『アメイジング・スパイダーマン(3D・字幕)』

新宿ミラノ外壁看板。

原題:“The Amazing Spider-Man” / 原作:スタン・リー、スティーヴ・ディッコ / 監督:マーク・ウェブ / 脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト / 製作:ローラ・ジスキン、アヴィ・アラド、マット・トルマック / 製作総指揮:スタン・リー、ケヴィン・フェイグ、マイケル・グリロ / 撮影監督:ジョン・シュワルツマン,ASC / プロダクション・デザイナー:J・マイケル・リヴァ / 編集:アラン・エドワード・ベル,A.C.E.、ピエトロ・スカリア,A.C.E. / 衣装:キム・バレット / 特殊効果:ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス / 特殊効果スーパーヴァイザー:ジェームズ・チェン / 音楽:ジェームズ・ホーナー / 出演:アンドリュー・ガーフィールドエマ・ストーン、リース・イーヴァンズ、デニス・リアリーキャンベル・スコットイルファン・カーン、マーティン・シーンサリー・フィールド、クリス・ジルカ / 配給:Sony Pictures Entertainment

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 日本語字幕:菊地浩司

2012年6月30日日本公開

公式サイト : http://www.amazing-spiderman.jp/

新宿ミラノ2にて初見(2012/06/23) ※特別先行上映



[粗筋]

 ピーター・パーカー(アンドリュー・ガーフィールド)の両親は幼い頃、彼を伯父夫婦のもとに預けると、そのまま行方をくらました。

 科学者であった父リチャード(キャンベル・スコット)の血を引き聡明な青年に成長したピーターだったが、ひとと距離を置いた影のある振るまいが一部の人間の不興を買い、特にフラッシュ(クリス・ジルカ)からは日々嫌がらせを受けている。同級生のグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)に憧れを抱いていても、想いを伝えることなど夢のまた夢だった。

 ある日、ピーターは伯父のベン(マーティン・シーン)とともに倉庫の整理をしていて、父の鞄を発見する。預かったまま忘れていた、というそれを開くと、中には何らかの化学式や、大手製薬会社オズコープに父が勤めていたことを示す書類、更に父が別の白衣の男性と一緒に写っている写真を見つけた。

 ピーターは誘われるように、オズコープ社に赴き、面接を受けに来た体を装って潜入する。ピーターが訪ねようとしていたのは父リチャードの旧友カート・コナーズ博士(リース・イーヴァンズ)だったが、偶然にもオズコープで助手として働いていたグウェンに見咎められ、ピーターはあえなく退散する。

 だが、訪問中、偶然に迷い込んだ実験室で、ピーターは運命の出逢いを果たしていた。そこには無数の蜘蛛が飼育されていて、その1匹が彼の首筋に噛みついていたのである。気づくとピーターは、異常な力を身につけていた。壁や天井を自在に這うことが出来、腕力は人間の常識を遥かに上回る。調子づいたピーターは、それまで彼をいいように弄んでいたフラッシュを、逆にのしてしまう。

 この出来事は、しかしピーターとベンとのあいだに思わぬ溝を生じてしまった。ピーターが壊したものを弁償するために、ベンは夜勤の仕事を増やしたが、自分のことでいっぱいになってしまったピーターはベンから伯母のメイ(サリー・フィールド)を迎えに行くよう頼まれていたことを忘れて出歩き、ベンと言い争いになってしまう。そして、衝動的に夜の街へ飛びだしてしまった直後、悲劇は起きた――

[感想]

スパイダーマン』と言えば、アメコミ映画の一大ブームを生み出す最大の原動力となったサム・ライミ監督&トビー・マグワイア主演の作品の印象が未だに新しい。アクション映画としてのみならず、青春映画としても良質の仕上がりが高い支持を受け、3作まで製作された。

 これほど好評を博した作品が、僅か10年でリメイクされる、ということに、情報が公表された最初の段階では、批判的な声も多く聞こえてきた。かくいう私も、スパイダーマンというキャラクターへの愛に溢れたサム・ライミ監督ヴァージョンを評価しているために、いまひとつ納得出来なかったのだが、しかしあとになって冷静に考えると、これはむしろ懸命な判断であったように思う。

