『アンノウン』

アンノウン ブルーレイ&DVDセット(2枚組)【初回限定生産】 [Blu-ray]

原題:“Unknown” / 原作:ディディエ・ヴァン・コーヴラール / 監督:ジャウム・コレット=セラ / 脚本:オリヴァー・ブッチャー、スティーヴン・コーンウェル / 製作:ジョエル・シルヴァー、レナード・ゴールドバーグ、アンドリュー・ローナ / 製作総指揮:スーザン・ダウニー、スティーヴ・リチャーズ、セーラ・マイヤー、ピーター・マカリーズ / 撮影監督:フラビオ・ラビアーノ / プロダクション・デザイナー:リチャード・ブリッジランド / 編集:ティム・アルヴァーソン / 衣装:ルース・マイヤーズ / キャスティング:ルシンダ・サイソン / 音楽:ジョン・オットマン、アレクサンダー・ラッド / 出演:リーアム・ニーソンダイアン・クルーガージャニュアリー・ジョーンズエイダン・クインブルーノ・ガンツフランク・ランジェラセバスチャン・コッホ、オリヴィエ・エルツェッグ、ライナー・ボック、ミド・ハマダ、クリント・ディアー、カール・マクコヴィクス / パンダ製作 / 配給:Warner Bros.

2011年アメリカ、ドイツ合作 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:石田泰子 / PG12

2011年5月7日日本公開

2011年9月21日映像ソフト日本最新盤発売 [Blu-ray&DVDセット:amazon]

公式サイト : http://www.unknown-movie.jp/

Blu-ray Discにて初見(2011/11/01)



[粗筋]

 マーティン・ハリス(リーアム・ニーソン)はドイツのホテルにチェックインする直前で、空港に荷物を置き忘れていることに気づき、慌ててタクシーを呼び止め、引き返した。だが、道中でタクシーは事故に巻き込まれ川に転落、マーティンは心停止を起こし、昏睡状態に陥る。

 4日後に目醒めたとき、マーティンの記憶は混濁していた。名前や、自分の素性を思い出すことは出来るが、事故前後の状況を正確に思い出すことが出来ない。しかし、収容された病室のテレビを観ているうちに、自分がバイオテクノロジー学会に出席するという名目でドイツ入りしたこと、妻のエリザベス(ジャニュアリー・ジョーンズ)を同行していたことを思い出した。担当医を説得し、どうにか退院許可を得ると、学会の開催されているホテルへと駆けつける。

 身分証がないマーティンは入口で警備員に制止されるが、エリザベスの姿を見つけ、彼女に話をすれば身分は保証される、と言い募り、どうにか会場へ潜入した。

 しかしそこでマーティンを待っていたのは、衝撃的な出来事だった。エリザベスは彼を見ても心当たりがない、という表情をし、やがてひとりの男を呼び寄せ、彼こそが自分の夫だ、と断言した。

 警備員室に連れて行かれたマーティンは、防犯ビデオの映像をもとに身許を証明しようと試みるが、防犯カメラに彼の姿は映っていなかった。とどめは、マーティンが所属する大学のホームページに掲載された彼の写真が、先刻妻といた男のものになっていたことである――ことここに至っては、自分の記憶が混乱している可能性を認めないわけにはいかず、マーティンはふたたび病院に戻ることを約束して、ホテルを出て行く。

 だがそれでも、納得できなかった。ホテルマンに乗せられたタクシーを早々と止めると、街へ飛び出していく。己の身の証を立てるために――

[感想]

 これはある意味、とても損をしている作品ではないか、と感じた。

 実のところ、観終わった直後の評価は微妙だったのだ。仕掛けの意味合いをひと言で言い表すことも可能だが、それは控えよう――いずれにせよ、序盤の語り口で何らかの期待をすると、かなりの率で戸惑うような展開になっている。意外性を狙いすぎるあまりに、破綻しているような印象さえ受けるはずだ。

 だが、あとになって考えると、恐ろしく精緻に練られていることに気づく。映像ソフトなど、最初から観直すことが出来る状況にあるなら、冒頭のシーンをよくご覧いただきたい。終盤で明かされる事実と、何ら矛盾しない描写の数々に唸らされるはずだ。

 一見、これといった伏線がなく、意外性ありきでひねりを加えているように思えるかも知れないが、実はきちんと真相に合わせて、人物の行動をうまく抽出しているのである。詳しく触れられないのがもどかしいが、粗筋で記したよりあとに登場する、かつて東ドイツの秘密警察に所属していた探偵の行動の描き方など、実に憎い趣向が凝らされている。こう書いたうえで鑑賞しても、恐らくその場で意味合いに気づくことはまずないだろう。

 非常に複雑な背景をこしらえながら、それをうまく整頓して、ひたすらにサスペンスを構築するためのモチーフに活かしている。その徹底ゆえに、謎解きのヒントという性質は乏しくなってしまっているが、しかし観終わったあとに解析すると、恐ろしく隙がない。なまじ推理しながら鑑賞するような人ほど、観ているあいだ、そして観終わった直後にすぐに腑に落ちないことが、損をしている、と感じた所以である。

 勿体ない、と感じる点はもうひとつある。これも詳しくは書けないが、ある部分について、あまりに偶然に依存しすぎている感があるのだ。

 映画に限らず、フィクションというのは基本的に御都合主義である。こういう展開に導きたいからこの人物はこう動く、こう感じる、という恣意的な細工に溢れている。だから創作者は、そこに緻密な伏線を張り巡らせたり、プロットに自然な工夫を凝らす。

 そういう意味では、実のところ本篇は基本的に御都合主義を感じさせない、見事な構成美を誇っているのだが、ある一部、それも物語の根本に拘わるところで、極端すぎるほど作り手に好都合な偶然を起こしてしまっている。もしほんの少しでもそこに狂いが生じていれば、作品そのものが成立しなくなるというほど根本的な部分であるだけに、致し方ないとも言えるのだが、個人的にはもう少し踏み込めば作為を組み込むことも不可能ではなかった、と考えられるだけに、この不備はなおさらに惜しまれる。

 とはいえ、もしそこまで徹底していたら、いささか窮屈な作品になっていた可能性も否めず、これで良しとするべきかも知れない。何より、そうした頭でっかちな指摘をはね返すほどに、本篇はクライマックスまでの過程が“問答無用”と言いたくなるほどに面白い。根底に仕込んだアイディアと矛盾のない描写を紡ぎ合わせて生み出したサスペンスは強烈な牽引力を誇り、そこに重量級のアクション・シーンもあまり不自然でなく組み込んでいる――背景を思うともう少し行動を控えそうなものだが、それはさすがに野暮な指摘というものだろう。市街地を破壊しまくる激しいカーチェイス、随所で繰り広げられる壮絶な格闘など、スクリーンで堪能するに相応しい見せ場は、いい意味で泥臭いからこその迫力に満ちあふれている。

 私同様、本篇を観ているあいだは楽しみつつも、どうにも釈然としない、という想いを抱いた人は、思い切って最初から観直していただきたい。恐らく、想像している以上に愉しめるはずである――これは、美点も欠点も、徹底して練られているからこそ存在する、それ故に上質のサスペンスである、と断言できる1本だ。しかも劇場のスクリーンで鑑賞するだけの価値がある絵作りをしている――そうと解るだけに、注目していたにも拘わらず、劇場公開の際に観逃してしまったことが惜しまれる。

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