『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

英題:“Royal Space Force – Wings of Honneamise” / 監督、原作&脚本:山賀博之 / 企画:岡田斗司夫、渡辺繁 / プロデューサー:末吉博彦、井上博明 / キャラクターデザイン:貞本義行 / 作画監督森山雄治貞本義行、飯田史雄、庵野秀明 / 美術監督小倉宏昌 / 撮影監督:諫川弘 / 編集:尾形治敏 / 助監督:赤井孝美増尾昭一樋口真嗣 / 音楽監督坂本龍一 / 声の出演:森本レオ弥生みつき、村田彩、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、戸谷公次安原義人島田敏安西正弘大塚周夫内田稔飯塚昭三徳光和夫 / 制作:ガイナックス / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:バンダイビジュアル

1987年日本作品 / 上映時間:1時間59分

1987年3月14日日本公開

2009年12月22日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

池袋テアトルダイヤにて初見(2011/05/27) ※ドリパス企画・池袋テアトルダイヤクロージング上映



[粗筋]

 オネアミス王国には、役立たずの軍隊が存在する。総勢わずか10名、落ちこぼればかりが集まった王立宇宙軍である。

 パイロットになりたくても成績不良で諦めざるを得なかったシロツグ(森本レオ)も、やむなく宇宙軍に入ったものの、為すべきことも見いだせず自堕落に過ごしていた。だがある日、歓楽街のそばで宗教のチラシ配りをしていた少女に一目惚れし、チラシに記されていた住所を訪ねたことを契機に、彼の人生は一変した。

 その少女――リイクニ(弥生みつき)に適当に話を合わせていたシロツグは、彼女が“宇宙を目指す”という彼の仕事に関心を持ったことで、俄然やる気を起こした。折しも、将軍(内田稔)が長年の“宇宙戦艦”建造計画への着手を宣言、宇宙飛行士を募り、シロツグがただひとり立候補する。

 こうして、誰にも望まれないまま、初の有人宇宙飛行の準備が始まった。宇宙での活動に耐えられるよう訓練を重ね、英雄として祭りあげられる一方で、リイクニのもとを足繁く訪ねるうちに、シロツグの意識に少し、ほんの少しだが、変化が生じる――

[感想]

 のちに『新世紀エヴァンゲリオン』で一世を風靡することとなるガイナックスが生まれるきっかけとなった長篇アニメーションである。それ故に、スタッフロールを眺めていると、他のところでお目にかかるような名前が無数にちりばめられていてちょっとした感動を覚える。

 ただ、ほとんどのスタッフがこれ以前に大作を手懸けた経験がない、というなかで作られた本篇には、映画として荒削りな部分が多々見受けられる。無駄なシーンやいまひとつ繋がりの掴みにくい描写があったり、間の取り方も奇妙に感じられるところがあった。

 しかし、そういう粗を凌駕するほどに、情熱が溢れる作りにもなっている。

 いわゆるアニメーション作品にある、動きの大きさへのこだわりなどはないが、その分、精密な描きこみに目を奪われる。1970年代の何処か、といった趣の科学技術に基づく道具立てが緻密に配され、古いSFの匂いを醸す美術。そんななかで、ごくリアルな価値観を持った人々が、使命感に駆られることもなく、普通に日常を営んでいる。そうした、非現実だが理解のしやすい雰囲気が見事に組み上げられている。

 ストーリーも、アニメ作品としては妙に地味だが、実感のある、地に足のついた内容だ。格別な使命感も目的意識もなく、どちらかと言えば見栄で宇宙戦艦のパイロットに志願するシロツグ。予算が下りないなか意地で最後の計画を立案する将軍、基本的にやる気のない他の面々。開発を支えるのは老人たちばかりで、詰まらない失敗で命を落とす者もある。

 こうした道具立ては、実写ではわりと有りがちだが、アニメーション、それも劇場用としては異色だ。これを成立させ、魅力的にしているのが、登場人物たちが終盤に見せるものに匹敵する作り手の情熱であるのは間違いないだろう。

 そうして積み上げられた熱意が、映像的にも物語的にも膨らみ、一気に迫ってくるクライマックスは見事だ。それまでの安閑とした空気にいささか倦んでいた人でも手に汗握る、だが決して提示されたキャラクター性を覆さず、一種のユーモアを孕んだ描写にも安定感がある。技巧的な洗練というよりは、とにかくこういうものを描きたい! という熱意が生み出した化学的結合、といった趣だが、だからこそ尚更に魅せられる。

 最後まで掴み所のない言動に終始してしまったリイクニや、彼女に対する想いの方向性が不明瞭になってしまったシロツグ、またあれだけ加熱させた割にはクライマックスがあっさりしているとなど、整頓の甘さも多く、やはり物語として完成されているとはとうてい言い難い。だが、いわゆる子供向けアニメーションのイメージとは一線を画す、大人だからこそ愉しめるものを志し、根強い支持を受け続けている、という意味では目的を充分に果たしている作品であり、関係したスタッフのその後の活躍も含め、語り継がれる作品であることは確かだろう。

関連作品:

時をかける少女

サマーウォーズ

ぼのぼの クモモの木のこと

カプリコン・1

ザ・ムーン

宇宙(そら)へ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました