『激突!』

『激突!』

原題:“Duel” / 原作&脚本:リチャード・マシスン / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 製作:ジョージ・エクスタイン / 撮影監督:ジャック・A・マータ / 美術:ロバート・S・スミス / 編集:フランク・モリス / 音楽:ビリー・ゴールデンバーグ / 出演:デニス・ウィーヴァー、キャリー・ロフテイン、エディ・ファイアーストーン、ルー・フリゼル、ルシル・ベンソン、ジャクリーン・スコット、アレクサンダー・ロックウッド / ユニバーサルTV製作 / 配給:UNI×CIC

1971年アメリカ作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕:菊地浩司

1973年1月日本公開

2010年7月2日映像ソフト日本最新盤発売 [amazon]

午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2010/09/02)



[粗筋]

 デヴィッド・マン(デニス・ウィーヴァー)は荒涼とした郊外の道に自動車を走らせていた。取引先が休暇に入る前に商談を済ませようと急いでいたが、そんな彼を妨害するかのように、1台の古びたトラックが現れる。

 前方を、排煙を噴き上げて走るトラックに苛立ち追い越したデヴィッドだったが、トラックはすぐさまデヴィッドの車を追い返し、スピードを落として走行を妨害した。しかも前に出ようとすると邪魔をし、ようやく手振りで前に出るよう指示したかと思えば、危うく対向車と正面衝突しそうになる。

 どうにかトラックをやり過ごし、デヴィッドはガソリンスタンドで一息つくが、あとからトラックもスタンドに入ってきた。驚いたデヴィッドは、先に給油を済ませると素速くスタンドをあとにしたが、バックミラーに再びその姿を目にするまで、さほど時間を要しなかった。

 そして、デヴィッドの悪夢が本格的に始まったのだ……

[感想]

 今やハリウッドを象徴する存在になった感のあるスティーヴン・スピルバーグの実質的なデビュー作に等しい作品である。既に傑作としての地位を確立しているので、今更私如きが言うべきことは何もなく、「面白い」で済ませてしまってもいいのだが、さすがにそれでは芸がないので少しだけ語ってみよう。

 かなり巧妙な処世術を用いて、若くして監督として活動を始めたスピルバーグだが、さすがにこの作品の時点では豊潤な予算を獲得するには至らなかったと見え、出演者はほとんど無名、セットもろくに用意している様子がない。極めて制約の多い状況だが、その中で見事にサスペンスを演出してしまう手腕にはただただ舌を巻くばかりだ。たぶんセットを壊すことも惜しかったのだろう、あれほどの緊張感を観る者に味わわせながら、実際には衝突する場面すらないというのは、シチュエーションの妙もあるが、演出の迫力があってこそだろう。

 単純に追いつ追われつとしているだけでは、いくらスピード感を演出したところでマンネリになるが、随所で小休止を取り、主人公に事態を認識させる時間を与えたり、トラックのほうも姿を隠しては意外な再登場をする、という緩急を加えているのもまた巧みだ。この小休止のあいだに、“トラック”という化物の不気味さをいっそう掻き立てているのである。

 ふと思うのは、この作品の方法論はどこか、トビー・フーパーが『悪魔のいけにえ』で確立した、アメリカ独特の恐怖の表現と重なるところが多い。集落が疎らにしか存在しない土地で、迷い込んだ人物を襲う理不尽な暴力。日本やイギリス伝統のゴースト・ストーリーが好む夜の世界ではなく、陽射しの燦々と照りつける昼の世界で繰り広げられる、一種滑稽に映る個人的な悪夢。アメリカ特有の環境で生み出される“恐怖”を、線対称で描いたのが本篇であり、『悪魔のいけにえ』と見ることが出来そうだ。流血やグロテスクな表現、人間の狂気を剥き身で描いていった後者の監督やその後継者たちがしばらくのあいだマニアックに突き進んでいき、一部の熱狂的な愛好家に支えられて命脈を繋いでいったのに対し、流血なし、具体的な暴力を最小限に抑えた本篇の監督が、ハリウッドの寵児となっていったこともまた象徴的と思える。そしてスピルバーグ監督が『プライベート・ライアン』まで、流血や剥き身の暴力をフレームに収めることを避けていたのも、そう考えると色々と解釈のしようがある。

 いずれにせよ、ごくごく初期に、限られた材料でこれほど優秀な作品を完成させたのだから、その後の活躍も頷ける。そうして彼が生み出した作品の数々を踏まえた上で鑑賞すると、そもそも最初からスピルバーグ監督の理念にブレはないのが解る。

 シンプルかつストイック、だが、だからこそ映画の精髄と言える部分を凝縮した、確かに語り継がれるに値する傑作である――これがそもそもテレビ映画として制作されていたこと自体が、一種の皮肉と言えるかも知れない。

関連作品:

宇宙戦争

アイ・アム・レジェンド

エコーズ

悪魔のいけにえ

ショーシャンクの空に

コメント

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