『オカルト』

オカルト [DVD]

監督・脚本・撮影・編集・出演:白石晃士 / プロデューサー:山本正、しまだゆきやす / 助監督:栗林忍 / 編集:高塚絵里加 / VFXアドヴァイザー:岡野正広 / VFX:近藤聖治 / 特殊メイク・造形:征矢杏子(Atelier SOYA) / 整音・効果:中川究矢 / 音楽:Hair Stylistics(中原昌也) / スチール:直井卓俊 / 出演:宇野祥平、野村たかし、東美伽、吉行由実近藤公園、大蔵省、篠原友希子、ホリケン。、高槻彰、鈴木卓爾渡辺ペコ黒沢清 / 制作・配給:IMAGE RINGS / 企画・製作・映像ソフト発売:CREATIVE AXA

2009年日本作品 / 上映時間:1時間50分

2009年3月21日日本公開

2009年7月24日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.occult-movie.com/

DVDにて初見(2009/07/24)



[粗筋]

 2005年、観光地で通り魔殺人が発生した。3人を殺害、ひとりに重傷を負わせたのち、犯人は近くの崖から海へと投身したため、動機や背景は一切詳らかとなっていない。

 この事件に強い関心を抱いた映画監督の白石晃士ドキュメンタリー映画を企画し、2008年から事件の遺族へのインタビュー、現地取材を軸とした撮影を開始した。偶然に録画された犯行の模様も、居合わせた人々が語る目撃談にも、奇妙な話が紛れ込むが、いちばん異様なのは、唯一生き残った男性の証言であった。

 その人物――江野祥平(宇野祥平)は、犯人に耳許で「次はお前の番だ」と囁かれながら、幾度も背中を刺されたのだという。しかし、彼は死ななかった。代わりに背中に残った傷跡は、まるで何かの紋様のようになっていた。

 現在、江野は犯人に対して怨みを持つどころか、感謝さえ抱いているという。事件以来、身の回りに“奇跡”と呼べるような出来事が頻発するようになった、という彼の証言の真偽、そして事件にまとわりつく怪奇現象の正体を探るために、白石は密着取材を敢行する。……

[感想]

口裂け女』に『テケテケ』二部作、残酷表現の限界を追求した『グロテスク』のような作品も発表しているが、恐らく白石晃士監督にとっていちばん馴染むスタイルはドキュメンタリーなのだろう。やたらと活き活きとしているように映る。

ノロイ』以来となるフェイク・ドキュメンタリー形式だが、徹底的に作り込んだ同作と異なり、彼がかつて手懸けた『ほんとにあった!呪いのビデオ』に近い味わいである。通り魔殺人のルポルタージュ、というよりは偶然にその様子を撮影してしまったビデオと、そこに収められた奇妙な事実の検証、という趣であり、最終的には江野という奇矯な言動の際立つ男を追ったドキュメント、という様相を呈してくる。

 だがそこでまるっきりた脱線することなく、犯人の言動や身辺に起きていた出来事と、江野に密着しているあいだに判明した事実とがリンクしていき、じわじわと異様な空気が醸成されていく。そして予想外の、だが成り行きを思えば決して不自然でない展開を経て辿り着く終盤の不気味なインパクトは稀有のものだ。周囲の人々の細かな反応までがちゃんと伏線として機能している周到さも唸らされる。

 唯一惜しまれるのは、VFXの安っぽさである。過程で描かれる奇妙な現象についてはまだいいとしても、終盤、陸続と発生する常軌を逸した出来事の数々に、映像的なリアリティが欠いているのはもったいない――ただ、他の部分のロケーションや出演者の構成、その他様々な要素から、相当に低い予算で製作しているだろうことは想像に難くないし、ハンディカメラで撮影した映像に合成を施すことほど厄介な作業もないので、その辺は観る側としても許容できる範囲だろう。

 せめてクライマックスとエピローグの部分くらいは徹底して作り込んで欲しかった、とは思うが、しかしここまで来ると、そのチープさが物語の主題、辿り着いた結論のグロテスクさをより強調している、という見方も出来る。むろん、完璧に作り込まれたヴィジュアルであれば効果は絶大であっただろうが、安っぽい“悪夢”として提示されているからこそ、その結末の惨たらしさは、しばし失笑したあとでじっとりと胸の奥に沁みて、こびりつく。

 極限まで作り込んだ『ノロイ』には及ばないまでも、非常に制限された枠のなかで完璧に目的を達成した、秀逸な“オカルト”ホラー映画である。合成のチープさ、結末で示されるヴィジュアルの安易さがどうしても気にくわない、という人も多いだろうが、私にはそれすらも悪魔的な魅力を醸しているように感じられた。

関連作品:

ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE

ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE2

ノロイ

口裂け女

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