『クレージーモンキー/笑拳』

クレージーモンキー/笑拳 デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“笑拳怪招” / 監督、脚本&主演:ジャッキー・チェン / 製作:スー・リーホワ / 撮影監督:チャン・ユンシュー / 美術:チョウ・チーリャン / 編集:ヴィンセント・レオン / 衣装:リー・イェンハン / 音楽:フランキー・チェン、チェン・シュアチー / 出演:イエン・シー・クアン、ジェームズ・ティエン、チェン・ウィ、ディーン・セキ、リー・クン / 豊年影業公司製作 / 配給:東映洋画 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1978年香港作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:山崎剛太郎

1980年4月19日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/06/12)



[粗筋]

 ロン(ジャッキー・チェン)は山中で祖父・チェン(ジェームズ・ティエン)とともに暮らしている。チェンは“行意門派”と呼ばれる武術の開祖であり、ロンにその極意を叩きこんでいるが、どういうわけか人前でそれを披露することを固く禁じていた。

 しかしそこは若者、必要があって街に出ると、誘惑に駆られることもある。買い物を頼まれて出向いた街で、博打をやっているのを見かけると、勘の良さを活かして要領よく金を増やしたが、博徒たちに見咎められ襲われてしまう。チンピラに負けるような腕前ではなかったためにあっさり返り討ちにしたが、チェンにはひどく怒られてしまう。

 だが、そんなロンに、例の博徒たちが今度は手揉みをしてすり寄ってきた。ロンの強さを見込んで、自分たちが経営する道場にやってくる道場破りを撃退して欲しい、というのである。人前で拳をひけらかすな、とチェンに命じられていたロンは逡巡するが、もともと何らかの職に就くよう諭されていたうえ、寄る年波には敵わず、近ごろ伏せることが増えていたチェンのために、収入を確保する必要があった。

 こうしてロンは博徒たちの経営する道場の用心棒となった。功夫に恵まれたロンは次々と道場破りを撃退していくが、彼は気づいていなかった――孝行のつもりが、それが愛する祖父に危機を導いていたことに。

[感想]

 ジャッキー・チェンは『ドラゴン 怒りの鉄拳』などで知られるロー・ウェイ監督に見出されて本格的なデビューを飾ったものの、ブルース・リーや往年のカンフー映画と同じスタイルを求める監督に、異なったスタイルを模索しようとして対立、不本意な映画作りを強いられる状況が続いていたという。これといったヒット作も出ずに鬱屈を溜めこんでいたころ、2作限りの契約で外部の製作会社にレンタルされ、そこで主演した『スネーキーモンキー/蛇拳』、『ドランクモンキー/酔拳』がヒットを飛ばしたことが、一気に流れを変えた。レンタル契約を終了したジャッキーが、ロー・ウェイ監督の傘下に戻って初めて撮ったのが本篇である。

 彼を巡る環境が一変したことを窺わせるのは、そうして帰還した直後にして、マネージャーと共に新たな製作会社を興し、自ら監督している点だ。当時の観客がどう捉えたのかはきちんと調べていないのでここでは語れないが、既に『成龍拳』のクライマックスは監督不在の中自ら演出していた、という談話があるし、『蛇鶴八拳』や『カンニング・モンキー/天中拳』では自ら積極的に意見を出して自信のスタイルを模索していた気配のあるジャッキーが本格的に監督業に乗り出すことは、今からするとごくごく自然なことのように思える。

 そして初監督だからこそだろう、本篇はそれまでのジャッキー作品の集大成的な内容になっている、と感じられる。

 レンタル移籍した先で主演した2作品で完成したコメディ・スタイルを導入しているのは当然ながら、しかしストーリーはむしろオーソドックスなカンフー映画で用いられていた陰謀劇、復讐劇に回帰している。中盤でロンが悲劇に見舞われ、そこから復讐のための本格的な修行に突入する、というプロットは、『少林寺木人拳』などと本質的には同一だ。

 ただ、それ以外の部分ではコミカルさを保っているのが、ジャッキーらしい工夫である。祖父が何者かに追われている、という背景を臭わせ、剣呑さをちらつかせながらも、主人公たるロンの行動はかなり暢気だ。明らかに怪しい連中の口車に乗せられて、道場の用心棒として金を稼ぐ、というのは祖父が隠遁生活を送っている背景を抜きにしてもなかなかリスキーだし、微妙なポイントも多々あるのだが、そこをロンというキャラクターの愛嬌と、アクションそのもののユーモアで巧みに補っている。こと、途中で見せる女装してのアクションは、それまでのロー・ウェイ関係作品では見られなかった派手な趣向で、これが許されていること自体が大きな変化であり、そのインパクトが定番のモチーフにコメディ色を盛り込むことに成功している。

 加えて、『蛇拳』『酔拳』で築いた、師匠との信頼関係を描き出す、という趣向を本篇でも踏襲することで、修行の厳しさと同時に優しさ、暖かさもきちんと取り込んでいるのが、これ以前のジャッキー主演作と異なる味わいになっている。本篇で主人公は、悲劇ののちに新たな師匠に巡り逢うのだが、当初の悲愴感が薄れるにつれ、一種の微笑ましささえ感じられるようになっていくのが秀逸だ。この心地好い関係性はそのまま、やや風変わりな結末にも繋がっている。

 だが本篇の何よりの魅力が、クライマックスでジャッキーが用いる“奥義”にあることは、観たものなら誰しも認めるところだと思う。先行2作で掴んだ、見せ場の解りやすさ、視覚的なインパクトの重要性をはっきりと認識し、見事に膨らませている。面白いのは、一見滑稽な趣向の数々が、ちゃんと目的通り有効に働いているところで、題名となっている“笑拳”よりも、守りの技として示される哀感を活かした奥義の効き目が個人的には面白かった。

 初監督ゆえのぎこちなさもあって、まだまだ全体のバランスは良くないし、割り切ってとことんコメディーに徹した『酔拳』などと比べると完成度では劣る。だが、初期作品では疎かにされがちだった伏線への配慮がきちんと行き届いているし、それ故のカタルシスもちゃんと演出されており、反省や工夫の痕跡がはっきりと窺える分、好感を抱くことの出来る仕上がりだ。

 本篇のあとジャッキーは遂にロー・ウェイ監督のもとを離れ、当時の大手製作会社であったゴールデン・ハーヴェストに移籍、最初のハリウッド進出に挑む。この時点でそこまで意識していたのかは謎だが、本格的に跳躍する以前に、自らの初期の活動を総括しようとした作品として、非常に重要な1本であると思う――無論、そんなことを抜きにして愉しく面白いのだけれど。

関連作品:

少林寺木人拳

成龍拳

蛇鶴八拳

カンニング・モンキー/天中拳

スネーキーモンキー/蛇拳

ドランクモンキー/酔拳

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