『隣の家の少女』

隣の家の少女 [DVD]

原題:“The Girl Next Door” / 原作:ジャック・ケッチャム(扶桑社文庫・刊) / 監督:グレゴリー・M・ウィルソン / 脚本:ダニエル・ファーランズ、フィリップ・ナットマン / 製作:ウィリアム・M・ミラー、アンドリュー・ヴァン・デン・ハウテン / 製作総指揮:マリウス・カーデル、アルバート・ポーデル / 撮影監督:ウィリアム・M・ミラー / プロダクション・デザイナー:クリスタ・ゴール / 編集:M・J・フィオーレ / 衣装:マイケル・ベヴィンズ / 音楽:ライアン・ショア / 出演:ブライス・オーファース、ダニエル・マンチ、ブランチ・ベイカー、グレアム・パトリック・マーティン、ウィリアム・アザートン、ベンジャミン・ロス・カプラン、マデリン・テイラー、オースティン・ウィリアムズ、グラント・ショウ、キャサリン・メアリー・スチュワート / モダーン・ガール製作 / 配給:KING RECORDS×iae / 映像ソフト発売元:KING RECORDS

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:?

2010年3月13日日本公開

2010年9月8日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/10/07)



[粗筋]

 1958年、デヴィッド・モラン(ダニエル・マンチ)の人生は、その夏を境に一変した。

 友好的な付き合いをしている隣のチャンドラー家に、メグ(ブライス・オーファース)とスーザン(マデリン・テイラー)という姉妹が加わった。両親と一緒に大きな事故に遭遇し、叔母であるルース(ブランチ・ベイカー)のもとに引き取られたのだという。ひと目逢うなり、デヴィッドはメグにほのかな憧れを抱く。

 だが、逢うたびにメグの表情は暗くなっていった。ルースはこの姉妹、とりわけメグに対し、異常なほど厳しく接していたのだ。実子たちより行儀よくすることを要求し、罰として食事を抜く。

 好きだった水彩画も自由に出来ない、というメグの言葉に、デヴィッドは一計を講じ、頼んで描いてもらった絵をルースへのプレゼントとして渡し、彼女に関心を持つように仕向けようとした。

 しかし、ルースはデヴィッドの幼稚な策略をあっさり見抜くと、メグを“娼婦”呼ばわりする。男の歓心を惹くためにものを提供する人間をそう呼ぶのだ、と。

 以来、メグの境遇はますます悪化の一途を辿っていく。デヴィッドはメグを思いやりながらも、なす術はなかった……

[感想]

 海外のエンタテインメント小説にある程度通じたひとなら、本篇の原作について、読んだ経験はなくとも多少の知識があるかも知れない。そのおぞましい結末ゆえに、未だ伝説となっている作品である。原作者のジャック・ケッチャムという人物は、人間の暗部を抉る題材を好んで選択し、未だに読書界をしばしば騒然とさせているのだが、初期作品である本篇の原作は中でもその後味の悪さで有名だった。

 そういうテイストのものが個人的には非常に好きなので、いずれ読んでみたい、と思いつつなかなか機会がなく、原作には触れないまま、月額レンタルのリストに登録してあった本篇のDVDが届いたところで先に観ることとなった。前提があったが故に、非常に身構えての鑑賞だったのだが――そういう意味ではいささか拍子抜けをしたことは否めない。

 無論、恐らくほとんどの人にとっては、予備知識があっても衝撃的な内容であろう。少年の目線から、ほのかな憧れを抱いていた少女の壮絶な運命を目撃する、その成り行きは良識ある人々にとって正視に堪えないはずだ。観終わって、こんなものを作るスタッフ、ひいては原作者に憤りを覚えるひともいるかも知れない。

 ただ、ここで描かれる出来事は決して想像できないものではない。登場人物の価値観、置かれた状況を考えると、辿り着くことは容易なのだ。だから、“悲劇”であることに異論はないし、虫酸の走るような出来事であるのも認めるのだが、観ていて察しがつくので、当初覚悟していたほどの衝撃はない。

 また、予想していたよりもずっと表現に節度があったのも、衝撃を和らげてしまった。少しずつショッキングな出来事が起きていくが、いずれも見るに耐えないような部分については間接的に表現するに留めている。日本ではレイトショー公開だったせいかレーティングが確認出来ないのだが、恐らく極端な制約を受けないように施した配慮が、必要以上に効果を上げてしまった感がある。

 そうして、場面場面のインパクトが薄れた結果、私のようなすれっからしには“薄味”という印象を与える仕上がりになってしまったが、しかし一連の出来事のおぞましさ、それが視点人物である少年に与えた影響の大きさなど、本質的な部分はかなり巧みに描き出されている。ほのかな憧れが、少女を捕えるしがらみによって汚されていく絶望は、たぶん稀有だろうが、少しでも似たような経験を持つひとは古傷を抉られる心境を味わうのではなかろうか。

 ショッキングな物語、という意味では力を損なった感のある本篇ながら、しかし少年時代の苦い記憶を描いた青春物語としての重量はある。あのクライマックスの哀しさ、虚しさにほんの少し滲む甘い感傷は秀逸だ――ただこれも、一連の経緯の衝撃が損なわれなければ、もっと豊潤だったのでは、と惜しまれる点なのだが。

 間違いなく、良識のある人には好まれない作品である。だが、強烈な衝撃を求めるひとにはいささか物足りない。しかし、一定の完成度は備えている――という、お薦めする対象に困る作品である。もっと振り切れてくれた方が、話はしやすいのだけど。

関連作品:

THE LOST 失われた黒い夏

スタンド・バイ・ミー

トールマン

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