『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』

レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳 [Blu-ray]

原題:“精武風雲 陳真” / 英題:“Legend of the Fist : The Return of Chen Zhen” / 監督:アンドリュー・ラウ / 脚本:ゴードン・チャン、チェン・チーシン / 製作:ゴードン・チャン、アンドリュー・ラウ / アクション監督:ドニー・イェン / 撮影監督:アンドリュー・ラウ、ン・マンチン / 武術指導:谷垣健治 / 音楽:コンフォート・チャン / 出演:ドニー・イェンスー・チーアンソニー・ウォン、ホァン・ボー、ショーン・ユー、木幡竜、倉田保昭AKIRAEXILE)、シュー・ヤン、フォン・シーイェン、チェン・ジャージャー / 配給&映像ソフト発売元:TWIN

2010年中国作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:寺尾次郎

2011年9月27日日本公開

2012年10月12日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.ikarinotekken.com/

Blu-ray Discにて初見(2012/09/15)



[粗筋]

 1914年、フランス戦線。労働者として駆り出された多くの中国人の中に、チェン・ジェン(ドニー・イェン)の姿があった。かつて、日本人の横暴に対抗して道場に殴り込み、銃弾を浴びたはずの彼は、生き延びて同胞たちとともに戦地に赴いていたのだ。銃器を持たない立場ながら、抵抗するすべもなく倒されていく同胞を守るために、銃弾の雨をかいくぐって、ここでも彼は獅子奮迅の活躍を見せる。

 そうして第一次大戦には戦勝国となった中国だが、しかし間もなく日本の侵略を受け、青島を喪う。1925年、上海は列強諸国によって租界という形で分割され、大陸侵略の足掛かりを固めようとする日本は、上海での地位を拡大していった。

 この頃、チェン・ジェンもこの地にいた。チェン・ジェンの名前を捨て、死した戦友チー・ティエンユアンの名前を借りて、日本軍に対する反抗組織に加わり、地下で着々と活動を重ねている。各国の名士が集まるクラブ“カサブランカ”に潜入したチェン・ジェンは、オーナーであるリウ・ユティエン(アンソニー・ウォン)に接近、友人として親交を結びながら、情報を得ようとする。

 一方、日本軍の力石毅(木幡竜)は、“カサブランカ”に出入りしている部下たちから情報が漏れていたことを悟ると、強硬な手段に打って出た。上海の料亭で内戦中の軍を指揮する将軍らが、日本軍の専横に対抗するべく会談する、という情報を得ると、部下に襲撃させる。折しも近くに居合わせたチェン・ジェンは、ちょうど映画館に展示されていた黒い衣裳と仮面に身を包むと、鬼神の如き強さで暗殺者たちを一掃する。

 チェン・ジェンの行動は無謀だったが、しかし地下組織はにわかに現れた“仮面の戦士”を利用することを思いついた。“仮面の戦士”を英雄として祭りあげ、中国人の士気を向上させようと目論む。

 だが、日本軍もこの事態に手をつかねてはいなかった。日本に敵対する言動をする人々の処刑リストをあえて公表し、上海の社会に動揺をもたらす――

[感想]

 香港アクション映画の一つの金字塔として、『ドラゴン 怒りの鉄拳』という作品が存在する。個人的には、ブルース・リーを軸としたアクションは傑出しているが、ストーリー的には(日本人がやたらと悪人扱いされていることを除いても)かなり粗い内容だと思うのだが、原点に存在している故か、香港ではこれをベースに新しい作品が幾度も生み出されている。同じ監督が後継者としてジャッキー・チェンを発掘して撮った続篇『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』に、ジェット・リーを主演に据えた『フィスト・オブ・レジェンド』、そしてドニー・イェンが主演した連続ドラマ『精武門』がある。

 この作品もリメイク、という名目になっているが、しかし実際に観てみると、むしろ後日談的な位置づけになっている。同じドニー・イェン主演による長尺のリメイク『精武門』の続篇的位置づけなのかも、とも勘繰っているが、あいにく私は『精武門』本篇は未見であり断言は出来ない。

