『パンドラム』

『パンドラム』

原題:“Pandorum” / 監督&原案:クリスチャン・アルヴァート / 原案、脚本&製作総指揮:トラヴィス・ミロイ / 製作:ロバート・クルツァー、ジェレミー・ボルト、ポール・W・S・アンダーソン / 製作総指揮:マーティン・モスコウィック、デイヴ・モリソン / 撮影監督:ヴェディゴ・フォン・シュルツェンドーフ,B.V.K. / プロダクション・デザイナー:リチャード・ブリッグランド / 編集:フィリップ・スタール、イヴォンヌ・ヴァルデス / クリーチャー・デザイン:スタン・ウィンストン・スタジオ / 衣装:イヴァナ・マイロス / 音楽:ミヒル・ブリッチ / 出演:デニス・クエイドベン・フォスター、キャム・ギガンデット、アンチュ・トラウェカン・リー、エディ・ラウス、ノーマン・リーダス / コンスタンティン・フィルム/インパクト・ピクチャーズ製作 / 配給:Sonmy Pictures Entertainment

2009年アメリカ、ドイツ合作 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:徳植雅子 / PG12

2010年10月1日日本公開

公式サイト : http://www.pandorum.jp/

新宿武蔵野館にて初見(2010/10/23)



[粗筋]

 人類が月に到達して、一世紀半が経過したころ。

 人口はもはや飽和状態に陥り、資源の奪い合いが恒常化していた。折しも100光年を隔てた彼方に、地球とほぼ同一の環境を備えた惑星“タニス”が発見されると、人類はすぐさま有志を募り、移住計画を発動する。

 ……それから、どれほどの時が経ったのだろうか。

 バウアー伍長が冷凍睡眠から目醒めたとき、彼の記憶は欠落していた。宇宙船のなかに明かりはなく、彼以外に起きている者もいない。僅かな記憶や手掛かりを頼りにどうにか身繕いを整えると、ようやく別のカプセルの扉が開いた。

 ペイトン中尉と記されたカプセルから現れたその人物も、バウアー以上に記憶が混濁した状態にあり、現状を把握するだけでも時間がかかることが予想された。

 だが、彼らのいる部屋は何故か密閉され、非常電源で起動したコンソールからの通信に応える者もない。更にバウアーの微かに蘇った記憶は、原子炉の再起動が必要だと訴えていた。自分のほうが階級が低いらしいこともあって、バウアーは単身通気口からの移動を試みる。

 そして、彼らは知ることになる――この方舟が辿った、あまりに凄惨な運命を。

[感想]

 本篇を構成する要素は、ごくごくオーソドックスなものばかりだ。人口の飽和と、生存可能な惑星の発見から始まる移民計画。果てしない距離を航行するために必要な、計画的な冷凍睡眠に、突然の覚醒。記憶障害により登場人物は自らの置かれた状況の把握にも苦しみ、そして探索の結果、遭遇する異変。

 どれもこれも聞き覚え、見覚えのあるガジェットばかりだが、本篇は決してありがちなだけという印象を残さない。定番の要素を実に巧みに組み合わせ、謎や衝撃に従来と異なる手触りを演出している。B級を意識して作られていることは間違いないが、そこにしっかりと芯を通そうとする意志も強い。結果として、往年のSFスリラー、SFホラーを愛好する観客の琴線を擽りつつも、かなりかっちりと構成された作品に仕上がっている。

 ただ、それでももっと独自の要素を組み込んで欲しかった、という嫌いはある。定番の要素、というより環境の必然性からこうならざるを得なかった、というガジェットが多いことも察せられるが、それでももうひとひねり可能ではなかったかと惜しまれてならない。

 そしてもうひとつ問題なのは、様々な要素を詰めこんだ弊害か、中盤がいささか雑然としていることだ。キャビンに居残った者と、通気口を通って原子炉の再起動を試みる者と、ふたつの視点で物語は展開するが、危険や新しい情報が錯綜しすぎて、焦点が暈けている。また、スリリングな場面のことごとくが暗がりで進行するため、状況が掴みにくいのも難点だ。終盤はさほどではないものの、初めて“異物”と遭遇するくだりでは、視点人物が殺されたかと勘違いするほど、描写が不明瞭だった。幾分は意図的なものもあるだろうが、行きすぎている。

 と、欠点も多く挙げられるが、しかし醸成される謎の多さと、惑星間移民船という舞台設定では珍しい環境が齎す緊迫感、そして逆転を描く手管には工夫があり、その意味ではかなり完成されている。少しでも迂闊なことを書くと観る前からネタバレをしかねないほど細かく伏線やヒント、背景に基づくアイディアが盛り込まれているし、それを解き明かす手管にも工夫がある。特に、中盤からのとある出来事の締め括りは、普通ならもっと別のやり方を用いることが多いが、ああいう形で閉じたのはユニークだ。これも他のアイディアとの兼ね合いから必然的にそうなっただけ、とも取れるが、少なくともそのあたりの匙加減に慎重であったことの証左は窺える。

 そうして辿り着くクライマックスの衝撃もまた特徴的だ。実のところ、定番の要素を積み重ねているだけに、ある程度慣れた観客であれば、仕掛け自体を看破するのは難しくないが、換言すればそれだけきちんと考証しているのだし、真相を踏まえた上でギリギリまで驚きと緊迫感を演出する技は秀逸だ。カタルシスの醸成も優れている。――ただ、最後の最後で用いたあのやり方、恐らく主要登場人物は死んでしまう危険が高いと思うのだが、まあこのくらいは観逃してもいいだろう。

 瑕も多いが、しかし工夫と意欲に富んだ、良質のSFスリラーである。B級感に彩られているが、その根底にあるこだわりは賞賛に値する。エンタテインメント性を追求した作品を手懸け続けているポール・W・S・アンダーソンが製作を担当しているが、正直なところ、彼が最近監督を手懸けた作品群より面白かった。

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コメント

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