたずらに人心を動揺させかねないこの予報を発表しなかった。

 だがそれから5日後の16日、巨大台風は日本に恐るべき災厄を齎す。上陸よりも前にまず拳大の雹を都市圏に撒き散らし、続いて津波を起こして、湾岸地区や地下鉄網に深刻な被害を及ぼす。

 この事態によって壊滅状態となった地下鉄新橋駅に、5人の男女が孤立した。元レスキュー隊員の篠原祐司(伊藤英明)とその娘しおり(大森絢音)、研修医の重村誠(山田孝之)に精密機器会社の社長・藤井圭介(木村祐一)、そして銀座のホステスであるキム・スミン(MINJI)。篠原の機転により5人は新橋駅の古いホームに逃げこむが、先頃の地震と鉄砲水により地盤は緩み、長くは保たない。

 一方、地上でも危機的状況の中で懸命の救出作業が続けられていた。篠原の兄でレスキュー隊長を務める静馬(内野聖陽)は現場付近で祐司の妻・由美(桜井幸子)を保護、弟と姪が地下に閉じ込められている可能性を察知するが、人智を絶した台風を前に手も足も出ない。

 しかし間もなく、静馬は弟の生存を確信する。それは、生きることを諦めたくない祐司が柱を叩き続けて送ったメッセージがきっかけであった。2、5、2のリズムを刻む打撃音が示すのは、“生存者あり”を意味するレスキュー隊の符丁。

 だが、そんな彼らの前に未曾有の大型台風が障害となって立ちはだかる。果たして祐司達は無事に生還できるのか、静馬達レスキュー隊は彼らを救出できるのか……?

[感想]

 近年は日本映画も大作が多くなっているが、意外と少ないのが災害を扱ったパニックものである。ここに来て本篇に『感染列島』と、立て続けに予算を費やした大作が公開されたが、かなり珍しい状況である。

 それは、こういった作品がリアリティを構築するために、普通のドラマとは比べものにならないほど綿密なリサーチを必要とするせいがあるのだろう。日本では、と記したがハリウッドでも近年は少なくなっているのが現状だ。

 そんな中で公開された本篇だが、全体として非常に高いクオリティに仕上がっている。原作・脚本としてクレジットされているのは、海難救助隊を題材にしてヒットを飛ばした『海猿』の原作漫画と映画の双方に携わっている小森陽一という方であるだけに、レスキュー隊のディテールはしっかりしているし、大型台風発生のきっかけから雹、津波という台風上陸に先駆ける災害を設定するなど、科学的な裏付けを持ちながらもこれまであまり例のない展開をしており、災害のシミュレーションとしても興味深い一面を備えている。

 人物も、オーソドックスだが災害ものでドラマを醸成するために効果的な設定と配置になっている。登場人物たちの設定を事態打開のための材料としてうまく活かしていることもそうだが、過去の出来事が原因でレスキュー隊を退いた人物を閉じ込められた側に、それを救助するレスキュー隊を率いるのが閉じ込められた人物の兄に、という構成で双方に葛藤を描いているのも、パニック映画としては定石ながら絶妙だ。

 よく練り込まれ丁寧に作っているのは評価できるのだが、それでもあちこちに引っ掛かる点がある。たとえば、小笠原諸島沖とはいえ大きな地震に、探査船が出るほどの地殻変動が起きているにしては街が平穏すぎること、災害のあとの絵が過剰すぎたり逆に中途半端なのでは、と思える部分が多いなど、なまじ災害の状況をよく検証していると見えるだけに却って「本当にそうなるかこれ」と首を傾げたくなる、いまいち裏打ちが乏しいように見える箇所が散見されるのが惜しまれる。

 だがいちばんいけないのはクライマックスだ。ようやく大団円か、と思われたところでもうひと波瀾あるのだが、そこの決着が、前後関係が解らないために取って付けたように見えるのは、なまじドラマを丁寧に作っているだけに残念でならない。またエピローグ的に示されるエンドロールが、本篇で使われていない映像が本篇とどのようにリンクしているのかいまいち解りにくい一方で、何故か本篇のハイライトを挟みこんでいるのが引っ掛かる。そのせいで、わざとらしいながらも盛り上げた本篇最後のドラマが余計に散漫とした印象になってしまっているのだ。

 最後の最後でマイナス部分が多いのが残念だが、しかしトータルでは終盤まで緊迫感の途切れず、災害の状況や人物設定などのディテールによって奥行きを持たせた、パニック映画の秀作と呼べる出来に仕上がっている。実際にこういう事態に遭遇したときどういう対処をすればいいか、の参考にはとうていならないが、想定される悲劇とそれに対峙する人間の姿はかなり精緻に描かれており興味深い内容であった。

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