『サンダーアーム/龍兄虎弟』

『サンダーアーム/龍兄虎弟』 サンダーアーム/龍兄虎弟 [Blu-ray]

原題:“龍兄虎弟” / 英題:“The Armour of God” / 監督:ジャッキー・チェン / 脚本:バリー・ウォンエドワード・タン、ロー・キン / 製作:レナード・ホー、チュア・ラム / 製作総指揮:レイモンド・チョウ / 撮影監督:ボブ・トンプソン、ピーター・ニョール / 音楽:マイケル・ライ / 出演:ジャッキー・チェン、アラン・タム、ロザムンド・クワン、ローラ・フォルネル、ケン・ボイル / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Twin

1986年香港作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?

1986年8月16日日本公開

2011年11月11日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray DiscamazonBlu-ray Disc Set:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/09/11)



[粗筋]

 かつて、宗教戦争において邪教を打ち破るために用いられたという、6種の神の武具が存在する。長い時を経て武具は世界各地に四散していたが、現代に至って復活した邪教の信徒たちは、これを破壊することで彼らの信奉する神が蘇ると信じ、暗躍した。

 そこで目をつけられたのが、“アジアの鷹”と通称される凄腕のトレジャー・ハンター、ジャッキー(ジャッキー・チェン)である。彼は既に3つの武具を発見、オークションで売り捌いていた。邪教の信徒たちは、かつてジャッキーが所属していたバンドのメンバーであり、親友アラン(アラン・タム)とのあいだで奪い合っていた女性ローラ(ロザムンド・クワン)を誘拐、その交換条件として神の武具を持ってくることを要求する。

 ローラを巡る恋の鞘当てには破れていたが、親友の頼みでもあるため、ジャッキーはアランに協力し、ローラ救出に赴いた。幸いに、ジャッキーがオークションに出した3つの武具はすべてロンドンに暮らす伯爵の手許に集まっている。ジャッキーたちは、邪教集団が発見した2つの武具も一緒に奪ってくる、という条件でどうにか武具を借り受けると、邪教集団のアジトへと赴いた――

[感想]

 1980年代のジャッキーは、いつ死ぬかとヒヤヒヤものだった――とは、大成龍祭にてしばしば上映前のトークやイベントを仕切っているスクール・オブ・ジャッキーのお二方の弁である。ジャッキー人気を決定づけた『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』を観てもそれは解るが、その危機感がファンのあいだで頂点に達したころの作品が本篇である。何せ、頭蓋骨骨折なんて重傷を負っているのだから。

 ただ、その大怪我を負ったシーンは冒頭の、全体からすればさほど見所のない場面の出来事だったらしい。他にも無数の危険なスタント、観ていて恐怖に駆られるくらいのアクション・シーンがあるというのに、それらは(出来映えを見る限りは)無事に済んでいる、ということが驚愕だ。しかも、その事故後に撮影しているシーンのほうがどうも多いらしい、という話を聞くと、まあ確かに、当時のファンが不安を抱くのも宜なるかな、と思う。この時期のジャッキーは間違いなく脂が乗っていたが、故に極めて命知らずであり、それが圧倒的な魅力に繋がっていた。

 しかしこの作品、ストーリーとしては、ロー・ウェイ監督を離れて以降の作品の中でも雑な部類に入る。正義よりはお金を信奉しているトレジャー・ハンターという設定、その才能に目をつけた組織が彼を利用するために誘拐を画策する――といったアイディアは実に冒険ものとして愉しいが、どうして彼でなければいけなかったのか、とか、実際に行動に出るに当たっての心理的裏付けに乏しかったり、と全体に説得力に欠く。武具を買い取っていた伯爵の心情も謎だし、武具を探していた邪教の目的意識からすると、武具の扱い自体もかなり奇妙だ。個々のアクション・シーンやコメディ部分のアイディアを先に考えて、全体像を後回しにしすぎた感がある。

 特に訝しいのが、ジャッキーと親友アラン、そしてローラの3人がかつて同じバンドに所属しており、アランは未だに歌手活動を続けている、という設定だ。最初に演奏のシーンで笑いを取っている意外に必然性がない、そればかりか、なんでそんな多忙かつ重要な立場にあるアランが、危険な冒険に同道しているのかも解らない。当人の意志は別として誰も止めないってあり得るのか?!

 とまあ、ツッコミどころに欠かない作品なのだが、正直なところ、そういう点が多いから駄作だという気分にはならない。むしろ、辻褄合わせをあまり考えることなく、ひたすらに勢いで作りあげた、という雰囲気が快いのだ。臨機応変で万事そつなくこなすジャッキーと、やる気はあるが空転してしばしば足を引っ張るアランとの凸凹コンビぶり、そんな彼らに伯爵令嬢メイ(ローラ・フォルネル)が絡むことで混沌とするアクションや、邪教の思惑によって救出されたように装ってジャッキーたちのもとに戻ったローラを含んだ4人で繰り広げる、お馴染みのすれ違い劇といったコメディパートの愉しさもそうだが、潜入した邪教のアジトでの、ユーモアと渾然一体となったアクションの魅力はやはり逸品だ。

 そして何より、たぶん物語よりも優先して構想されたであろうアクション・シーンの数々にはつくづく圧倒される。特にラスト、アジトから気球に向かってダイヴするひと幕は、相当な安全策を講じていたであろう、と思っていても驚かされ、呆気に取られる。アジトの地理とか、潜入した本来の目的とかがぜんぶ無視されているのだが、そんなことどーだっていい、と思えるほど衝撃的で、痛快なクライマックスだ。

 もっと細部を詰めていれば、奇妙な三角関係を軸とするユニークな冒険映画の秀作、と呼べたのだが、生憎それほど端整とは言い難い。しかしそれでも、この当時のジャッキーの勢いと魅力が存分に詰まった快作であるのは確かだ。ジャッキー・チェンは自身の出演作のなかで、本篇をお気に入りの1つに挙げているが、それも頷ける――きっと、この頃のジャッキーが理想とした、見て愉しい作品に仕上がっているからなのだろう。

関連作品:

クレージーモンキー/笑拳

ヤング・マスター/師弟出馬

ドラゴンロード

プロジェクトA

ポリス・ストーリー/香港国際警察

七福星

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