『サンクタム(字幕)』

『サンクタム(字幕)』

原題:“Sanctum” / 監督:アリスター・グリアソン / 脚本:ジョン・ガーヴィン、アンドリュー・ワイト / 製作:アンドリュー・ワイト / 製作総指揮:ジェームズ・キャメロン、ベン・ブラウニング、マイケル・マー、ピーター・ロウリンソン、ライアン・カヴァナー / 共同製作:アーロン・ライダー / 撮影監督:ジュールズ・オロフリン,ACS / プロダクション・デザイナー:ニコラス・マッカラム / 編集:マーク・ワーナー / 3D視覚効果スーパーヴァイザー:デヴィッド・ブース / ステレオ3Dスーパーヴァイザー:チャック・コミスキー / 音楽:デヴィッド・ハーシュフェルダー / 出演:リチャード・ロクスバーグ、リース・ウェイクフィールド、アリス・パーキンソン、ヨアン・グリフィス、ダン・ワイリー、クリストファー・ベイカー、ニコール・ダウンズ、アリソン・クラッチリー、クレイマー・ケイン、アンドリュー・ハンセン、ジョン・ガーヴィン / 日本語吹替版声の出演:菅生隆之堀内賢雄浪川大輔松本梨香高木渉、坂詰貴之、足立友、藤貴子、山野井仁、中川慶一相沢正輝 / フィルムネーション・エンタテインメント/グレート・ワイト製作 / 配給:東宝東和

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2011年9月16日日本公開

公式サイト : http://sanctum-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/09/16)



[粗筋]

 パプアニューギニアの密林に形成された洞窟体系、“エスペリト・エサーラ”。未だに全容の解明されていないこの秘境の全体像を探るべく、長年ケイヴ・ダイヴィングを行ってきた冒険家フランク(リチャード・ロクスバーグ菅生隆之)を中心とした探検隊が組織され、数年がかりで調査を行っていた。

 その日は最初から波乱含みだった。フランクの息子ながら、家を放り出して洞窟三昧の父に反発するジョシュ(リース・ウェイクフィールド浪川大輔)が、この調査の出資者であるカール(ヨアン・グリフィス/堀内賢雄)とその恋人でライターでもあるヴィクトリア(アリス・パーキンソン/松本梨香)を連れて前線基地を訪れたが、その矢先に調査隊を悲劇が襲う。深部に発見された広大な空洞で、女性スタッフのジュード(アリソン・クラッチリー/藤貴子)が酸素ボンベを失い、パニックの末に溺れ死んでしまった。

 同行していたフランクが事故の過程で見せた振る舞いが、調査隊のあいだでも賛否を巻き起こす中、外界では更に退っ引きならない事態が始まっていた。接近していた嵐がサイクロンに発展、垂直に穿たれた洞窟の入口に降り注ぎ、急速に水が溢れつつあった。雨の影響で生じた通信トラブルにより、この事実を知ることが出来なかった前線基地の面々は、大半がその場に取り残され、為す術もないうちに出入口が岩で塞がれてしまう。

 残されたのはフランクとジョシュ、カール、ヴィクトリア、そして長年フランクをサポートしているクレイジージョージ(ダン・ワイリー/高木渉)の5人。フランクは捜索隊が訪れるのを待たず、先刻確認されたばかりの空洞を越えて、別の出入口を探すべきだと主張する。

 残された面々のうち、ヴィクトリアには潜水経験がなく、ジョージは潜水病を患った過去がある。果たして彼らは、生きてこの巨大洞窟を脱出することが出来るのか……?

[感想]

アバター』の大ヒットを境に多くの3D映画が作られているが、その中にも2つの種類がある。撮影自体は通常のカメラで行い、あとで3Dの加工を施しているものと、撮影段階から3D専用のカメラを用いたものである。

 立体感の出来映えは結局スタッフの技術力に因ることになるが、しかし2Dで撮影されたあとで加工された映像は、どうしても立体視のリアリティを欠いてしまうことが多い。3D映画は要するに、人間の2つの目それぞれでものを観たときの僅かなブレを再現することで立体感を生み出すものだが、あとづけで加工した映像ではこれを完璧に再現することは非常に難しい。たとえば、間近にあるものを観たとき、左目では対象物の左側奥にある部分も見えるが、右目ではそれは見えず、逆に右側の奥にある部分が見える。この違いが立体感を造り出すのだが、通常のカメラで撮影した場合、これを再現することは出来ない。そのため、物体をひとつひとつ切り出し、左右の映像の位置を微妙にずらすことで距離感を表現して立体感を演出する方法を用いている。この手法は奥行きを擬似的に表現することは出来るが、物体そのものの凹凸を表現することは出来ず、どうしても質感に差が出てしまう。やはり、3Dの本当の醍醐味は、撮影時点から対応していないと実感しづらいのだ――特に『アバター』を観てしまったあとだと、そのことを痛感する。

