『ツーリスト』

『ツーリスト』

原題:“The Tourist” / 監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク / 脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、クリストファー・マックァリー、ジュリアン・フェローズ / 製作:ゲイリー・バーバー、ロジャー・バーンバウム、ジョナサン・グリックマン、ティム・ヘッディングトン、グレアム・キング / 製作総指揮:ロン・ハルパーン、ロイド・フィリップス、バーマン・ナラフィ、オリヴィエ・クールソン / 撮影監督:ジョン・シール,ASC,ACS / プロダクション・デザイナー:ジョン・ハットマン / 編集:ジョー・ハッシング,A.C.E.、パトリシア・ロンメル / 衣装:コリーン・アトウッド / キャスティング:スージー・フィギス / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 出演:ジョニー・デップアンジェリーナ・ジョリーポール・ベタニーティモシー・ダルトンスティーヴン・バーコフルーファス・シーウェル / GKフィルムズ/バーンバウム/バーバー製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2010年アメリカ、フランス合作 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2011年3月5日日本公開

公式サイト : http://www.tourist-movie.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/03/05)



[粗筋]

 スコットランド・ヤードのジョン・アチソン警部(ポール・ベタニー)は長い間、アレクサンダー・ピアースという男を追っている。ロシア人を部下にする凶悪なギャング、レジナルド・ショー(スティーヴン・バーコフ)から金を奪い、イギリスに対して7億ポンドもの税金を滞納して行方をくらましているのだ。手懸かりは、ピアースの恋人エリーズ・クリフトン・ワード(アンジェリーナ・ジョリー)という女ただ一人。アチソン警部はずっと、フランスの警察に協力を求め、パリに滞在する彼女を監視し続けているが、ピアースは1年以上、彼女との接触を断っていた。

 だがその日、遂にピアースが動く。日課通りカフェに立ち寄った彼女のもとに1通の手紙が届けられたのである。その指示を読むと、エリーズは巧みに追っ手を撒き、リヨン駅から電車に乗った。目的地は、ヴェニス

 エリーズに与えられた指示は、ピアースに背丈や体格が近い人物を捜して接触する、というものだった。彼女が目をつけたのは、フランク(ジョニー・デップ)というアメリカ人。エリーズが燃やした手紙をどうにか解読し、電車まで彼女を追ってきた捜査陣は、連係プレーにより彼が3年前に妻を喪った、やもめの数学教師ということを突き止める――つまりは、ピアースが考案した攪乱作戦だと判断した。

 泳がされるまま、エリーズはヴェニスの街でふたたびフランクを拾うと、ピアースが用意したホテルへと赴く。そんなふたりに、数人のロシア人たちが迫っていく……

[感想]

 広告的にも世間的にも、本篇の最も注目されている点はジョニー・デップアンジェリーナ・ジョリーという、現代最高峰と言っていいスターふたりの共演であるが、しかし個人的に本篇の情報に注視していた理由は、脚本担当としてクリストファー・マックァリーの名前がクレジットされていたからだ。

 マックァリーはかつて、『ユージュアル・サスペクツ』という、ユニークな趣向を凝らしたクライム・サスペンスでアカデミー賞に輝いたが、以降あまり多くの作品を発表していない。初めてメガフォンを取った『誘拐犯』のあと沈黙が続いたが、最近になってトム・クルーズ主演による戦争サスペンス『ワルキューレ』で久々に表舞台に登場したあと、幾つかのプロジェクトに携わっていることが仄聞されるようになった。そんな中の1本が、本篇だったのである。

 それ故に、大物のコラボレーションよりも、サスペンスとしてどのような仕掛けがプロットに凝らされているのか、どれほど精緻な伏線で魅せてくれるのか、という興味から本篇に期待を寄せていたのだが――その意味では、色々と物足りない、と言わざるを得ない。

 趣向は実のところ極めてシンプルで、想像はつくのだが、問題はそこではない。その趣向が明かされた瞬間のカタルシスや興奮を演出するための工夫、伏線がどうしても足りないのだ。

 恐らく観終わった瞬間、ほとんどの観客は幾つかの要素に困惑するだろう。あの人物はいったいいつからいたのか、そして途中で語られる事実と照らし合わせて、果たしてこの真相はフェアなのか否か。

 よくよく振り返ってみると、終盤で唐突に現れたかに見える人物は、ちゃんとその存在が仄めかされていたし、あの真相も決してあり得ないわけではない。だが、真実が明かされる場面で観客に衝撃を齎すためには、前者はもっとあからさまに行動をちらつかせて然るべきだったし、後者は察知するためのヒントか、解った瞬間に「あれはこういう意味があったのか!」という驚きに繋げるような伏線を用意するべきだった。どちらも欠いているために、本篇はその趣向のシンプルかつ大胆な驚きを活かせず、良くある凡庸な発想、という印象に留まってしまっているのだ。

 ただ、決してアイディアの扱いや、その上での人物描写が悪かったわけではない。観ているあいだはパリやヴェニスの光景の美しさと様々なシチュエーションの華やかさ、メインとなるふたりの存在感ばかりが際立ってしまっているが、真相が明かされたあとに振り返ってみると、表情や仕草になかなかの味わいがある。一見有り体のアイディアに人物造型のように見えて、実は定石を敢えて外していることにも気づくはずだ。観終わった直後は、豪華なキャスティングに見合わない大味なサスペンス、と咄嗟に感じるが、しかし真相を踏まえて鑑賞すると新しい愉しみがあり、これはやはりメイン2人のレベルの俳優でないと充分に描ききれなかっただろうし、この2人だからこその面白さがある。

 派手な見せ場はないが、しかし微妙にひねくれた追跡劇の描き方、ユーモアの味も捨てがたい。ヴェニス独特の地理を活かした追跡劇での、波の動きでボートの動きを追うくだりは実感的で興味深かったし、ピンチに陥った場面での駆け引きの洒脱さは印象的だ。ど派手ではないがスリルはあり、小技が上手く効いている。

 前述のような欠点をもきちんとフォローしていれば更に面白くなっただろうに、という嫌味は消せないものの、しかし大スターを起用しているからこその豪勢さと、描写の洒脱さは魅力的だし、何より2度観たほうが楽しめそうな作りは評価に値する。嵌らなかった人はお生憎様だが、もし少しでも「惜しい」と感じ、何が惜しいのか解らなかったのなら、もういちど鑑賞してみることをお薦めする。多分、2度目のほうが面白いはずだ。

関連作品:

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コメント

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