『ウォール・ストリート』

『ウォール・ストリート』

原題:“Wall Street : Money Never Sleeps” / 監督:オリヴァー・ストーン / キャラクター創造:スタンリー・ワイザー、オリヴァー・ストーン / 脚本:アラン・ローブ、スティーヴン・シフ / 製作:エドワード・R・プレスマン、エリック・コペロフ / 製作総指揮:セリア・コスタス、アレックス・ヤング、アレッサンドロ・キャモン / 撮影監督:ロドリゴ・プリエト,ASC,AMC / プロダクション・デザイナー:クリスティ・ズィー / 編集:ジュリー・モンロー、デヴィッド・ブレナー,A.C.E. / 衣装:エレン・マイロニック / 音楽:クレイグ・アームストロング / 音楽プロデューサー:バド・カー / 出演:マイケル・ダグラスシャイア・ラブーフジョシュ・ブローリンキャリー・マリガンイーライ・ウォラックスーザン・サランドンフランク・ランジェラ、オースティン・ペンドルトン、ジョン・ベッドフォード・ロイド、ヴァネッサ・フェルリト、バッファロー・メイヤー、ジェイソン・クラークチャーリー・シーン / 配給:20世紀フォックス

2010年アメリカ作品 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2011年2月4日日本公開

公式サイト : http://www.wallstreet-movie.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/02/04)



[粗筋]

 2008年、ウォール街

 若き証券マン、ジェイコブ・ムーア(シャイア・ラブーフ)は成功への道をひた走っている、はずだった。勤務するのはウォール街でも歴史と実績を積み重ねたケラー・ベイゼル社、父親代わりである経営者ルイス・ベイゼル(フランク・ランジェラ)の覚えもよく、若くして財産を築いている。1日数万ヒットを稼ぐブログの運営者である恋人ウィニー(キャリー・マリガン)は投資ビジネスに対してあまり好感情を持っていないが、ビジネスのなかで新世代のエコ・エネルギーへの投資も推進するジェイコブに理解を示し、心は通じ合っている。

 だが間もなく、急転直下の事態が発生した。市場が危機感を覚えるなかでもどうにか凌いできたはずのケラー・ベイゼル社は、些細な噂をきっかけに急激に株式が下落してしまう。ルイスは政府の支援を求めたが、株式の購入に際して紙屑同然の価格を示され、矜持からはねつけてしまう。そしてルイスは、早朝の地下鉄に身を投げた。

 指導者を失ったケラー・ベイゼル社は一気に破綻、同時にジェイコブも資産を失ってしまう。だが、そのことで時間を無駄にしてはならない、というルイスの教えが身に染みたジェイコブは、意を決してウィニーに求婚する。彼女は快く受け入れた。

 それからジェイコブは、ある講演会に出席する。壇上に立つのは、かつてウォール街で強大な権力を誇りながら、インサイダー取引実刑判決を受け、出所後は自らの経験を著書にまとめ、講演を重ねて生計を立てているゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)である。実は彼こそ、ジェイコブの婚約者ウィニーの実父だったのだ。家族を不幸に陥れたゴードンをウィニーは許していないため、彼女に隠しての訪問だったが、長年の孤独からウィニーとの絆を取り戻したがっている、と察知したジェイコブは、彼にひとつの取引を求める。

 ジェイコブの父代わりであり、師匠でもあるルイスを窮地に追い込んだのは、業界を暗躍する大物ブレトン・ジョーンズ(ジョシュ・ブローリン)であることは解っている。そこでジェイコブは、ウィニーとの仲を取り持つ代わりに、ブレトンに対する復讐への手助けを、ゴードンに請うたのだ――

[感想]

 1987年に製作された『ウォール街』の23年後を描いた続篇である。隔たる時間の長さ、製作者の意識の変化など、様々な要因によって当然のように大きな違いが生じているが、しかし本篇の特徴は、かなり意識的に前作の描写を踏まえていることだろう。

