『パンデミック・アメリカ』

パンデミック・アメリカ [DVD]

原題:“Covert One : The Hades Factor” / 原作:ロバート・ラドラム / 監督:ミック・ジャクソン / 脚本:エルウッド・リード / 製作:シェリ・サイトー / 製作総指揮:ポール・サンドバーグ、ラリー・サニツキー / 撮影監督:アイヴァン・ストラスバーグ / プロダクション・デザイナー:ダン・デイヴィス / 編集:ロリ・ジェーン・コールマン / 衣装:アン・ディクソン / 視覚効果スーパーヴァイザー:アンソニー・パターソン / キャスティング:リサ・フライバーガー / 音楽:J・ピーター・ロビンソン / 出演:スティーヴン・ドーフ、ミラ・ソルヴィノ、ブレア・アンダーウッド、ソフィア・マイルズダニー・ヒューストン、コルム・ミーニイ、アンジェリカ・ヒューストン、ジョシュ・ホプキンス、ジェフリー・デマン、ローズマリー・ダンスモア、ジョリス・ジャースキー、コンラッド・ダン、セルジオ・ディ・ジオ、カレン・グレイヴ、ジョナサン・ヒギンズ、トニー・ナッポ / 映像ソフト発売元:角川映画

2006年アメリカ作品 / 上映時間:2時間51分 / 日本語字幕:?

2009年10月25日WOWOWにて日本初公開

2009年12月25日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.kadokawa-pictures.co.jp/official/the_hades_factor/

DVDにて初見(2010/02/15)



[粗筋]

 カヴァート・ワンとは、アメリカ合衆国大統領直属のテロ撲滅組織である。他の指揮体系によらず、非常時に単独で行動に当たる――が、公式には存在しない組織とされている。

 仲間を失ったことがきっかけでカヴァート・ワンを退いたジョン・スミス(スティーヴン・ドーフ)は保健福祉局に転属し、将来的に発生する恐れのある生物テロ対策の考案に従事していた。疾病対策センターに務める研究者ソフィ・アムズデン(ソフィア・マイルズ)という婚約者も得て、平穏な生活を手に入れつつある。

 だが、ベルリンで世界保健会議に出席していた彼を、意外な人物が訪ねてきた。かつてカヴァート・ワンの同僚であり、爆発事故によって死んだはずだったビル・グリフィン(ジョシュ・ホプキンス)である。事故を契機に存在を消し、潜伏して活動を継続していた、というビルは、ジョンの教え子であり、一時期恋人でもあったレイチェル・ラッセル(ミラ・ソルヴィノ)がテロリストとの接触作戦中に捜査官をふたり殺害し、逃走したというのである。いずれ、昔の恋人を頼ってくるだろうが、彼女を信じるな――そう言い残して、ビルは去っていった。

 翌る朝、ジョンとソフィはテレビ電話による呼び出しを受けた。アメリカの3箇所で、エボラ出血熱に似た伝染病が同時に発生したのである。ウイルスの正体と感染源特定のために、ジョンたちは急遽アメリカに呼び寄せられることになった……

[感想]

 題名こそパニックものを思わせるが、原作が“ジェイソン・ボーン”シリーズのロバート・ラドラムであることから察しがつく通り、本質的には国際謀略を題材とした映画であり、原題も中心となる組織と、物語の鍵を握るウイルスの名前から“Covert One : The Hades Factor”になっている。

 だが、仮に内容を誤解していたところで、次第に混沌としていく社会情勢を描いている点でパニック映画の系譜にも組み込める作品と捉えられるし、気づけばそんなことは忘れて作品の世界に惹きこまれているだろう。主人公であるスミスはウイルスの出所を探りつつ、自らの身近に訪れた危険と対峙し、並行して政治家や役人たちの駆け引き、そしてどうやら罠に嵌められて逃走を続けるある人物の行動を追って、構造的にはシンプルだがなかなか着地点の見えない話運びで、観る者は自然と興味を惹かれてしまう。3時間近い尺は聞くと長く思えるが、実際に観始めるとさほど気にならないはずだ。

 アメリカでも日本でもテレビで初めて公開された作品だが、そうとは思えないほど行動範囲が広く、規模の大きな作品という印象をもたらす。実際には、あまり派手なアクションや爆破のシーンもなく、ある程度限られた予算の範囲内で作っていると察せられるのだが、よく観察しなければ解らないレベルにしている技には感嘆を禁じ得ない。

 決して有名ではないが味のある俳優陣を起用したこともあって、人々のやり取りにも奥行きが感じられる。終盤になって判明する首謀者のひとりが意外に映るのも、意味深な駆け引き、やり取りがギリギリまでこちらを惑わし続けるからだ。尺ギリギリまで先の読めない追跡劇が続くというのは、むしろ劇場用の大作でも珍しい類だろう。

 ただ惜しむらくは、いまひとつすっきりとした決着となっていないことである。多くのことが未解決のまま終わっているし、何より主人公にとって、ほとんどが望まない顛末を迎えている。序盤で仄めかしていた、モヤモヤとした感覚の一部は解消されているが、3時間付き合ってこれか、と思う者は少なくないだろう。

 原作は続篇が発表されているため、これは想像だが、評判が良ければそちらも映像化する意向で、敢えて本篇の中ですべてを決着させなかったのかも知れない。だが、そう推測したとしても、やはりこの筋書き、結末はあまり一般受けするとは言い難い。

 牽引力のある、優秀な謀略サスペンスであるが、解り易い決着や爽快なカタルシスを何よりも欲するような嗜好の方は、注意して手を伸ばすべきだ、と申し上げておく。

関連作品:

ボーン・アイデンティティー

ボーン・スプレマシー

ボーン・アルティメイタム

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