『キング・コーン 世界を作る魔法の一粒』

キング・コーン [DVD]

原題:“King Corn” / 監督・製作:アーロン・ウールフ / 脚本:イアン・チーニー、カーティス・エリス、ジェフリー・K・ミラー、アーロン・ウールフ / 撮影:イアン・チーニー、サム・カルマン、アーロン・ウールフ / 編集:ジェフリー・K・ミラー / オリジナル音楽:the WoWz with ボー・ラムゼイ&スペンサー・チャカディス / 出演:イアン・チーニー、カート・エリス、アール・バッツ / モザイク・フィルム製作 / 配給:Inter Film / 映像ソフト発売元:紀伊國屋書店

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:?

2009年4月25日日本公開

2009年12月19日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.espace-sarou.co.jp/kingcorn/

DVDにて初見(2010/01/04)



[粗筋]

 イアン・チーニーとカート・エリスのふたりは、大学卒業を機に、ある実験を開始した。

 彼らの髪の毛の細胞を調べると、その組成の大半はトウモロコシで出来ている、という結果が出た。そんな気はないのに、自分たちは大量のトウモロコシを摂取しているという。では、そのトウモロコシを作る過程を自分たちで辿ってみよう、と思い立ったのだ。

 大学で知り合い友人となったイアンとカートは、偶然にも同じアイオワ州の田舎町に由来があった。奇しくもその地では大量のトウモロコシを生産しており、ふたりはそこで土地と機材を借りて、実験を開始する。

 ふたりが栽培するのは、イエローデントという種類のトウモロコシ。メキシコで生まれたトウモロコシは、品種改良と淘汰を経て、栽培が容易で収穫量の多いこの種がアイオワ州を皮切りに普及し、いまや中部一帯に広がっている。

 事実、農作業そのものにはほとんど困難はなかった。1月、雪解けを待たずして始まった“実験”の傍ら、ふたりは様々な疑問に対する答を求めて、現地の農業の歴史を辿り、そして栽培したトウモロコシの行方を辿る。しかしそこには、彼らの想像を超えて根深い、効率化された農業の闇が広がっていた――

[感想]

 非常に単純明快な作りである。まず自らトウモロコシの農業を実践してみて、栽培はどれほど大変なのか、収入はどのようになるのか、育てた物が最終的にどのような形で人々のもとに届けられるのかを辿っていく。極めてシンプルな考え方だ。

 だが、だからこそ、このシステムの歪さがはっきりと浮き彫りになっている。あまりに簡便化されて技術も経験も不要となり、大学出たての素人でもあっさりと大量収穫が出来るようになっている一方で、かつての農家が次から次へと姿を消している現実。大量収穫に最適化されたトウモロコシが、政府の施策もあって過剰に生産され、その結果として用途が広まり、また安価な甘味料や食肉が供給されることに繋がる。いいことのように聞こえるが、その実、アメリカの多くの国民が口にする食品は栄養価が低く、健康を犠牲にするものに成り果ててしまった。

ダーウィンの悪夢』を思わせるような悪夢のドミノ倒しが、アメリカでも起きている。あちらほど明確に悲劇が連鎖しているのではなく、じわじわと蝕まれているのが余計に恐ろしい。その悲劇をこれでもか、これでもか、と訴えてくるのではなく、研究者たちの証言と、取材中に巡り逢ったタクシーの運転手の言葉でさっぱりと代弁させているだけだが、それだけにあとから重い衝撃に襲われるだろう。

 本篇の秀でているところは、そのあとに、一連の流れを作りだした張本人のひとりに直接取材を敢行し、その意見を組み込んでいることだ。彼の発言にもまた説得力があり、アメリカの現状はかつて食品業界にメスを入れた人々がアメリカの国民の幸せを本気で願った結果であることを窺わせる。ある意味で自然に辿り着いた結果として導き出された不幸は、だが単純に針を巻き戻せば消えるわけではない、というのを、きちんと提示している。

 本篇を観たところで、解決への手懸かりを得ることは出来ない。ただ、一歩間違えれば、どこでもぶつかりうる難問であり、考える必要がある、ということは実感できる。問題提起として、非常に優れたドキュメンタリーである。

 偶然だが、月額レンタルで借りたこの作品が届いたまさにその日、『インフォーマント!』という実話に基づく映画を劇場で鑑賞した。観終わったあとで、自宅に届いていた本篇のディスクを観て、タイミングの良さにちょっと驚いた。

 あちらの主題はあくまで価格協定を中心にした企業事件をコミカルに描くことにあり、コーンをもとにした甘味料の影響などには一切触れていないが、最初に取り沙汰されるのがそのコーンを加工して作られる“リジン”というアミノ酸の一種の価格だ。このとき、騒動のきっかけとなった“スパイ”を送りこんだ、とされる企業として、作中で実名が挙げられているのは、何と味の素である。

『キング・コーン』の話の中でも、日本に触れている箇所がある。アメリカの甘味料生産に関わる技術はそもそも日本で開発されたものだったそうだ。

 同じ産業、そして似たような時代を背景として扱いながら、手法も切り口もまるで異なっている。観ていて直接繋がることはないが、色々と興味深く感じられるはずなので、もし機会があればこの2作品、続けて鑑賞してみるのも面白いかも知れない。

関連作品:

スーパーサイズ・ミー

ダーウィンの悪夢

ファーストフード・ネイション

いのちの食べかた

インフォーマント!

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