『酔拳2』

酔拳2 [DVD]

原題:“酔拳II” / 監督:ラウ・カーリョン / 脚本:エドワード・タン、ドン・マンミン、ユエン・カイチー / 製作:エリック・ツァンエドワード・タン、バービー・タン / 製作総指揮:レナード・ホー / 撮影監督:チャン・ユイジョウ / 美術:エディ・マー、ホー・キムシン / 編集:チョン・イウチョン / 武術指導:ラウ・カーリョン、ジャッキー・チェン・スタント・チーム / 音楽:ウー・ワイラップ / 出演:ジャッキー・チェンアニタ・ムイ、ラウ・カーリョン、ティ・ロンアンディ・ラウ、フェリックス・ウォン、ホー・ヨンファン、ロー・ホイクゥン、チン・カーロウ / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1994年香港作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:岡田壯平

1994年12月10日日本公開

2010年4月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2011/11/25)



[粗筋]

 ウォン・フェイフォン(ジャッキー・チェン)は父ケイイン(ティ・ロン)と共に遠出した際、入手した朝鮮人参を、税金逃れに外国人の荷物に忍ばせた。列車のなかで荷物を確かめようとしたとき、それを盗み出そうとする男(ラウ・カーリョン)と遭遇、懸命に追い縋る。優れた武術の遣い手である男に翻弄されながらも、どうにか荷物を取り戻すことに成功した、と思ったが、蓋を開けてみるとそこに入っていたのは見慣れぬ印章だった。

 実はこの印章は、英国領事館が密かに入手し、国外に持ち出そうとしていたものだったのである。列車内では奇縁から発見されずに済んだフェイフォンだったが、領事の命で動いている男はフェイフォンに目をつけていた。

 一方、大事な朝鮮人参を取り違えてしまったフェイフォンも窮地に立たされていた。それはウォン家の営む医院・宝芝林のお得意様に提供するはずのものだったのである。やむなくフェイフォンは、家にある鉢植えの根を渡して誤魔化してしまう。

 しかし、偽物を服用すれば身体に毒になる。事情を知った義母のリン(アニタ・ムイ)は、取り替える本物を入手するための費用を工面するべく首飾りを売ることにするが、その様子を偶然に領事の部下が目撃、印章を売り捌こうとしていると勘違いして強奪した。取り戻すためにあとを追ったフェイフォンは、成り行きのために、父の命で封印していた酔拳を使ってしまう。

 だが、間の悪いことに、そこに偶然父が通りかかってしまった――

[感想]

 古いステレオタイプカンフー映画の呪縛から彼を解き放ち、日本をはじめ各国で高い興収を上げ、世界進出の足掛かりとなった『ドランクモンキー/酔拳』がジャッキー・チェンにとって重要な作品であることは、彼自身も認めているところである。以降、自身が監督を担当するようになって、コメディ・タッチの作風を深化させると共に、『プロジェクトA』のような歴史を舞台にした娯楽作品、そして『ポリス・ストーリー/香港国際警察』のような現代物へと向かい、どんどん初期の作風から離れていった彼が、『新ポリス・ストーリー』で自分流のシリアス・タッチも模索しはじめたところで、出世作の続篇、というかたちでにわかに原点回帰を図ったことは、当時としてはどのような感覚で捉えられたのか。

 ただ、後年の立ち位置から眺めると、この後退はむしろ、新しい方向性を模索する一方で、敢えて新しさに囚われる必要もない、という余裕の現れであり、充実の証でもあるように映る。ジャッキーがその名を知られた時期よりも香港映画が世界的に浸透し、国際的にある程度名の通った俳優が現れるようになった時代である、ということを差し引いても、前作と比べ錚々たる、という印象を受けるし、最後は野外での戦闘だった前作と比べ、セットを多用した本篇は、名を確立したこの時だからこそ可能な豪華さだ。そして、往年のカンフー・スタイルを蘇らせながらも、アクション・シーンのアイディア、スタントの過激さは『プロジェクトA』以降に確立させたスタイルを踏襲しており、まるで初期と最盛期のスタイルとを融合したかのような趣がある。

 要は、この作品でジャッキーが示したかったのは、初期よりも更にオリジナリティを突き詰め確立した自身のスタイルと制作態勢のなかで作りだしたカンフー映画、だったのではなかろうか。そういう考え方に至るには、自身の立場を確定させていることが必要であるとともに、若い頃と同じかそれ以上のことが可能なコンディションも求められる。この当時ジャッキーは40歳、まだまだ男盛りとは言い条、次第に衰えてくることは想像に難くなく、また更に新しい路線を極めれば、こういう作品を生み出す機会はなかなか得られない。本篇のような作品を撮るには、実は最後の好機だったのではないか。

 こういうスタイルに本格的に臨むのが最後だ、という実感があった、と解釈すると、納得がいくくらいに本篇の充実度は高い。最初のラウ・カーリョンとの戦いで既に往年のカンフー・スタイルを披露したかと思えば、次にはすっかりお家芸となったどたばたで笑いを取る。それでいて、しばしば繰り広げられる少数対大勢の戦いでは、階段を落としたり屋根を崩したり、と派手な趣向があり、クライマックスの戦闘で見せるスタントの危険度は相変わらずだ。

 ストーリーは雑だが、これもある意味では、作品の方向性から考えると当然なのである。とにかく観客を愉しませることが最優先であり、全体の辻褄は後回しにされている。だが実際観ていると、細かいことはどーだっていいじゃないか、と思えるくらいに見所が満載されている。前述したようなアクションの趣向もさることながら、キャラクターが確立されているので、やり取りに魅力があり、悪役らしい悪役のお陰で終盤の緊迫感、爽快感もひとしおだ。とりわけ、あまりに愛嬌があり、ある意味ではジャッキー演じるフェイフォン以上のトラブル・メーカーぶりを発揮する義母リンが素晴らしい。

 惜しむらくは締め括りが唐突であることだ――実は本篇は、あのシュールな結末のあとにかなり毒の籠もったエピローグが存在したそうで、道徳的な意味合いから作られたものの、日本版ではカット、その後は本国版でも自粛される方向になっているらしい。私も本篇鑑賞後、ネットにアップされているもので確認したのだが、あれは確かに要らない。終盤の行動を思うと頷ける内容ではあるが、折角の娯楽映画としての爽快感を帳消しにしてまで描く意味はないだろう。

 何より、ストーリー的にきっちりまとめられていなくとも、過程の面白さでは初期、最盛期の諸作にさえひけを取るものではない。映画人としてキャリアを確立した頃のジャッキーだからこそ出来る、彼流のカンフー映画の、見事な総決算である。

関連作品:

ドランクモンキー/酔拳

ヤング・マスター/師弟出馬

ドラゴンロード

七福星

プロジェクトA

ポリス・ストーリー/香港国際警察

新ポリス・ストーリー

新少林寺/SHAOLIN

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地争覇

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