『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段下に掲示されたポスター。

原題:“The Woman in Black” / 原作:スーザン・ヒル『黒衣の女 ある亡霊の物語』(ハヤカワ文庫・刊) / 監督:ジェームズ・ワトキンス / 脚本:ジェーン・ゴールドマン / 製作:リチャード・ジャクソン、サイモン・オークス、ブライアン・オリヴァー / 製作総指揮:トビン・アームブラスト、ニール・ダン、ガイ・イースト、ロイ・リー、グザヴィエ・マーチャン、マーク・シッパー、ナイジェル・シンクレア、タイラー・トンプソン / 撮影監督:ティム・モーリス=ジョーンズ / プロダクション・デザイナー:ケイヴ・クイン / 編集:ジョン・ハリス / 衣装:キース・マッデン / キャスティング:カレン・リンゼイ=スチュワート / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ダニエル・ラドクリフキアラン・ハインズジャネット・マクティア、ティム・マクマラン、ソフィー・スタッキー、ジェシカ・レイン、ミシャ・ハンドレイ / 配給:Broadmedia Studios

2012年イギリス、カナダ、スウェーデン合作 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:?

第25回東京国際映画祭特別招待作品

2012年12月1日日本公開

公式サイト : http://www.womaninblack.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/10/20)



[粗筋]

 ロンドンで弁護士として働くアーサー・キップス(ダニエル・ラドクリフ)は窮地に立たされていた。愛妻が出産とともに亡くなって以来、覇気を失ったアーサーは仕事が出来なくなり、経済的に逼迫している。雇い主である弁護士事務所は、最後通牒として、厄介な出張を命じた 。

 郊外にある“イールマーシュの館”でひとり暮らしをしていたドラブロウ夫人が亡くなり、館の権利が不透明になっている。地元のジェローム弁護士は非協力的で、遺書の有無が依然としてはっきりしていなかった。館にあるあらゆる文書を探り、権利を明確にすることがキップスに委ねられた仕事だった。

 せめて週末を一緒に過ごそうと、乳母に切符を託し、一人息子にあとで来るように言い含めて、キップスは汽車に乗り込む。目的地に向かう汽車の中で出逢ったサム・デイリー(キアラン・ハインズ)という紳士は気さくだったが、宿はキップスに普通の部屋を貸すことを拒み、ジェローム弁護士は今さら書類を揃えた、と言って、キップスに帰るよう諭す。住民たちの歓迎ぶりに違和感を覚えながら、キップスはそれでも仕事を果たすべく、御者に金を握らせて、馬車を館へと走らせた。

 イールマーシュの館は、満潮になると道が海に沈み、集落から孤立する小島のような場所に聳えている。馬車を帰したあと、後継者のいない館にはキップスひとりが取り残されるはずだったが、そこには異様な気配が漂っていた……

[感想]

 王道の英国怪談の薫り高き作品である。謎めいた無人の館に夜ごと現れる影、まとわりつく忌まわしい噂、追いつめられた男がそこに挑んでいく、という実に馴染み深いモチーフが幾重にも積み重ねられる。

 骨格は非常にオーソドックスだが、ディテールの掘り下げがまた優れている。何故か遺産処理の手続が進まない館、という設定も魅惑的だが、現地に赴く車中で声をかけてくる男、非協力的な弁護士、あちこちにちらつく人影……細かな要素が謎めき、不気味な牽引力を生み出す。

 この作品、ひとつ気になるのは主役のダニエル・ラドクリフである。子持ちで妻を亡くし、というにはいささか若すぎはしまいか、と感じるのは、たぶん私たちが彼について、未だハリー・ポッターというイメージで見てしまうせいだろう。冷静に見れば、この役柄は彼ぐらいの年齢で間違いないし、中盤、ほとんど一人芝居であることを思えば、かなりの好演だ。

 少々惜しまれるのは、恐怖の到来がやや画一的に描かれていることだろう。オーソドックスなので当たり前、と思われるかも知れないが、やはりもう少し工夫は欲しい。決して過剰に虚仮威しを仕掛けてはいない点は好感が持てるが、その分、仕掛けてくる部分が安易に感じられてしまうのである。

 とはいえ、決して怪奇現象のみで恐怖を醸成せず、状況を緻密に積み上げたうえで展開するクライマックスは味わい深い。或いは、こうした英国調の怪談に親しんでいなかったり、ホラーに幅広く接していない人には、いまひとつ伝わりにくい可能性もあるし、伝わっても“地味”という印象を受けるかも知れないが、狂騒的なスプラッタものや、ばっさりと断ち切るようなカタルシスを演出するスタイルのものとは異なるこの余韻もまた、ホラー映画、とりわけ“怪談”と呼ばれる類の作品群の面白さである。

 19世紀末のロンドンの空気を濃密に感じさせる美術、暗澹としつつも壮麗な映像もまた魅力的な1本である。若手俳優中心の凄惨としたホラー映画に倦んでいる、という方にお薦めしたい。

関連作品:

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