『暴走特急 シベリアン・エクスプレス』

暴走特急 シベリアン・エクスプレス [DVD]

原題:“Transsiberian” / 監督:ブラッド・アンダーソン / 脚本:ブラッド・アンダーソン、ウィル・コンロイ / 製作:フリオ・フェルナンデス / 製作総指揮:カルロス・フェルナンデス、フリオ・フェルナンデス / 撮影監督:シャビ・ヒメネス / プロダクション・デザイナー:アライン・ハイネ / 編集:ジャウマ・マルティ / 衣装:トマス・オラー / キャスティング:ジョン・フバード、アンドリアス・パウラヴィシャス / 音楽:アルフォンソ・デ・ビラリョンガ / 出演:エミリー・モーティマーウディ・ハレルソンエドゥアルド・ノリエガケイト・マーラベン・キングスレートーマス・クレッチマンエチエンヌ・シコ / 映像ソフト発売:ALBATROSS

2008年イギリス、ドイツ、スペイン、リトアニア合作 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:?

2009年12月9日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2010/01/14)



[粗筋]

 中国・北京での奉仕活動を終えたロイ(ウディ・ハレルソン)とジェシー(エミリー・モーティマー)の夫妻は、鉄道好きのロイの提案で、1週間を費やしてモスクワへと走るシベリア特急を利用することにした。

 怪しげな風体の人々が入り乱れ、中国の警察が麻薬捜索犬を連れて歩き回る車内はどこか不穏な気配を漂わせている。食堂車で出逢ったフランス人は、「中国とロシアでは警察に気を許すな」と警告して立ち去り、ジェシーの不安を煽りたてた。

 ふたりは、寝台車で同じ車室に滞在したカルロス(エドゥアルド・ノリエガ)とアビー(ケイト・マーラ)というカップルと親しくなる。カルロスは陽気で、どこか危険な気配を漂わせており、かつて家を飛び出して無軌道な生活を送っていたジェシーが、生真面目で安定を望むロイに感じていた物足りない思いを刺激し、彼女の気持ちを揺さぶる。

 異変は、鉄道が停車したイルクーツクで起きた。発車後したあとの車内に、ロイの姿が見当たらない。次の列車に乗っているとしても、行方を確かめるにしても、次の停車駅イランスカヤで待たねばならない、と言われたジェシーに、カルロスとアビーも付き合って一時下車する。

 明くる日、夫の安否を気遣い不安を募らせるジェシーが滞在するホテルの部屋を、カルロスが屈託のない態度で訪れる。どうせ正午過ぎに着く列車で会えるはずだから、そのあいだに散策してこよう、と。

 彼女はまだ気づいていない――このとき既にジェシーは、自らが望んでいた以上に危険な出来事に巻き込まれていたことを……

[感想]

 劇場公開された作品でさえ、しばしば内容を顧慮しない邦題にお目にかかることがあるが、劇場公開を経ずにDVDでリリースされるような作品は、更に内容を無視したタイトルをつけて市場に並ぶことが珍しくない。実際には関係ないのに、評判の良かった作品の続篇やシリーズの1篇と誤解するようなタイトルがついていたり、ごく一部の見せ場を過剰にクローズアップしたようなタイトルがつけられたりする。基本的に、DVDで直接発売される作品は不出来というイメージがあるだけに、観る前からバイアスがかかっているのでさほどショックは受けないという人が多いだろうが、それでも失望は避けられない。

 本篇などはまさに、一部の見せ場を過剰に採り上げられてしまった典型である。“暴走特急”という題名や、上に示したジャケット写真から抱くような、スリリングで迫力のあるアクションシーンなど、皆無と言っていい。確かに終盤、登場人物が自らの意思で列車を動かす場面も、衝突する場面もあるが、暴走という印象もなければこんな派手な爆発もしていない。こうしたものを期待して鑑賞すれば、いいところ肩透かし、ひどいと不快感を覚えるだろう。

 敢えてジャンル分けするならば、本篇は“サスペンス”と呼んだほうが遥かに納得がいく。しかも冒頭からやたらと騒ぎ立てるのではなく、緊迫した状況に至るまでの伏線をひとつ、またひとつと積み上げていく。端々で思わせぶりな描写を組み込み、観る側に緊張を強いながら、気づけばのっぴきならない状況に陥っている、という、大人びた手捌きが優秀だ。

 主人公であるジェシーの置かれた状況が明確となってからの二転三転する展開は、まさにサスペンス映画ならではの醍醐味を感じさせる。ジェシーがやむなく吐いた嘘がギリギリで彼女の立場を守ったかと思うと、逆に思わぬ形で追い込む場面にも発展する。彼女以外の人物にも、それぞれの立場に置いて納得のいくレベルでの意外性が設けられており、終盤まで予断を許さない。

 最後20分程度にアクションめいた見せ場はあるが、これも必然的な流れの中で、決して戦い慣れていない素人の出来る範囲に留められているので、題名やパッケージが与えるほどのインパクトはない。しかし、サスペンス映画の見せ場としてはきっちり役割を果たしている。

 如何せん、大半が雪原を走る鉄道と、路線に点在する荒涼とした土地で物語が展開していくので、絵的に地味であるし、いちおう窮地は脱しているが苦みのある結末は、万人が好まない類の毒を滲ませる。だが、その地味さの中にも多くの見せ場を秘め、背景はシンプルだがよく練り込んであるのが窺える。どこかで聞いたような題名に囚われず、正統派のサスペンス映画として吟味していただきたい。

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