『大鹿村騒動記』

『大鹿村騒動記』

原案:延江浩『いつか晴れるかな』(ポプラ文庫・刊) / 監督&企画:阪本順治 / 脚本:荒井晴彦阪本順治 / 製作:中沢敏明、山田美千代、堤田泰夫、遠谷信幸、吉羽治、冨木田道臣 / プロデューサー:椎井友紀子 / 撮影:笠松則通 / 照明:岩下和裕 / 美術:原田満生 / 音楽:安川午朗 / 主題歌:忌野清志郎『太陽の当たる場所』 / 出演:原田芳雄大楠道代岸部一徳松たか子佐藤浩市冨浦智嗣瑛太石橋蓮司小野武彦小倉一郎、でんでん、加藤虎ノ介三國連太郎 / 配給:東映

2011年日本作品 / 上映時間:1時間33分

2011年7月16日日本公開

2012年1月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://ohshika-movie.com/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/03/08) ※“TOHO CINEMAS PRESENTS セレクト2011”の1本として上映



[粗筋]

 いま大鹿村は、リニアモーターカーの線路敷設に関する議論と、村で300年続く大鹿歌舞伎の公演の稽古でてんてこ舞いになっていた。

 誰よりも熱心なのは、長年に亘って景清を演じてきた風祭善(原田芳雄)だ。かつては鹿牧場を営むつもりでいたが、妻の貴子(大楠道代)が18年前、心を許していた幼馴染みの能村治(岸部一徳)とともに駆け落ちしてしまい、いまは改装して鹿料理専門店“ディア・イーター”をひとりで切り盛りしながら、歌舞伎に情熱を注いでいる。

 夏恒例の講演を前に、大地雷音(冨浦智嗣)という青年を新たに雇い入れ、意気軒昂としていたなか、予想外の椿事が善を見舞った。

 貴子と治が突如、大鹿村に舞い戻ってきたのだ。

 東京で暮らしていたふたりだったが、最近になって貴子が認知症を患ったのだという。アルツハイマーとも異なり、前頭葉に影響する貴子の症状は、異食と記憶の欠落。既に彼女の頭のなかに治は存在せず、彼を“善さん”と呼ぶようになっていた。

 貴子にも治にもずっと怨みを抱いていた善だったが、これでは怒るだけ無駄だ、と悟る。善は貴子を迎え入れ、未だ取り違えられているらしい治にも、念のために留まるように命じた。

 だが、貴子の扱いは想像よりも遥かに厄介だった。接客は普通に出来るのに、突如として冷蔵庫の中のものや茹でる前のパスタを口にしようとし、雑貨屋で塩辛の瓶を金も払わず持ち帰ってしまう。彼女の面倒を見るだけでいっぱいいっぱいになった善は、とうとう歌舞伎の景清役を降りる、とまで言い出した――

[感想]

 主演の原田芳雄は、本篇を最期にこの世を去った。ギリギリまで壮絶な闘病生活を過ごし、完成直後の上映会には車椅子で来場したほどに、本篇に対する思い入れは強かったという。

 壮絶な役者魂を感じさせるエピソードだが、しかし内容自体にはそんな鬼気迫るものではない。ただ、決して遺作を意図して選んだわけではあるまいが、役者の最期を飾るには実に相応しい1本と言っていい。

 強烈な役への執着、といったものは感じさせないが、しかし本篇には“演じることの愉しさ”が横溢している。中心人物である風祭善だけではなく、他の大鹿村住人たちも、歌舞伎に携わることをみな愉しんでいる。リニアモーターカー敷設の問題で感情的な軋轢を生じ、出演する、しない、といった議論が湧き起こることはあるが、誰も演じることは厭っていない。収穫の際に台詞を諳んじることがクセになっている男がいたり、裏方ながら完璧に筋を記憶している青年がいたりする。

 この歌舞伎と、家庭の事情との絡み方が、滑稽でもあり、本篇の泣かせどころでもある。単純に怒る、憎むというだけでは言い表せない、夫婦や友人間の関係性が、村歌舞伎に対する感情、思い入れと、筋立てとも結びついて、じわじわと昇華される。ラスト30分ほどに及んで繰り広げられる実際の舞台は、原田芳雄らの渾身の“芝居”とも相俟って実に味わい深い。

 たとえばこれが本格的な、都市圏で披露される歌舞伎や古典芸能の類を題材にしていたら、こんな味わいは出なかっただろう。本来、他に生業のある人々が、伝統として演じる芝居だからこそのひたむきな情熱と、いい意味でつきまとう緩さが、本篇が描き出す役者の心意気を快く実感させてくれる。

 こういう、役者魂というものを、変に穿ったものでも、偏執狂めいたものとしても描くことなく、柔らかに暖かに描き出した作品で最期を飾る、というのは、考えようによってはとても幸せなことではなかろうか。役柄のうえでも、役者そのものとしても、決して押しつけがましくなく、しかしくっきりと原田芳雄という名優の足跡を刻みつけた本篇は、きっと彼のフィルモグラフィのなかで特別の1篇になると思う。

 ――とはいえ、決して原田芳雄という俳優に拘らずとも、程よい緩さが快い、いまの日本ではなかなか得がたい好篇であることは確かだ。あまり肩が凝らない、それでいて日本らしさを濃密にたたえた作品がお望みなら、きっと期待に応えてくれる。

関連作品:

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闇の子供たち

座頭市 THE LAST

行きずりの街

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