『邪願霊』

邪願霊 [DVD]

監督:石井てるよし / 構成、ヴィジュアル&サウンドデザイン:小中千昭 / 製作:石浜竜三 / 撮影:古川誠 / 照明:佐藤由直 / 美術:小林健三 / 編集:深沢佳文 / フェイス・デザイン:トニー・タナカ / 音楽:うさうさ、八木橋敬也 / 出演:石井一枝、竹中直人佐藤恵美、梅原正樹、本田修一、吉田照美水野晴郎 / コスモオフィス製作 / 発売元:彩プロ / 販売元:Pony Canyon

1988年日本作品 / 上映時間:49分

1988年オリジナルビデオ版リリース

2005年4月27日DVD最新盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/06/25)



[粗筋]

 潜入リポーター・沢木恭子が中心となって話題の人物や土地に取材を試みるドキュメンタリー番組の企画として、新人アイドル・佐藤恵美のキャンペーンを追うことになった。プランナーの河西祐二が中心となり、新商品のプロモーションと新曲のプロモーションとを同時に行うという、この頃としては画期的な趣向であったが、最終的にこのキャンペーンはお蔵入りとなり、沢木恭子らのドキュメンタリーも放送されることはなかった。

 最初の違和感は、用意した新曲“ラブ・クラフト”の出所について、何故か河西が明言しないことであった。当初は、あるコンクールで惜しくも入選を逃したが、今回の恵美のイメージに相応しいということで採用した、という話だったが、恭子たちドキュメンタリーのスタッフが調査すると、問題のコンクールに該当する曲は応募されていなかった。

 恭子たちは恵美のプロモーションをそれまで通りに追う一方で、芸能界の暗部を匂わせるこの新曲についての成り行きを取材し始める。だが時を同じくして、恵美や河西の周辺に、奇妙な出来事が起きはじめるのだった……

[感想]

 実際には存在しなかった出来事を、何らかの理由でカメラが追っていたと設定してフィクションを構築する方式が存在する。いつ、どんな作品が起源だったのか、という点については、詳しく勉強も調査もしていないので名言は出来ないが、少なくとも映画においてこのジャンルの存在を知らしめ、可能性を認知させたのが、1999年に製作・公開された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』であることは間違いない。海外では怪獣映画をこの手法で撮った『クローバーフィールド/HAKAISHA』に、スペインで製作されハリウッドでリメイク、今年の秋には本国で続篇も公開されることが決まっている『REC/レック』があり、日本でも白石晃士監督の『ノロイ』、テレビで深夜に放送され、劇場版にまで発展した『放送禁止』シリーズがこの流儀に倣って製作されている。

 しかし今回取り上げたこの作品は、驚くべきことに『ブレア〜』に10年も先駆けて、日本で製作されたものなのだ。ドキュメンタリー撮影をしている、という前提で虚構の出来事を綴る、というアイディアまでも本篇で提唱された、というわけではないだろうが、その枠組のなかでホラーを描こうとした発想と、形にしてしまった意欲には頭が下がる。

 だが前例などほとんどなく、手法を洗練することなど不可能であった時代の作品だけに、今の眼で見ると拙い印象は否めない。

 現実の会話の呼吸を考慮せず、言葉を明瞭にすることを優先した、如何にも古くさい芝居はギリギリ許容するとしても、実際のドキュメンタリーとして眺めると不自然すぎるカメラワークがどうしても気に懸かる。当初の目的である、アイドルのプロモーションの模様を取材した直後、普通にドキュメンタリー側のディレクターとレポーターが会話している姿を真っ向から撮ってしまうのは奇妙すぎるし、取材される対象の動きを想定したカメラワークが随所に見られるのは、ドキュメンタリーらしいライヴ感、即興的な雰囲気を損ねてしまっている。ドキュメンタリーと感じるには、会話も映像の作り方も紛い物っぽさが強すぎるのだ。

 尺が短いこと、そもそもオリジナル・ビデオとして企画されていたようで製作費も乏しかったのだろう、怪奇現象の分量が少ないのも残念だ。アイディアとしてもいささかストレートすぎ、各個の現象を繋ぐ要素が乏しいので、全体を通して膨らんでいく怖さ、という意味でも物足りない。やはり前例がない分、手法がこなれていないのがどうしても気に懸かるのだ。

 とは言い条、20年も前にこれを着想し、短い尺ながら形にしてしまったこと自体は賞賛すべきだろう。また、手法が洗練されてしまったからこそ、近年では逆に考えつかないアイディアがクライマックスに用いられている点は特筆しておくべきだと思う。如何にフェイクと言っても発想が極端すぎるのだが、ある出来事を別の角度から捉えることで不気味さを膨張させる、という意味ではきちんと効果を上げており、最初だったからこそ大胆さが活きている。

 映像も芝居も古臭さは否めず、ホラー映画を愛好していてもさすがに今となっては苦笑を禁じ得ない出来である。だが、ホラーに限らず、こうしたフェイク・ドキュメンタリー形式による作品に関心のある人ならば、色々と興味深い1本となるはずだ。

 ……ただ、エンドロールあとの映像は不要だった、と思う。あれは誰に対して、何を意図して語りかけたものだったのか。そして締め括りの映像など、最後の最後であの人の悪い癖が出てしまったのではなかろうか。

関連作品:

ノロイ

クローバーフィールド/HAKAISHA

REC/レック

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