『サイクロンZ』

『サイクロンZ』 サイクロンZ [Blu-ray]

原題:“飛龍猛将” / 英題:“Dragons Forever” / 監督:サモ・ハン・キンポー / 脚本:シートゥ・チャホン / 製作:ジャッキー・チェンコーリー・ユン / 製作総指揮:レイモンド・チョウ、レナード・ホー / 撮影監督:リョウ・ジイメン、チョウ・イウゾウ / 音楽:ジェームズ・ウォン / 出演:ジャッキー・チェンサモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ、ディニー・イップ、ポーリン・ヤン、クリスタル・コー、ユン・ワー、ベニー・ユキーデ / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Twin

1988年香港作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:?

1988年4月23日日本公開

2011年12月9日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/09/25) ※トークイベント&プレゼント抽選会付上映



[粗筋]

 腕利きの弁護士ロン(ジャッキー・チェン)が受けた新たな依頼は、養殖場から用水汚染で訴えられた工場の弁護。

 もともと工場側は賠償を含めて養殖場の買収を持ちかけていたが、経営者のイップ(ディニー・イップ)は親から受け継いだ仕事を手放す意向がないらしい。勝とうが負けようが弁護士は収入を得られるが、話を有利に運ぶため、ロンはイップの懐柔を図ることにした。

 そのために声をかけたのが、便利屋のウォン(サモ・ハン・キンポー)。彼をイップに接触させ、買収に傾くよう仕向けさせる。同時にロンは旧友のトン(ユン・ピョウ)の協力も仰ぎ、身軽な彼をイップの家に潜入させ、盗聴器を仕掛けるよう頼んだ。

 だが、これが混乱の元だった。ウォンはイップに接触するために隣の家に引っ越し、イップの家に侵入しようとするトンを泥棒と勘違いする。すぐにロンが手を打ち保釈させるが、この頃気持ちを病んでいるトンはロンに対し怨み節を漏らした。

 更にまずかったのが、ロンの素行である。もともと女たらしだった彼は、交渉の場で出逢ったイップの従姉妹メイ(ポーリン・ヤン)に一目惚れ、熱烈なアプローチを仕掛けていた。当初、メイは固辞していたが、イップは相手方の様子を探らせるため、誘いに乗るようメイに促した。そうしてロンの家でふたりはテーブルを囲んだのだが、そこにウォンとトンが、別々にやって来たのである……

[感想]

 2011年時点で、ジャッキー・チェンサモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウという“三羽烏”が顔を揃えたのは、本篇が最後となっている。その後もジャッキー作品のアクション監督をサモ・ハンが務めたり、サモ・ハンの作品にユン・ピョウが出演していたり、と交流はあるそうだが、この奇跡とさえ言える3ショットも、これで当面は見納め、ということらしい――3人の年齢からしても、次を想像するのは困難で、あとづけで追っかけてきた私としても、いささか寂しいところだ。

 この時点で、そうしたファンの心境を汲んだとは考えがたいのだが、しかし本当にこれが最後となることを前提としていたかのように、本篇はサモ・ハン×ジャッキー×ユンという3人組で作ってきた映画の総決算のような趣がある。

 象徴的なのは、ベニー・ユキーデが顔を見せていることだ。『スパルタンX』クライマックスで見せるジャッキーと彼との一騎打ちは、数多いジャッキーの格闘シーンの中でも最高、という評判だが、本篇のクライマックスで再戦を果たしている。今回はそれまでの混戦のインパクトが強いために、若干見劣りはしているものの、ジャッキーがいっときは自分の後継者と目していたというユキーデとのぶつかり合いはやはり出色だ。他にも、3人組の作品などで見覚えのある役者がいつになくたくさん顔を揃えている印象もあり、続けて観ていると配役の段階でニヤリとさせられることがしばしばだ。そういう捉え方をすると“福星”シリーズの仲間たちがあまり目につかないのが惜しまれるが、“福星”シリーズはサモ・ハン監督自らの主演作であるため、意識して差別化したのかも知れない。

 だが、ファンにとってもっと嬉しいのは、この3人による三つ巴の格闘が組み込まれていることである。

 実はこういうシチュエーション、これまでの作品ではあまり見られなかった。ユン・ピョウはジャッキーのライヴァル的な位置づけで登場して、最初や中盤くらいで拳を交えることはあるが、サモ・ハンとジャッキーは全般に息の合った共闘ぶりを示すことがほとんどで、殴り合う場面はあまり覚えがない。まして3人がこんなに激しく混戦するなど、本篇が初めてではなかろうか。あったとしても、ここまで執拗に争う姿を描いてはいなかったはずだ。争うに至る経緯には無理があるものの、圧倒的な身体能力を誇る3人の、どつき合いというかじゃれ合いというべきか、その光景は愉しくも異様な迫力がある。

 ストーリーの方は、基本的にこの頃の香港映画の例に漏れず、かなり雑なものだが、興味深いのはジャッキー演じる主人公を弁護士にしたことだ。立場上、事件に絡めやすいというのもそうだが、本篇の場合はコメディ場面での活かし方が巧い。特に『ポリス・ストーリー/香港国際警察』を彷彿とさせる法廷でのやり取りが逸品だ。ジャッキーとサモ・ハンがそれぞれに繰り広げるラヴ・ロマンスの成り行きがいまひとつ共感しにくいせいで若干効き目を損なっているようにも感じるが、裁判官のキャラクターも相俟って、忘れがたい印象を残す。

 サモ・ハンの監督によるジャッキー出演作と、ジャッキー自身の監督作は、アクションに対する姿勢が微妙に異なっているように思う。ジャッキーは椅子や自転車などの小道具を組み込んだり、唐辛子を囓って目つぶしに用いたり、とユニークな趣向を採り入れる傾向にあるが、サモ・ハン監督のアクションはストレート、正統派の肉弾戦がほとんどだ。建物の立地条件を活かしたアクロバティックな動きや、トンボを切るユン・ピョウを頭上から撮影するようなトリッキーなカメラアングルを導入したり、とあまり奇を衒った感はない。

 だがそれでも、緊迫した決戦の場でもユーモアを失っていないのが、如何にもこの3人組の作品らしい。特にクライマックス、たったひとり残されたジャッキーとベニー・ユキーデの死闘にちょこちょことちょっかいをかけて、ジャッキーに一撃を加えては得意げな表情を見せる悪党のボスが、憎たらしくも愛嬌があっていい。

 ストーリーの強引さ、他の作品と比べて決定的な見せ場がないこともあって、まったく文句なし、とまでは言えないが、この3人組の魅力に惹かれた人であれば間違いなく満足のいく佳作である。この頃のキレをもういちど、とまでは言わないが、何とかこの3ショットにはもういちどお目にかかりたいものである。

関連作品:

スパルタンX

五福星

七福星

プロジェクトA

ポリス・ストーリー/香港国際警察

コメント

タイトルとURLをコピーしました