降りたいのか、降りたくないのか。

 いま、我が家の近所の立ち木に登ったまま、降りてこない猫がいます。

 うちの猫ではありません。首輪はしていますが、この辺の野良には面倒を見ている人の手で首輪をつけられているのもいるので、判断は出来ない。ただ、近所で見た覚えのない顔立ちなので、どこかの飼い猫なのかも知れません。

 午後2時ぐらいに目撃されたのが最初だったそうです。枝の上で猛烈に鳴き喚いているので、降りられなくなったのかと思った近所の人が脚立を使って迎えに行こうとしましたが、捕まらない。結局そのまま、私が母に知らされた午後6時過ぎになっても樹の上にいました。

 様子を見に行ってみると、想像とちょっと雰囲気が違う。降りられなくなって切羽詰まっているのかと思いきや、派手に鳴いてはいるけれど、あまり危機感がない。呼ぶと、手を伸ばしてぎりぎり届くか、というあたりにある木の股まで降りてきて、指を差し出すと先の匂いを嗅ぐ。更に手を伸ばそうとすると、するり、と向こうに行き、枝の膨らんだところで腰を落ち着けてしまう。

 更に1時間ほど経った頃、もういちど様子を見に行っても、状況は変わらない。試しにうちの猫の餌をひとつまみほど木の股に載せてやると、ちゃんと寄って来て食事を始め、済んだらまた高い枝のほうに行ってしまう。今度は毛づくろいまで始めた。

 どうも、降りられなくなった、という感じがしない。むしろ好きで樹の上にいるような雰囲気さえある。もしかしたら、飼い猫が脱走してふらふらとうろついていたときに、近所の好戦的な猫に追い立てられ、樹の上に逃げ延びたのかも知れません。ならば下界(と呼ぶほど高くはないが)のほうが怖いでしょうし、当面そこに居つく気持ちも解る。……餌を持ってくるお人好しまでいたし。

 先刻、母がもういちど見に行くと、2メートルぐらいの位置にある枝の上で、寝る態勢に入ってしまったそうな。幸い、今夜から明日にかけては暖かな陽気になりそうなので、仮に飼い猫で贅肉がついていないタイプだとしても、いきなり凍死するようなことにはならないでしょう。とりあえず放っておくことにしました。だいたい樹上のあの猫よりも、現在さかりの真っ最中であるうちの猫のほーがよほど切羽詰まった鳴き声を発してます。

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