『オズ はじまりの戦い(3D・字幕)』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段下に掲示されたポスター。

原題:“Oz : The Great and Powerful” / 原作:ライマン・フランク・ボーム / 監督:サム・ライミ / 脚本:ミッチェル・カプナー、デヴィッド・リンゼイ=アベアー / 製作:ジョー・ロス / 製作総指揮:グラント・カーティス、パラク・パテル、フィリップ・ステュアー、ジョシュア・ドーネン / 撮影監督:ピーター・デミング,ASC / プロダクション・デザイナー:ロバート・ストロンバーグ / 編集:ボブ・ムラウスキー,A.C.E. / 衣装:ゲイリー・ジョーンズ、マイケル・クッチェ / キャスティング:ジョン・パプシデラ / 視覚効果監修:スコット・ストクダイク / 視覚効果&アニメーション:ソニー・イメージワークス / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:ジェームズ・フランコミラ・クニスレイチェル・ワイズミシェル・ウィリアムズザック・ブラフジョーイ・キング、ビル・コッブス、トニー・コックス、ブルース・キャンベル / 配給:Walt Disney Studios Japan

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:松浦美奈

2013年3月8日日本公開

公式サイト : http://disney.jp/oz-hajimari/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/04/25)



[粗筋]

 オスカー・ゾロアスター、通称オズ(ジェームズ・フランコ)は移動サーカス団でマジシャンとして働いている。奇術の腕は確かだが、人気に結びつかず、いつか大物になる、という夢だけを抱えてくすぶる日々を送っている。身勝手でお調子者の彼は、オルゴールのプレゼントを武器に多くの女性に色目を使っていたが、その悪事がばれて追われる羽目となり、窮した挙句に気球に乗り込んで逃げ出した――不運にも、竜巻が訪れていたそのときに。

 竜巻に巻き込まれ、己の愚かな振る舞いを嘆いていたオズだったが、気づけば見知らぬ土地に不時着し、九死に一生を得た。見たこともない花々が咲き乱れ、妖精たちが踊る不思議な場所に戸惑っていると、ひとりの美しい女がオズに声をかけてきた。

 彼女、セオドラ(ミラ・クニス)は空から舞い降りてきたオズを見て、非業の死を遂げた王の予言通りだ、と告げる。あなたこそ、悪い魔女によって苦しめられるこの“オズの国”を救う魔法使いなのだ。そして、新たな王として国を統べて欲しい、と。

 不遇の日々にうんざりしていたオズは、いささか羽振りの良すぎるこの話にあっさりと乗った。このお調子者は、だが同時に手品師として腕に覚えはある。見せられたオズの“魔術”にセオドラは確信を深め、彼と共に、先王が財産を遺したエメラルド・シティへと赴いた。

 しかし、いざ町に着いてみると、セオドラの姉で王の世話役というエディノラ(レイチェル・ワイズ)は、王座に就くためには、闇の森に潜む邪悪な魔女を倒さねばならない、という。魔法使いならぬただの奇術師であるオズはにわかに尻込みするが、絢爛たる城の佇まい、宝物庫を埋めつくす財宝に目がくらみ、結局魔女討伐に向かうことを約束する。

 城をあとにした時点ではもはや意気阻喪し、逃げ帰ることを考えはじめたオズだったが、道中、見つけた火の手に愕然とした。そこは陶器で出来たひとびとの町だったが、予言にある魔法使いの到来に歓喜していたところを、邪悪な魔女の軍勢に襲われ、なすすべもなく壊滅していたのである。たったひとり生き延びた陶器の少女(ジョーイ・キング)を辛うじて救い出したオズは、改めて闇の森へと足を向ける。

 オズは気づいていなかった。既に“邪悪な魔女”の奸計が、無力な彼を網にかけようとしていたことに……

[感想]

 実は『オズの魔法使い』という作品に、本でも映画でもアニメでも、まともに接した覚えがない。ドロシーや、欠陥のある仲間たち、といったごく基本的な設定の知識はあるが、本体に接したことがないので、そもそも“オズの魔法使い”がどういう存在かもまともに知らずに観に行き、鑑賞後にプログラムを読むまでどういうふうに原作にリンクさせていたのかも解らなかった。だが、それでもまったく問題なく楽しめたのだから、単独としての完成度の高さはその一点からも窺える。

