『ダイナソー・プロジェクト』

TOHOシネマズ西新井、上映スクリーン前に掲示されたチラシ。

原題:“The Dinosaur Project” / 監督&脚本:シド・ベネット / 原案:シド・ベネット、トム・ペリダム / 脚本補:ジェイ・バス / 製作:ニック・ヒル / 撮影監督:トム・ペリダム / プロダクション・デザイナー:フランツ・ルイス / VFX:ジェリーフィッシュ・ピクチャーズ / 編集:ベン・レスター / 衣装:ジョアン・ウォルター / キャスティング:ケリー・ヴァレンタイン・ヘンドリー、ヴィクター・ジェンキンス / 音楽:リチャード・ブレア=オリファント / 出演:マット・ケイン、リチャード・ディレイン、ピーター・ブルック、ナターシャ・ローリング、アベナ・アイヴォール、スティーヴン・ジェニングス / ムーンライティング・フィルムズ製作 / 配給:SYNCA

2012年イギリス作品 / 上映時間:1時間23分 / 日本語字幕:?

2013年3月16日日本公開

公式サイト : http://www.dinosaurproject.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/03/26)



[粗筋]

 近年、コンゴでたびたび、未知の生物が目撃されている。“モケーレ・ムベンベ”と呼ばれるUMAである、とされる一方で、太古から未開の土地で生き残った恐竜たちではないか――という話もまことしやかに囁かれていた。

 謎の巨大生物が動画で記録されるに至って、専門家がついに動き始めた。英国未確認生物学会に所属する、動物学者にして冒険家であるジョナサン・マーチャント(リチャード・ディレイン)が中心となって調査隊を組織、テレビ局クルーと共に現地へと赴く。

 だが、調査行は最初から予想外の事態に見舞われる。預けていくはずだった15歳の息子ルーク(マット・ケイン)がコンゴまで同行したうえ、ジャングル奥地へと調査隊を送り届けるヘリコプターに隠れてついてきてしまったのだ。ジョナサンは戻るように言うが、既にガソリンは必要最小限しかない。やむなくそのまま移動を続けていると、窓の外に見知らぬ影が舞った。それは、避ける間もなくヘリコプターに突入し、制御不能となった機体はジャングルのど真ん中に墜落する。

 マーチャント親子と調査隊のメンバーは無事だったが、運転手は墜落の衝撃で死亡、ヘリコプターも爆発炎上して、一同は帰投する手段を失ってしまう。

 やむなくジョナサンは、ヘリコプターから確認していた近くの村落に避難するよう指示するが、村落に人影はなく、異様に荒らされている。それでも雨露をしのげるだけましだ、と考え、一同は家屋を利用し身体を休めた。万一を考え、機械の扱いに長けたルークは、家屋の外に動体検知機能を搭載したカメラを設置しておいたが、その夜更け、カメラは驚くべきものを記録する……。

[感想]

 当初、この作品に対して関心は持っていなかった。題名も売り方も、やや低い年齢層を対象にした冒険もの、というイメージがあったからである。それが、急遽観ることに決めたのは、時間があった……というのではなく、本篇がいわゆるファインディング・フッテージの手法で製作されている、と知ったからだ。

 昨今、これを含むいわゆる主観視点撮影方式の映画は、低予算でもそれなりの臨場感が演出できてしまうこともあって、あまりに浸透しすぎ、いまや食傷している、というひとも多いようだが、私自身は、明確な創意を加えやすいこの趣向を用いている、と聞くと、とりあえず観てみたくなる。また、実写自体は低予算でも、CGや特撮を加えて、あり得ないヴィジュアルを展開する、という趣向にすれば、手法が持つ臨場感をより活かすことが出来る。本篇のような、現代に生きる恐竜の姿を捉える、という発想には、最適のはずなのだ。

 そういう意味で、本篇はかなり期待に応えている、と言っていい。監督はもともと、現在存在しない生物や、実際には確認出来ない生態を再現した映像作品で評価された人物であり、リサーチや表現については充分すぎるスキルを備えている。それを主観視点撮影というかたちで巧妙に織り込み、本当に恐竜たちと遭遇しているかのような感覚をもたらすことに成功している。一部では、懐いた恐竜の首にカメラをつけ、その視点から撮影する、という趣向まで加えていて、そつがない。

 ただ、全般に少々、出来過ぎている、というイメージを抱かせる作りになっている。あとの加工を容易にすると共に、恐らくは不慣れな観客の抵抗を少なくするために、主観視点撮影にありがちな手ブレを最小限に留めていることと、同様の趣向の作品と比べて、あまりに都合よく未知の生物や出来事が映り込んでしまっている、というのがひとつの要因となっている。

 更に、ストーリー自体が非常に有り体なのも、出来過ぎ、というイメージを助長している。撮影者の立場から物語を捉えているからこそ、わざとらしい盛り上がりを排除することでリアリティを付与するのがこのスタイルの定石なのだが、本篇は冒険もののありがちなストーリーをなぞっている。親子関係や、一緒に冒険する仲間たちのあいだの確執、終盤には逆転劇めいたものも描かれるが、ことごとく定石通りで、フィクションを多く漁っているようなひとならあっさりと見抜くことが出来るだろう。その安易さは、作品全体を幼稚に見せてしまい、撮影手法に惹かれて観るようなマニアからすると、不満を覚えるかも知れない。

 しかし、そもそも本篇は、広範な年齢層、表現手法にこだわりすぎないライトな観客を想定して製作されていた、と考えられる。人物関係のシンプルさや展開の明瞭さは、物語としての牽引力をいちばん手っ取り早く実現し、現代に生きる恐竜の世界を体感させる、という目的を阻害しない。めったやたらにカメラを揺すったりせず、見せるところでは惜しみなく未知の存在の全貌を披露する、という作りも、うるさ型には不満でも、早めに刺激を求めるようなひとには解りやすいはずだ。

 そうは言っても、あまりに解りやすい話を意図しすぎたせいだろう、作中の進化した恐竜たちの生態はかなり丁寧に考証を施したことが窺われるが、登場人物たちがろくに言及せず、ほとんどなおざりに扱われているのは少々勿体ない。生き残ることを優先せざるを得ない展開の都合、致し方ないのも察しはつくが、そこを敢えて窮状にあっても研究に邁進する人物を組み込む、或いはもっと特殊性を活かす描写があれば、より広範な層に訴える作品になったのではないか。

 志は高いし、映像作りのレベルも非常に高い。プロットにおいても配慮は認められるが、もうひとつ突き抜けていない物足りなさがある。だが、未知の世界に身を置く面白さ、興奮をリアルに体感する、という趣向は充分に完成されており、知的かつ本能を刺激するスリルを望むなら、かなり応えてくれるはずだ。

関連作品:

キング・コング

サウンド・オブ・サンダー

ツリー・オブ・ライフ

クローバーフィールド/HAKAISHA

トロール・ハンター

ウォーター・ホース

ダークナイト

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