『リカウント』

リカウント [DVD]

原題:“Recount” / 監督:ジェイ・ローチ / 脚本・共同製作:ダニー・ストロング / 製作:マイケル・ハウスマン / 製作総指揮:ポーラ・ワインスタイン、レン・アマト、シドニー・ポラック、ジェイ・ローチ / 撮影監督:ジム・デノールト / プロダクション・デザイナー:パティ・ポデスタ / 編集:アラン・ボームガーデン,A.C.E. / 衣装:メアリー・ヴォグト / キャスティング:デヴィッド・ルービン,CSA、リチャード・ヒックス,CSA / 音楽:デイヴ・グルーシン / 出演:ケヴィン・スペイシーボブ・バラバンエド・ペグリーJr.、ローラ・ダーンジョン・ハートデニス・リアリートム・ウィルキンソンブルース・マッギル、ブルース・アルトマン、ジェイン・アトキンソン、ゲイリー・バサラバ、デレク・セシル、イヴ・ゴードン、ミッチ・ピレッジ、アダム・ルフェーヴル、ロバート・スモール、マーク・マコーレイ、ブレット・ライス、テリー・ローリン、ブルース・グレイ、マイケル・ブライアン・フレンチ、ウィリアム・シャラート、メアリー・ボナー・ベイカー、アントニー・コローネ / スプリング・クリーク/ミラージュ製作 / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:?

2009年6月10日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/10/05)



[粗筋]

 2000年11月7日、アメリカ、フロリダ州、パームビーチの投票所。有権者達は投票用紙を前に、一様に困惑の面持ちをしていた。パンチ式の用紙の、どこに穴を開けていいのか解りにくいのだ。人々はどうにか自分なりに解釈して投票を済ませるが、これこそアメリカ大統領選で類を見ない混乱の端緒であった。

 選挙戦は歴史的な大接戦となり、ギリギリまで一進一退の攻防が続いたが、最終的に共和党側候補ジョージ・W・ブッシュの弟が知事を務めるフロリダ州での揉み合いが勝敗を分ける情勢となった。テレビ局の開票速報が撤回される、という異例の展開を見たあと、僅差でブッシュ候補の勝利が確定し、ようやく選挙戦は決着に辿り着いた――かと、思われたのだが。

 民主党側の候補、ビル・クリントン政権で副大統領を務めたアル・ゴアの元首席補佐官で、選挙対策のために呼び戻されたロン・クレイン(ケヴィン・スペイシー)は、敗戦が確定した時点で家に戻り、久々に家族とくつろいだ時間を送っていた。だが、そんな彼に、選挙戦略担当のマイケル・ホウリー(デニス・リアリー)から電話がかかってくる。フロリダ州の票数に異常が生じている、というのだ。突如ブッシュに3000票が追加されたかと思うと、ゴアの票が何万票も削られる、という不可解なシーソーを繰り広げ、最終的にマイナス票を加えるに至った。

 集計に問題が発生した、と確信したクレインは、既に敗北宣言をするため会場に向かっていたゴアを直前で引き留めさせると、再集計の申し出を行う。本来1日で行うべき大統領選で、結論を出すための猶予は6日間――だが、この再集計を巡る駆け引きは、実に1ヶ月以上にわたって両陣営を、そしてアメリカ国民を翻弄することになる……

[感想]

 2000年当時、約1ヶ月に亘って世界中を騒がせたこの“事件”を記憶している人も多いだろう。本篇はあの一連の出来事を、当事者の目線で綴ったドラマである。

“リカウント”を訴えたのが、敗色濃厚であり、再集計の結果次第では逆転の目も考えられたアル・ゴア側であったこともあって、ほぼ必然的に軸足はゴアを擁立した民主党、特に調査委員会を立ち上げた補佐官ロン・クレインを主人公に据える形にしているが、しかし本篇の論旨は決して民主党側に偏っていない。共和党側でも、結論の引き延ばしによる政治の停滞を懸念し、早期の決着を狙って様々な策を講じるさまをきちんと見せている。如何せん、最終的に勝者となった共和党がその後の8年で何をしでかしたのか、既に歴史として経験している私たちとしては、どうしても共和党側の言動がいずれも姑息、謀略的なものに見えてしまう傾向は否めないが、決して彼らの策略が悪意でなかったことは窺わせる作りになっている。

 それにしても、ほぼ実話、しかも決して血が流れない話だというのに、本篇の緊張感とスピード感は傑出している。選挙戦を的確に追っていくとそれだけでちょっとしたドラマが演出できるのも事実なのだが、主要人物の視点の切り替え、新しい事情を示すタイミングなどが絶妙で、思わず食い入るように観てしまう。

 そこには、全体を通して主人公として扱われているロン・クレインという人物の、いちどはゴアから切り捨てられ、未だに彼が大統領に相応しい人材かどうか悩みながらも、自らの職分を全うするために、苦しみつつ奔走する姿が、ケヴィン・スペイシーという優れた俳優によって見事に表現されていることもあるのだが、同時に関係者でさえ「相手方がこんなことを考えていたと初めて知った」「あんな出来事が背後で進行していたとは思わなかった」とインタビューで言及するほど、行き届いたリサーチの力も小さからず機能している。

 関係者の目線では、当時の各郡投票所にて、再集計を機械でやり直すのではなく、メモリーカードの再確認で済ませていた、という事実があったことに驚きを覚えるようだが、観客の目線では中盤盤、粗探しの繰り返しで判明する事実こそかなりの衝撃だろう。この辺りでは、パンチ式の投票用紙特有の、きちんと穴が開いていない状態で投じられた“くぼみ票”の扱いで紛糾しているのだが、マイケル・ホウリーが発掘してきた事実はある意味痛快で、どうしようもなく失笑ものだ。フィクションだとしたら「冗談だろ」と却って疑ってしまうが、たとえば本篇の日本発売と相前後して日本公開された映画『ブッシュ』と並べてみると、さもありなん、と頷けてしまう。

 紆余曲折を経たところで、現実を題材にしていることから結果は明白だ。しかし、そこまでスリリングに物語を展開していく手管もさることながら、選挙という側面からアメリカの社会制度に潜む欠点に光を当てており、社会派の興趣も盛り上げて観る側の関心を惹き、最後まで退屈をさせない。軸足を敗者の側に置きながらも、一種の清々しさがあり、それでいて問題意識を芽ぐませる始末の良さも秀逸だ。

 本国ではテレビ放送のみ、日本ではいきなりDVDでのリリース、という扱いが勿体ないと思えるほど優秀な、レベルの高い社会派ドラマである。8年間のアメリカ共和党による政治について一家言がある人も、政治に関心はないけど実話に基づく知的なサスペンスが観たい、という方も楽しめるはずだ。

関連作品:

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華氏911

ブッシュ

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