 故に、『アバター』を作ったジェームズ・キャメロン監督には、今後もコンスタントに3D映画の新作をリリースする義務がある、と個人的には思っていた。本格的な立体感が堪能できる3D映画を普及させたいなら、そのシステムを各映画館が維持できるだけの売上を確保する、つまりは上映する作品そのものが必要になる。『タイタニック』から12年も費やしてようやく『アバター』に辿り着くような、時間の使い方をされては困るのだ。キャメロン監督自身が公表されている『アバター』続篇に力を傾注するなら、そのあいだに3D方式で公開するに相応しい題材、監督を招き、プロデュースしてもらわねば、結局はキャメロン監督自身が忌み嫌う、“ニセモノ”の3D映画が蔓延ってしまうことになる――個人的にこうした擬似的3D映画にも味はあると思っているが、本格的なものを提唱するのなら、提唱した本人が守る努力をしてもらわねば無責任の誹りを免れない。

 前置きが大変長くなってしまったが、つまり私は、本篇は発表されただけでその使命の半分を果たしている、と感じている。キャメロン監督自身が製作総指揮として、3D撮影に技術を提供し助言を行った本篇が公開されることで、彼が提唱する本物の3D映画の命脈をきちんと繋ごうとした、そのことだけでも充分に価値があるのだ。

 とはいえ、そこは鋭い洞察力のあるキャメロン監督のこと、決して題材を二の次にして、何でもかんでも3Dにしようと目論んで撮った作品ではない。

 実際に本篇を鑑賞すると、キャメロン監督の想いも理解できる。とにかく質感が素晴らしいのだ。距離感も的確に再現されているが、人物の肉体の滑らかさ、岩壁のごつごつとした質感のリアリティは圧倒的だ。

 地下から水に浸食されている洞窟、という舞台を選んだことも着眼である。狭く暗い空間なので立体感を味わうには向かない、と思えるが、実際に鑑賞してみると、前述したような岩壁、鍾乳石などの質感がきちんと得られるだけで臨場感は段違いだし、奥に延びる穴、上下左右の区別さえつかなくなる独特の不安や緊張感は、3Dであるだけに余計生々しい。襲いかかる鉄砲水までが質感を備えているばかりか、水中からの映像までふんだんに盛り込んでおり、本篇の映像世界はほとんど未知の領域だ。これを味わうためだけに劇場に足を運ぶ価値は充分にある。

 ――あまりに力説しすぎて物語などどうでもいい、というふうに取られてしまうかも知れないが、本篇は物語としてもかなりの強度を備えている。

 実際にケイヴ・ダイヴィングの経験を持っている人物が原案、脚本などに携わっているので、たとえば水中から出るときに減圧だけに長い時間を費やすことなど、ディテールにリアリティがある。そのうえで描き出される危機的状況、それ以前に構築されていた人間関係が生み出す緊張や軋轢が心理的なドラマを生み出すあたりも巧みだ。

 冒険ものとして正統派の香気を醸しだす一方で、安易な定石に陥らず、極めて容赦のない展開を見せるのも本篇に強烈な力を齎している。考えようによっては効果的な順序で人が死んでいくあたりにやや作為は感じるが、しかしその構成が生み出すドラマは圧巻だ。この非常事態に、最も冷静な人間は何を考えるか、他方でそこまで徹しきれない者たちがどんな葛藤を抱き、どういう行動に走るのか、を残酷なほど克明に描き出す。その挙句に浮き出してくる王道とも言える主題は、重量を伴って観るものに迫ってくる。

 不安さえ再現してしまう臨場感は、たとえば『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』や『カーズ2』のようなアトラクション的な面白さを3D映画に求めていると、恐らく戸惑い、たじろぎすらするはずだ。だが、そうした作品と一線を画する、重量級の冒険ロマンを体感させてくれる。

 これこそ、3D方式で制作される価値のある映画である――そして、これを契機に、キャメロン監督にはもっとコンスタントに、3Dで制作されて然るべき題材や、アイディアを擁する監督を発掘し、世に問うていただきたい。前述の通り、私自身は擬似的な3D映画も充分に愉しんでいるが、キャメロン監督自身が提唱する“本物の3D映画”を定着させるためには、もっともっと、本篇のような作品が必要であるはずだ。

関連作品:

アバター

地獄の変異

ディセント

ディセント2

バイオハザードIV アフターライフ

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