『ドライブ・アングリー3D』

『ドライブ・アングリー3D』

原題:“Drive Angry 3D” / 監督:パトリック・ルシエ / 脚本:トッド・ファーマー、パトリック・ルシエ / 製作:レネ・ベッソン、マイケル・デ・ルカ / 製作総指揮:アダム・フィールズ、ジョー・ガッタ、アヴィ・ラーナー、ダニー・ティムボート、トレヴァー・ショート、ボアズ・デヴィッドソン / 共同製作:エド・カセル3世 / 撮影監督:ブライアン・ピアソン / プロダクション・デザイナー:ネイサン・アモンドソン / 編集:パトリック・ルシエ、デヴィン・C・ルシエ / 衣装:マリー・E・マクレオド / キャスティング:ナンシー・メイヤー,CSA / 音楽:マイケル・ワンドマッチャー / 出演:ニコラス・ケイジアンバー・ハードウィリアム・フィクトナービリー・バーク、シャーロット・ロス、クリスタ・キャンベル、トム・アトキンス、ケイティ・ミクソン、ジャック・マクギー、トッド・ファーマー、デヴィッド・モース / 配給:日活

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:岸田恵子 / R-15+

2011年8月6日日本公開

公式サイト : http://www.da3d.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/08/06)



[粗筋]

 パイパー(アンバー・ハード)にとって、喜びに満ちた日、のはずだった。長いこと結婚を渋っていた恋人にとうとう跪かせ、結婚を約束させ浮かれていたのだ。

 だが、状況は一気に暗転する。勤めているダイナーの店主の横柄な態度にブチ切れたパイパーは、店主のタマをひねって悶絶させると、その場で辞めることを宣言し、店を飛び出す。そして、頭に血を昇らせたまま恋人と同居する家に戻ると、ベッドに横たわる恋人の上で見知らぬ女が尻を躍らせていた。

 女を叩き出し恋人にも鉄拳制裁を加えるパイパーだったが、逆襲に遭い、失神してしまう。もしそのまま誰も現れなかったら、更に酷い目に遭わされていただろう――そこに、あの男が現れた。

 意識が戻ったとき、パイパーは彼女のダッジ・チャレンジャーの助手席に座らされ、運転席では見覚えのある男がハンドルを握り、高速を走っていた。その男、ミルトン(ニコラス・ケイジ)はパイパーが辞める直前に、ダイナーに居合わせていた客だった。人捜しの用事があってルイジアナに向かおうとしていた、というミルトンに、パイパーは車の運転を認める。どうせ、彼女に帰る家はなかった。

 夜も更け、ふたりは一軒のモーテルにチェックインした。別々の部屋を取り、それぞれにモーテルのバーで拾った異性を連れこんで愉しんでいると、バーが営業を終えた深夜、モーテルに不穏な一団が踏み込んでくる。たまたま部屋を出ていたパイパーが物陰から盗み聞きすると、一団のリーダーと思しき男が、ミルトンを殺すように指示を出した。

 彼女は気づいていなかった――パイパーはこのとき既に、過激な復讐劇に巻き込まれていたのである。

[感想]

 予告篇を観ただけでは、せいぜい暴力色の濃厚なカー・アクション映画としか思わなかった。かなり過激で、歪んだユーモアも見受けられたが、いい意味で粗いB級映画を愉しめればそれで良し、という程度の感覚で劇場に足を運んだのである。

 いい意味で粗いB級映画、という予想はある意味では当たっていた。だが正直なところ、方向性は完全に見誤っていた――まさか、ここまで斜め上の内容だとは思っていなかった。

 何も知らずにその展開に遭遇したときの感覚を味わっていただきたいので、いったい何が斜め上なのか、この場では詳述しない。人によっては激怒するかも知れないし、そうでなかったとしても、予備知識がなければ確実に呆気に取られるはずだ。

 とはいえ、実はそうした展開に向けた伏線はきっちりと張り巡らされている。ミルトンの言動や、彼を追う謎の男、自称“監査役”(ウィリアム・フィクトナー)の振る舞いの端々に一貫した“匂い”があり、事実が明かされてみると、衝撃も大きいが腑に落ちるところも多い。無茶な話だが、少なくともシナリオ上ではきちんと配慮が施されているので、素養があれば受け入れられる内容になっているのだ――驚きを味わってもらうためには、その詳細に触れるわけにはいかないのが辛いところだが。

 しかしこの作品は、過激な暴力表現に耐性があり、かつその斜め上に突き進む感覚が受け入れられるならば、非常に愉しい仕上がりである。粗筋に記したちょうど直後、襲撃を受けたミルトンの暴れっぷり、彼を追う“監査役”の飄々として愛嬌のある、だがひたすらに鬼畜な振る舞い。そして何より、素人眼にも美しいクラシック・カーを惜しげもなく投入したカー・アクションは見応えがある。

 たとえば『ワイルド・スピード』シリーズや『トランスポーター』シリーズのような、過剰なアイディアを盛り込んだ作品群に慣れてしまった眼には、正直本篇はやや大人しく、コクに乏しい。しかしそれでも、車体がベコベコになるほどの激しい駆け引き、そして常識を無視したクルマの扱いは観ていて痺れるものがある。3Dで見せることを考慮した、クルマの全体像を押さえた構図と随所で用いるスローモーションが、前述したカー・アクション映画とは違う類の迫力を演出している。期待とは違っている可能性が大きいが、3Dでカー・アクションを描く、という意味では充分に優れた仕上がりになっている。

 だがこの作品、そうしたストーリーの巧みな組み立てや3Dによるカー・アクションのインパクト以上に、キャラクターがいい。復讐を志しながらも何処か超然とした、悪役めいた振る舞いをするニコラス・ケイジに、絶え間なく不運に巻き込まれながらも、根性に拳まで加えて窮地を切り抜けようとする逞しさに満ちたアンバー・ハード。そして自らの立ち位置をなかなか明瞭にせず、常識離れした言動とアクションで登場人物も観客も翻弄して魅せるウィリアム・フィクトナー。この3人の狂ったハーモニーが、作品の世界観と相俟ってあまりにも蠱惑的だ。彼らに比べるとどうしても軽い印象を与えるが、ミルトンと追いつ追われつを繰り返すジョナ・キング(ビリー・バーク)と、彼が組織する新興宗教の信者たちにもなかなか味のあるキャラクターが見受けられる。

 たぶん、生真面目な人だと根本的に受け入れられない代物だろう。こういうのが好きだ、と思って劇場に足を運んでも、期待と大幅に異なっているが故の不満を抱く可能性も否定できない。だが、予想を超えた斜め上に突き抜ける愉しさを待望していた人、B級テイストが詰めこまれるほどに興奮するような歪んだ人なら、きっと堪能できるはずである。それこそ『グラインドハウス』のような作品が大好き、という方にはお薦めしたい。3Dの真価を活かせる環境で味わうためにも、是非とも劇場で鑑賞していただきたい。

関連作品:

ブラッディ・バレンタイン3D

キック・アス

ウルトラヴァイオレット

トワイライト〜初恋〜

グラインドハウス

シューテム・アップ

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