 しかし、どんな形であれ、本篇がオリジナル版に対する深い愛着、ブルース・リーに対する敬意で作られていることは疑いない。そしてオリジナルよりも、遥かに成熟した仕上がりの映画になっている。

 オリジナルはひたすらブルース・リー演じる主人公の義憤ばかりが誇張されていたが、この作品ではもっと冷静だ。闇雲に動き回ることはせず、同胞とともに地下組織でレジスタンス活動を重ねている。しかし、それでも同胞が狙われる事態に、顔を隠して戦いに打って出る。身許が特定できないように配慮しているわけだ。日本軍への敵愾心に燃えていることは同じでも、振る舞いに理性がある。

 そして、そんな彼の人物像を引き立てるように、ドラマ部分も緻密に補強されている。“仮面の戦士”を士気の鼓舞に利用する地下組織、列強が集うクラブを巧みな処世術で切り盛りしながら、中国人としての誇りもちらつかせる“カサブランカ”のオーナー。その“カサブランカ”の人気歌手として部下を送りこみ、チェン・ジェンたちよりも姑息に行動する日本軍。複数の思惑が入り乱れ、複雑なドラマが展開していく。そんな中で、自分の活動により同志はもとより、関係のない人々まで巻き込まれ息絶えていく状況に胸を痛めるチェン・ジェンの姿は、間違いなくオリジナルよりも深みがある。作中、様々な謀略の舞台となるクラブの名称が、往年の名作に登場するのと同じ“カサブランカ”であったり、己の正体を隠すためにチェン・ジェンが仮面をまとった姿が、ブルース・リーが国際的に認められるきっかけとなった『グリーン・ホーネット』で演じていたカトーを彷彿とさせるといった細かなくすぐりを加えつつも、ドラマの枠組は強固だ。

 日本軍がとことん悪役に描かれている、という点では、ある意味オリジナル以上かも知れない。終盤間際での行動は、日本人である私が観ていても胸くそが悪くなる。しかしこれも、倒されるべき悪役として際立たせるための工夫としては正しい。中国のこの時代を舞台にすれば、日本人が憎まれ役にされるのはそもそも不自然ではないし、事実そのままよりはフィクションの部分が多いのだから、あまり目くじらを立てるべきではあるまい――とはこの手の作品について触れるとき何度も言っていることではあるが。

 ドラマの部分を重視するあまり、割合は少なくなってしまっているが、しかしそれでも本篇のアクションは素晴らしいものがある。プロローグ部分、銃弾が飛び交う中、ナイフを咥えて駆け回り、次々と兵士を倒していくさまや、将軍を狙った暗殺者に対し、車を飛び越え猛烈な勢いで向かっていく姿、そしてクライマックス、相次ぐ侮辱に怒りを沸騰させ、包囲する日本人を次々と叩きのめすさま。伝統と言ってもいい“怪鳥音”に、ヌンチャクまで用いて戦っており、ブルース・リーへのオマージュとしてもさることながら、後継者と呼ばれる才能の真価を徹底的に見せつける。

 これだけ積み重ねた割に、若干結末にカタルシスが欠けているのが惜しまれるが、それも時代背景を踏まえ構築してきたドラマを思えば、誠実な幕引きと言えるだろう。そしてまた、この終焉は、主演したドニー・イェンを筆頭とするブルース・リーのファンたちの願望を形にしている、とも言える。

 オリジナルに対する敬意を払いつつも、決してそのレベルで留まらず、現代ならではの洗練された表現で、オリジナルに新たな力を与えている。リメイクという方法論の、ひとつの理想型と言っていい名品である。

関連作品:

ドラゴン 怒りの鉄拳

レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳

イップ・マン 序章

イップ・マン 葉問

風雲 ストームライダーズ

インファナル・アフェア

孫文の義士団 −ボディガード&アサシンズ−

死の森

やがて哀しき復讐者

新宿インシデント

アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン

カサブランカ

グリーン・ホーネット

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