 ニューヨークの息遣いを捉えるかのようなオープニングもそうだが、新たな語り手ジェイコブの日常を織りこんだ冒頭は、23年前の投資業界エリートの姿を体現したバドを随所で彷彿とさせる。職場に乗り込んだあと、同僚たちに語りかけるくだりも一緒なら、電話相手に何やらがなり立てるヴェテランに声をかけるくだりまでそっくりだ。但し、この最後のところで呼びかけたのが、実はジェイコブのボスであり、父代わりでもある人物であるという点がミソだ。前作では、弱肉強食の世界をまざまざと実感させるためのスパイスとして添えられたこのくだりが、本篇では主人公の動機付けに繋げられている。

 この決して長くないシークエンスが、本篇を撮るうえで製作者が企図したものを如実に象徴しているように思う。この物語は前作の基本構造を変えることなく、そのうえに変わらないものと、変わってゆくものを重層的に描こうとしていたのではないか。

 前作と主人公は異なるし、境遇はかなり異なるものの、その歩みはどこか似通っている。途中から思惑があってゴードンにすり寄っていく、という流れも、その行動のリスキーさも近しい。それ故に、終盤でのある出来事は、前作を観た者なら恐らく予期できるが、決して安易に話を組み立てていったからではなく、そうなるのが必然だからだ。

 しかし本篇は、そこに辿りつく経緯にも、そこから生じる変化にもひと匙加え、ベースは同じでも異なった後味を作りだしている。このゴードンの行動に限らず、主人公の変化についても前作をあえて裏返したかのようなシチュエーションを用いていることに注目して戴きたい。そう捉えると、終盤での行動から感じる余韻がまた異なるのだ。

 前作、本篇と続けて丁寧に眺めると、実のところ投資の世界に絡む人間や、そこに向ける感情、欲望は決して変わっていないことが解る。前作に比べてゴードンの振るまいが精細に欠いているように映るが、しかし彼が果たしていた役割は、現役でマネービジネスを繰り広げる人々が完全に肩代わりしている。主人公ジェイコブの敵役として登場するブレトンが一身に背負っているかのように見えるが、実際には大幅に拡散されている――それは、物語中盤で起きるマネービジネスの大規模な破綻が何をきっかけに起きたのか、それを導き出したのが社会のどんな風潮であったのか、を考えれば解る。象徴としての地位を退きつつも、今回もまた力強い代弁者であり続けているゲッコーが、講演会などで口にする言葉がやはりポイントだ。かつて彼は“強欲は善”と言い放ったが、いまや“強欲は合法”――誰もが欲に駆られて動いている。

 そうして生み出された狂騒の果てにあるのは必然的な混沌だが、しかし本篇の、前作を踏まえつつひねりを加える、という語り口はそこにきちんと救いを添えている。前作のように、凝縮され容赦なく描き出された人間の強欲ぶりと、重厚ながらも空虚な独特の余韻を欲していた観客には日和ったように映るラストは、だがしかし、前作の個性、テーマ性をきちんと尊重しているからこそ生み出せるものだ。

 テレビドラマ的な映像や、必要なピースを見事に抽出しつつも編集の粗っぽかった前作と比べ、映像的にも物語的にも本篇は格段に洗練されている。そこに物足りなさを感じる人も少なくないだろうが、しかし同じ方法論で同じ悪徳や結末を描き出そうとせず、重要なモチーフを踏まえた上で変わらないもの、そして変わりゆくものを等しく描き出そうとした本篇は、間違いなく正統的で、理想的な“続篇”である。そしてこの物語であれば、稀代の悪役ゴードン・ゲッコーの、ほのかな哀れを誘う類の変化を遂げた姿も受容できる――むしろ、何も一切変わらない、という嘘に逃げこまなかったことこそ、本篇が誠実に作られていることの証ではなかろうか。

関連作品:

ウォール街

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