『カラフル』

『カラフル』

原作:森絵都(理論社、文春文庫・刊) / 監督:原恵一 / 脚本:丸尾みほ / 製作:亀山千広、内田健二、寺田篤、夏目公一朗、北川直樹、島谷能成 / キャラクターデザイン:山形厚史 / 作画監督:佐藤雅弘 / 美術監督:中村隆 / 色彩設計:今泉ひろみ / 撮影監督:箭内光一 / 音響監督:大熊昭 / 編集:小島俊彦 / 音楽:大谷幸 / 主題歌:miwa / 声の出演:冨澤風斗、宮崎あおい南明奈、まいける、入江甚儀藤原啓治中尾明慶麻生久美子高橋克実 / 制作:サンライズ / 配給:東宝

2010年日本作品 / 上映時間:2時間7分

2010年8月21日日本公開

公式サイト : http://colorful-movie.jp/

TOHOシネマズみゆき座にて初見(2010/08/27)



[粗筋]

 ――“ぼく”は死んだ。

 彷徨っていた魂は、プラプラ(まいける)と名乗る子供に呼び止められる。このままでは輪廻転生から外れて永遠に漂い続ける運命にある“ぼく”に、“造物主”とやらが特別のチャンスを与えてくれる、というのだ。ある人物の身体の中にいわばホームステイをして、己の罪を思い出す、という修行を成功させれば、新しい命として生まれ変わることが出来るのだという。

 過去の記憶がなく、ただ現世にうんざりしている感覚しかない“ぼく”には大きなお世話だったけれど、お上の決定には逆らえないようで、“ぼく”は強制的に現世へと送り返された。

 だが、“ぼく”のホームステイ先は、ひどい有様だった。間借りした身体の持ち主は小林真(冨澤風斗)。学校では浮いていて、友達はいない。人が好いだけが取り柄の父親(高橋克実)とはほとんど会話もなく、出来のいい兄・満(中尾明慶)には無視されている。

 救いのない日常の積み重ねが真を追い込んでいったのは間違いないみたいだけど、最終的にきっかけを作ったのは、真の母親(麻生久美子)と美術部の後輩・桑原ひろか(南明奈)だった。真が密かに恋心を抱いていたひろかには前々から援助交際をしているという噂が立っていたが、ある日、真は彼女が中年男と一緒にラブホテルに入っていく現場を目撃してしまう。そして、立ちつくしていた真はその直後に、フラメンコ教室の講師と一緒に出て来る母親を目の当たりにしてしまったのだ。

 母親の持っていた睡眠薬を呑み、死の淵を彷徨った挙句舞い戻った真を、家族――特に母親は、爪が触れただけでも弾けそうな腫れ物に触れる要領で接した。家にいても居心地が悪く、学校に顔を出してみても居場所はない。所属する美術部で、真の描きかけの絵と向かい合っているときだけが唯一くつろげる時間だった――同級生の佐野唱子(宮崎あおい)が妙に突っかかってくることだけを除けば……。

[感想]

 本篇の粗筋を知ったとき、「果たしてアニメにする必要があるのか?」という疑問を抱いた。魂が肉体を与えられて、輪廻のサイクルに戻るためのテストを受ける、という部分こそファンタジーではあるが、舞台は現代、現実社会そのものだ。多少の視覚効果は用いる必要があるだろうが、実写でも問題なく作れるはずだ。

 劇場で全体を鑑賞したいまも、実写でもさほど難しくはない、という印象はある。ただ、もし実写であったならきっと、どぎつさや重みが強調されて、観ていて胃もたれを起こす可能性もあったように感じた。

 この物語で扱われる題材は、子供向けやテレビのシリーズもののアニメではあまり扱われないものばかりだ。自殺した少年に、不倫をしていた母親、援助交際をする少女。直接的に描かれる場面は少ないが、少年はかつてイジメを受けていて、いまは空気のように扱われている。普通に考えれば非常に息苦しい立場で、そのまま描いていれば、どれほど俳優が軽妙に演じたところで陰鬱になるのを避けるのは難しい――無論、そこを調整するのが作り手の手腕ではあるが、表現する上でアニメーションという手法を選んだのは、確かに賢明だった。そのお陰で全体のトーンが柔らかになっている。

 この柔らかさ、というのが本篇の題材を考えると存外侮れないのだ。詳しく語ろうとすると、ある趣向に抵触しかねないので、歯痒い想いをしつつ避けようと思うが、少なくともアニメで描いたのは間違いではない。

 また、たぶん「実写でも構わないのでは」というところを製作者も意識してのことだろう、真と同級生の早乙女(入江甚儀)が二子玉川をかつて走っていた玉電の痕跡を辿る場面の表現はアニメーションならでは、という趣がある。セットで再現しては仰々しくなってしまうところを、当時の資料写真などをもとに描きあげた映像で見せているから、程よい郷愁に、現在と過去が地続きになっている感覚を織り交ぜることに成功している。単純に雰囲気、というだけでなく、このくだりがその後の主人公の意識に与えた影響を思うと、やはりアニメーションでなければならなかった素材、と言えるかも知れない。

 そうした表現的な部分を除いても、本篇はドラマとして非常に秀逸だ。重苦しい題材を扱いながらも、アニメーションという表現手段の選択以前に、人物の設定や配置を工夫して軽く、しかし着実に観る者に伝わるようにしている。そして、積み重ねが齎した見せ場が繰り返される終盤の感動は並大抵ではない。人によって好きなシーン、会話は異なるだろうが、そこで差が出るのが解るくらいに含蓄は深いのだ。

 物語が終わったところで、解決していない問題はあるし、必ずしも観る者が希望するとおりの未来に辿り着く、という保証はしていない。だが、それでも本篇の齎す余韻は清々しく、後味は快い。どうしてそうなるのか、やはり詳しくは説明できないが――観て損のない傑作であることは保証できる。私自身、当初は声を当てた役者、特に真やプラプラの担当者の拙さを予告篇に感じてしまったことで本篇の鑑賞を躊躇っていたのだが、観終わってみるとこの配役も決して間違いではない、と思えた。題材に関心を持ちながら、似たような点で抵抗を覚えている人には、躊躇うのは勿体ない、と囁いておこう。

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