 恐らく本篇がこういう物語になったのは、原作の精神を受け継いでいるからこそなのだろうが、感心するのは、ファンタジーとしてのイマジネーションの奔放さがありながら、決して話が御都合主義には陥っていないことだ。英雄に祭りあげられた人間がいきなり神憑りな強さを示すこともなければ、すべての登場人物がこのいささか矮小な主人公の口から出任せを信じこんでいるわけでもない。そういう状況のなかで、主人公が経験を積み、変化し、そして自分が本来持っている能力でこの窮地を脱しようと試みる。そういう過程が、本篇は非常にしっかりと描かれている。

 とはいえ、話に晦渋なところはない。若干、人物配置が入り乱れて、果たしてこんなふうに誤解や無理解が持続するだろうか、という疑問を抱かせる部分もないではないが、しかしそれを非常にシンプルに伝える構成は巧い。早い段階で生じる逆転の驚きや、本質的に実行力の伴わない主人公を奮起させるに至る布石が堅実で、冒険物語として実に理想的な仕上がりだ。

 最終的にオズが国を救うための手立てが、魔法が存在する世界でありながら、そこに頼っていない点にとりわけ好感を抱く。しかもその際に用いる要素の選択も快い。設定に対して無理がなく、きちんと布石も用意されているので、一連の計略がもたらす爽快感は極上だ。

 ファンタジー、それも3D上映での作品となると、やはり映像のクオリティも求めたくなるが、その点も申し分ない。水晶の林立する山岳や、ひとの訪れを感知して開く大きな花、花びらのように樹に群がる蝶、といった現実には存在しない自然の光景の美しさもさることながら、初っぱなに登場する水の精霊や、邪悪な魔女の使い魔である翼のあるヒヒのような、未知の生物のヴィジュアルがいい意味で薄気味悪いのである。世の中には決して見場のいい生き物ばかりではないし、子供たちが見場のいいものばかりを好むわけではない――近ごろのフィクションではこの辺りをわきまえてデザインに工夫を凝らしているが、映画界で名を広めるきっかけとなったのがホラー映画の名作であったサム・ライミ監督が指揮を執る造形は加減が絶妙だ。拒絶反応を起こすほどではないが、登場すると嫌悪感をもたらす。しかも、そういう不気味さを強調しすぎず、抑え加減のホラー映画めいた手法でひらひらとちらつかせるから、随所でアクセントとして機能し、物語の躍動感を手助けしている。ピーター・ジャクソンギレルモ・デル・トロもそうだが、ホラー映画作りを経験しているひとほど、実はファンタジー的な要素を転がすのに適しているのかも知れない。

 しかし私が本篇に感銘を受け、これはいい作品だ、と確信をしたのは、実はかなり早いタイミングでのことだった。それはプロローグとなるパート、現実の19世紀アメリカから、ファンタジー世界へと移るくだりである。本篇において、本来の世界での出来事はモノトーンで描かれている。それがファンタジー世界に突入すると途端に極彩色になる――というのは趣向として決して珍しくない。そもそも予告篇ではちゃんとカラーだったのだから、このアイディアは最初から予想がつく。私が唸らされたのは、現実世界での出来事が、4:3の画面のなかに収まっていたことである。これ自体も趣向としてはさほど新奇なものではないが、しかしそれが本来の16:9のフレームに戻った瞬間のとあるアイディアに、ぞくり、とした。実のところこれも、過去の作品に類例はあるはずだが、本篇ほど効果的に用いた例は寡聞にして思い出せない。あの瞬間の、異世界に跳躍するかのような感覚は逸品だ。

 非現実の世界へ飛び込んでいく感覚を見事に表現し、私たちが本来ある世界を生きていくために必要な、非現実でない勇気を与えてくれる――これは空想冒険物語の、いちばん理想的なかたちのひとつだろう。本篇はそれを、高いレベルで実現している。

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