 まず、本篇には青春映画としての側面が色濃いが、さすがにトビー・マグワイアはそろそろ、青年を演じるには相応しくない年齢に達している。成長に添ってストーリーも大人故の苦しみを描く方向へスライドさせる、という判断もあるが、オリジナルである作品世界の魅力からはどんどん遠ざかってしまう。そう考えれば、いったん仕切り直しをして、俳優を若返らせる方が賢明だ。

 もうひとつ大きいのは、昨今台頭してきた3D映画である。観客を劇場に集めるための魅力的なコンテンツとしても、また業界を悩ませる盗撮防止策としても持てはやされているが、人気作の場合、安易に導入すると、旧作とイメージが乖離する、従来のファンの敬遠を招く可能性もある。ならば、リブート、という形でシリーズ自体を仕切り直し、最初から3Dの効果を考慮して製作したほうがいい。

 サム・ライミ監督版の『スパイダーマン』自体、第3作で綺麗に一区切りついている。下手にあのあとの物語を3D映画として製作することを考えると、改めて最初から語る、という判断は、作品置かれた状況を考慮すれば極めて妥当なのだ。

 ……と、作品の出来映えとは無縁のところで論じてしまったが、翻って、これほど製作会社側が考慮したうえで行われた仕切り直しであるだけに、新たに起用されたキャスト・スタッフの重圧は並大抵ではなかったはずだが、本篇の仕上がりはその期待に見事に応えた、と言っていいだろう。

 新たにピーター・パーカーに抜擢されたアンドリュー・ガーフィールドは前任のトビー・マグワイアに比べ美男子のオーラを醸しており、新ヒロインのグウェンを演じたエマ・ストーンも、申し訳ないが旧シリーズのヒロインよりずっとキュートで、サム・ライミ版にあった親近感はやや薄れた感がある。中心となるふたりのヴィジュアルが向上したことに加え、美術の方向性もかなり洗練され、いい意味での泥臭さは薄れてしまった。だから、サム・ライミ版に愛着のある人には、変に小綺麗になってしまった印象を与えるのではなかろうか。

 一部の設定も、サム・ライミ版とは違っているが、しかし根本の精神は一致している。どちらかと言えば浮いた存在である、ごく普通の青年がひょんなことから優れた力を与えられる。それ故に味わった絶望を契機に、ヒーローとしての自分に目醒めていく、というベースラインに乱れはない。

 狙ったのかは解らないが、本篇にはサム・ライミ版3作品に分けて組み込まれていた主題、趣向を凝縮したような感がある。ヒーローとしての覚醒に加え、それ故に糾弾され追われる、という悩み。恋に関しての悩みも、旧シリーズで描かれていたものから抽出して表現したような印象がある。とりわけ、クライマックスでの劇的なシーンは、旧シリーズの最も見事なひと幕を別の方法で再現したかのようだ。

 他方で、旧シリーズでは積極的に触れられていなかった、両親がいないという事実を起点に、シリーズとして構築していく上で必要な伏線を張り巡らせているらしいことにも感銘を受ける。実際に続けられるかどうかはともかく、コミックの形で長年に亘って愛され、映画としても多くの観客の支持を集めたシリーズを再起動するにあたって、可能な限りの配慮を施して、万全を期しているのも快い。

 いささか贅沢に詰めこみすぎて、やや飽和気味になっている感も否めないが、しかしこれだけの要求に、最高のレベルで応えているのは間違いない。スタジオが2014年の続篇リリースを正式に決断したのも当然と言えよう――製作会社の胸先三寸であろうが、これだけ見事な仕上がりを実現したスタッフの再登板を祈りつつ、ピーター・パーカーの新たなる活躍を待ちたい。旧シリーズに思い入れが強く二の足を踏んでいる、というひとも、意欲に満ちたこの作品を、いちど3Dで観ておいて損はないはずだ。

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