『ドニー・イェン 邪神拳』

ドニー・イェン 邪神拳 [DVD]

原題:“魔唇劫” / 英題:“The Holy Virgin Versus Evil Dead” / 監督&製作:トミー・ウォン / 脚本:リー・ホークワン / 製作総指揮:ツイ・ファイ / 撮影監督:ウォン・ジェー、ウォン・カーファイ / 美術:コー・プイイー / アクション監督:ラン・サン、ファン・チンハン / 編集:チェン・ケン / 音楽:タン・シューラム / 出演:ドニー・イェン、ベン・ラム、シベール・フー、キャシー・チャウ、ポーリン・ヤン、ロー・ワイコン、ムーン・リー、コー・ハン / 映像ソフト発売元:竹書房

1991年香港作品 / 上映時間:1時間27分 / 日本語字幕:?

日本劇場未公開

2006年3月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/09/22)



[粗筋]

 大学で教鞭を執るシャン・チンフェイ(ドニー・イェン)が教え子の女性達とバーベキューに興じていたとき、異様な風体の男に襲われた。女性達はみな惨殺され、犯人と格闘の末昏倒していたシャンは容疑者として一時警察に拘束される。

 大学学長の尽力で保釈されたシャンは、自らの無実の証明と、教え子達の仇を討つために、自ら犯人捜しに乗り出した。そんな矢先、似たような手口で殺された女性が発見される。そこには髭を生やした風変わりな女神像が祀られた祭壇があり、シャンはこの奇妙な宗教が関係していると考え、図書館の館長であり、宗教に詳しいチョ女史(キャシー・チャウ)のもとを訪ねて情報を得た。

 チョ女史によると、古代のカンボジアで、相次いだ大災害から人々を救った女神を信仰する宗教が存在したという。その神が現れる直前、月が赤く染まる、という伝説を知って、シャンは慄然とした――彼と教え子達が襲われたとき、確かに月が赤く染まったのだ。

 一方、保釈されたシャンを未だ疑い、彼を泳がせて情報を探っていたチャン刑事(ベン・ラム)は、チョ女史を呼び出し、事情を訊ねる。そこへ、忽然と犯人が現れた――

[感想]

 往年の香港映画のいい加減ぶりにはもうそろそろ慣れたつもりでいたが、まだ甘かったらしい。この作品は、ほとんど異次元のレベルだった。

 冒頭10分程度で、あまりのツッコミどころの多さに疲れ果てるほどである。謎の怪人が、きっかけもよく解らないまま、バーベキューの最中の学生達を襲撃する。それに、のちのち“教養のある文化人”と評される主人公シャンが、のっけから異様な強さで立ち向かうも、空を飛ぶほどの怪人に太刀打ち出来ない。そして怪人は、シャンを何故か生かしたまま、教え子の女性達だけ襲って消えてしまう。そして警察は、人間がやったとは思えないこの状況で、何故かシャンを犯人扱いしている。

 こうした不自然さがあとでフォローされることもなく、最後まで終始、ツッコミどころだらけで話が進む。正直なところ、あまりにツッコミどころだらけで、鑑賞後時間を経過したいま、全体の筋を思い出せないほどである。

 題名に“邪神”が含まれていることから解る通り、本篇はカンフー映画にオカルトの要素が絡められているが、これも愛好家を苦笑させる性質の内容だ。背景として用いられている、カンボジアの部族のひどい描写は見逃すとしても、怪異について明白なルールが敷かれていないので、それが恐怖を演出することもなければ、展開に緊張感をもたらすことも、カタルシスを与えることもない。

 それどころか、普通の人物描写まで違和感がある。研究者が何故かべらぼうに強い、ことぐらいはまあギリギリお約束と許しても、周囲の人間関係や関係性にまったく、と言っていいほど意味がない。別れる寸前の夫婦である、という主人公の状況や、妻の新しい恋人が捜査を担当する刑事、というあまりに深刻な様相も大した役を成していないし、もっとひどいのは女性刑事だ。シベール・フーという、まだあまり香港映画を深く理解していない私でも名前を知っているくらいの女優を起用しているのに、まるで活躍しない。彼女の退場するくだりに至っては、ギャグとしか思えないほどだ。

 肝心要のドニー・イェンにしても、強いわりには終始役に立たない。いちおう動きのキレでは魅せるし、クライマックスでは華々しく活躍するが、それまでの言動はほとんど“ダメなひと”である。アクションさえ楽しめればあとはもう何でも、というひとでも、ちょっとこれでは物足りなさすぎるのではなかろうか。

 序盤からアクションの辻褄が合わなかったり、演出がまったく活きない雑な編集をしていて、正直かなり早い段階で辛くなってくるのだが、割り切ってそのユルさを楽しむぐらいの姿勢であれば楽しめるかも知れない――翻って、そのくらいの心積もりでないと、ちょっと受け付けがたい作品だろう。往年のいい加減極まる香港映画の超典型とも呼べる仕上がりは、ある意味では魅力的ではあるのだけど。

 なおこの作品、Wikipediaを筆頭に、香港映画の大物ジミー・ウォングの監督作品と記載されているところが多いが、検索をかけてみると、トミー・ウォンの誤記である、という指摘が多い。どちらが正解なのか、そもそもマイナーな作品ということもあって私には断定しづらいのだが、多くの愛好家の言葉を信じて、ここではトミー・ウォン監督作品と記した。

関連作品:

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー

捜査官X

バレット・モンク

メダリオン

コメント

タイトルとURLをコピーしました