『ガントレット』

ガントレット [Blu-ray]

原題:“The Gauntlet” / 監督:クリント・イーストウッド / 脚本:マイケル・バトラー、デニス・シュリアック / 製作:ロバート・デイリー / 撮影監督:レックスフォード・メッツ / 美術:アレン・E・スミス / 編集:ジョエル・コックス、フェリス・ウェブスター / 舞台装置:アイラ・ベイツ / 音楽:ジェリー・フィールディング / 出演:クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、パット・ヒングル、ウィリアム・プリンス、ビル・マッキーニー、マイケル・キャヴァノー、キャロル・クック、マーラ・コーディ、ダグ・マクグラス、ジェフ・モリス、サマンサ・ドーン、ロイ・ジェンソン、ダン・ヴァディス / マルパソ・カンパニー製作 / 配給:Warner Bros.

1977年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫

1977年12月17日日本公開

2011年12月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

Blu-ray Discにて初見(2011/11/13)



[粗筋]

 フェニックスの警察に勤める刑事ベン・ショックレー(クリント・イーストウッド)に、新任の長官ブレークロック(ウィリアム・プリンス)から呼び出しがかかった。ある裁判の証人として、現在ラスヴェガスの留置所にいる人物を護送してきて欲しい、というのである。市内勤務のはずの自分に何故この仕事を、という疑問はあったが、命令ゆえにショックレーは大人しく従う。

 ラスヴェガスで彼を待っていたのは、ガス・マレー(ソンドラ・ロック)という女であった。どういうわけか仮病を使ってまで留置所に閉じこもろうとしたその女は、「出ていけば殺される」と奇妙なことを訴える。護送すれば、ショックレーも一緒に殺される、と主張した。連中は自分たちの命を賭けに使う気だ、と。

 まともに耳を貸さなかったショックレーだったが、ブックメーカー掲示板に“マレー・ノーショウ(マレーは現れない)”と銘打った馬がおり、彼女の言ったとおりの倍率がかかっていることに気づく。若干訝りながらも、それでも任務を果たすべく、救急車から急遽手配したレンタカーに乗り継いでマレーを護送する策を打ったが、先にレンタカーに乗り込もうとしたラスヴェガスの警官が車ごと吹き飛ばされる光景に、愕然とする。

 やむなく救急車で運ぶことにしたショックレーだったが、その後も絶え間なく正体不明の追っ手が現れた。何者かが自分たちを罠にかけた、と、ショックリーも認めないわけにはいかなかった……

[感想]

 題名の“ガントレット”とは、左右から処刑人が鞭を振るうあいだを、受刑者が通っていく、という処刑法の名称である。本篇では、それそのものではない――しかし確かに、知識があればこの処刑を彷彿とさせる、そして実物よりも遥かに壮絶なひと幕が組み込まれている。脚本家か、企画を立ち上げた誰かが思いついたであろうこの場面こそ、恐らくは本篇の出発点であったのだろう。そして映画としても、このクライマックスの衝撃に尽きる、と言っていい。はっきり言って他の描写は、このシーンを実現するだけのために存在している。

 それ故に、率直に言えば、展開はかなり強引だ。最初のお膳立てには細かな謎が仕掛けてあって牽引力に富んでいるが、いざクライマックスの“ガントレット”に持ち込むくだりには、主人公側にも、彼らを狙う敵役の側にも、強引な理屈が目立つ。いちおう策略としても、反応としても筋が通っているように思えるが、あまりに事後処理を軽んじすぎている。敵側の荒っぽさは、主人公ショックレーがマレーの住居に身を寄せた際の描写で証明済みであるし、中途半端にエピローグを組み込まなかったことで不自然な印象を齎さずに済んでいるが、やはり少々乱暴すぎる。

 最後まで観たあとだとクライマックスの荒々しさがやたら記憶に残ってしまうが、しかしそこまでの筆運びは決して悪くない。突然、命を脅かされる状況に陥れられ、混乱しながらも必死に銃弾をかいくぐっていく過程は非常にスリリングだし、その随所で見せるショックレーの無骨な振る舞い、そんな彼に突っかかっていくマレーの男勝りな言動の絡みは実に愉しい。

 特に、荒野で繰り広げられる、バイク対ヘリの追跡劇は割かれた尺も長く、かなりの見物だ。他に人の姿などなく、ほとんど遮るもののない状況で逃亡を続け、地の利を活かしてどうにか脱出を図るさまを徹底して追う一連の場面は、やたらと場面を細かく区切ったアクションに慣れていると、違った緊迫感を味わえる。冷静に考えれば、いくらアメリカの荒野でも、あちこちにトンネルやハイウェイのある地形で、あれほど長距離に亘って他人と遭遇しないことはあり得ないように思えるし、そんななかで不安定なヘリコプターから狙撃を繰り返すリスクは、追う側の素性からすると犯さないように考えられるが、あまり細かい点に拘泥するのは野暮というものだろう。

 この前年、イーストウッドは西部劇のフォーマットを敷衍した大作『アウトロー』と、シリーズの3作目『ダーティハリー3』を発表している。本篇は、決してハリー・キャラハンのキャラクターでは描き得ない、それでいて『アウトロー』のような重厚な味わいとは異なる、力強い娯楽作を、と目指した結果の作品のように思える。ならば細部の強引さも、見せ場の派手さ、迫力に重点を置いた作りも、むしろ当然のことと言えるだろう。

 アクションにももっと説得力が必要だ、とかスピード感も演出して然るべきだ、と妙に堅苦しく考えていては愉しめない。あのクライマックスの壮絶な映像、音響に潔く翻弄されましょう。

関連作品:

真昼の死闘

アウトロー

ダーティハリー3

グラン・トリノ

少林寺木人拳

コメント

タイトルとURLをコピーしました